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7章 更なる強さを求めて

196 発想の転換

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「そうか。魔装術を使えないと使い物にならないって、それに囚われすぎていたみてぇだ……。
 高速回転する硬いモンがあたりゃあ、最低限の殺傷力はあるんだよ。もちろん第一線級の武器にはなれねぇだろうが」


 マーサはなにかアイディアが湧いたみたいだ。っていうか今回の俺の依頼になんも関係ない話なんだけどなぁ。まぁ俺も乗っちゃったししゃーないか。
 それに正直、魔力で自由自在に動かせる回転刃とかめっちゃロマンあるから、俺だって完成品に興味はあるんだよな。

 それに魔物を想定しているから使えないんであって、例えば対人戦を想定するなら、魔装術を使ってなければそこまで強固な防御力って発揮できないはずだからな。変則武器としてめっちゃ有効な気がする。


「それにしてもトーマはよくダーティ素材を使おうなんて思うな?冒険者でダーティ素材に触れたことがある奴なんているのかよ?」


 ホムロさーん、一流の鍛冶職人に言われてますよー?


「俺って始め全く金がなかったら、銅板8枚で買ったダーティウッドの棍棒を握りしめて迷宮に入ってたんだよ」

「へぇ!それが今では魔物武器を使うまでになったってのか!ロマンあるじゃねぇか!」


 そう言われると悪い気はしないけど、実際は金が無かっただけだからな。あんなもん。


「実は魔力を一切通さない素材ってのがあるんだ。『絶縁液』って言うんだけどな。あんまり使い道がねぇ素材で一般にはあまり知られてねぇ。
 高等級の冒険者パーティで、盾役がたまに利用する程度の魔法薬だな。
 絶縁液をかけると、かけられた装備は一切魔力を通さなくなる。
 ただそれだけじゃあ使えねぇ。魔装術も通さなくなっちまうわけだからな」

「買っていく奴は、敵の強力な魔法攻撃とかの対策として買っていくってわけだ」

「そうだ。ブラックメタルとかの、元々の強度が高い素材に使う場合が多いな。
 くくく……、あーはっはっは!まさかダーティ素材がここで活きて来るとはな!恐れ入ったぜトーマ!」

「いくら魔力を通さないったって、肝心のダーティ素材の強度は運用に耐えられるもんなのか?」

「ああ?なんだトーマ、棍棒使ってた癖に知らねぇのかよ。
 ダーティ素材ってのは魔力抵抗が全く無い素材なんだがよ。逆に言やぁ、なんだよ。
 高速で敵にぶつけようが、魔力さえ通さなきゃ全く心配いらねぇんだ」

「はぁ!?そうなの!?っていうかそんな素材どうやって加工……、そうか、魔装術か?」

「正解だ。ダーティ素材ってのは木だろうが石だろうが、魔装術を使えば抵抗なく切れちまうからな。加工自体はめちゃくちゃ簡単なんだよ」

「……いやいや、それじゃダーティ素材に絶縁液使ったら最強の防具になんじゃん?魔装術要らねぇだろそれ」

「理論上はな。当たり前だけどそんな上手い話はねぇ。
 魔力を一切通さなくなるから、装備に付与された魔法効果も全て消失しちまう。
 それに絶縁液の効果はそこまで持ちゃしねぇ。上級でも3日くらいしかもたねぇだろな。
 ……だがよ、逆に言えば3日はもつんだ。戦闘に運用するには問題ない期間じゃねぇか?」


 毎日欠かさずメンテナンスすると仮定するならば、充分使える武器ってことになる……、のか?


「つうかさ、俺のいたベイクって街の迷宮では、3階層のレッサーコボルト相手に剣がボロボロにされたんだけどさ。ダーティ素材で作った武器なら補修再生の必要性も無いんじゃねぇのか?なんで流通してない……?」

「あ~、それは耳が痛ぇな。私もそうだったけど、魔力に弱いダーティ素材を活かすって発想が、全くないんじゃねぇか?
 なんつっても戦闘の基本は魔装術だからよ。ダーティウッドの棍棒なんてもんを扱ってる店があることさえ驚きだ」

「は?その店の店主は、金欠の冒険者のために、どこの店でも1つ2つはダーティ素材装備置いてるって言ってたぞ?」

「はっ!粋な店長じゃねぇか!金欠冒険者のために、わざわざ自分で作って置いてあったんだろうよ。
 それで今トーマが生きて私に会いに来てるってんだから、運命を感じずにはいられねぇな!お礼を言いたい気分だぜ!」


 ……なんだよ。やっぱりホムロもめんどくさいおっさんだったか。やっぱおっさんたる者、めんどくさく生きてこそだよな。
 ったく、ずっと世話になってきたけど、本当に最初っから世話になってたとはね。


「トーマよぉ!お前ってゲート使えんだよな?俺もベイクに連れてってくんねぇか?
 どうせミルズレンダに居ても未来はねぇしな。こんな店畳んで、お前の装備作るほうが楽しそうだ!
 その店の店主にも会ってみてぇしな!毎日ふわわちゃんとつららちゃんと一緒に暮らせるとか夢のようだしよ!どうだトーマ!?」

「ちょちょちょまてまてマーサルさん待って待って!?
 マーサルさん一応シルバーライト級なんだよ!?そんな簡単に出て行けるわけないっしょ!?」

「はっ!シルバーライト級ったって、素材を回してもくれねぇこんな街に居たって仕事なんか出来ねぇだろうが!
 育ててもらった恩はあるがよ。恩はあっても未来がねぇんだよ。ここに居る限りはな。
 別に私が居なくなっても他の職人連中に迷惑かかるわけじゃねぇし、勝手にさせてもらうぜ」

「俺としちゃ専属の一流鍛冶職人とか断る理由全く無いけどさ。アルの反応的に、勝手して良さそうには見えないぞ?面倒事は抱え込みたくないんだが」

「ああ、職人にも等級があってな?一定以上の等級の職人は、ミルズレンダを出るには許可が要るんだよ。
 これでも私は『月光銀シルバーライト級』っつって、最高級扱いの職人なんでな。許可なく移住する事はできねぇんだが、なら許可を取るだけだ。
 実際このままここに居たってなんにも出来ねぇんだからな。
 アルだってウチの現状は見てきただろうが?ミルズレンダに居たら私は死ぬだけだ。
 人としても職人としてもな」

「確かにマーサルさんの店が苦しいのは知ってるけど、それとこれとは話が別っしょ!
 マーサルさんはトレイポール工房の技術を完全に受け継いでる、最高峰の職人なんだよ!?ミルズレンダを出て行く許可なんて下りるわけが無いでしょ!」

「知ったことかよ!!!トレイポール工房の技術を受け継いだ最高峰の職人様とやらに、このミルズレンダはいったい何をしてきた!?どういう扱いをしてきたんだ!?
 お前は見てきただろうが!!全部全部、お前はその目で見てきただろうがよ!!!
 そのお前が、私にミルズレンダでこのまま死ねって言ってんのか!!?どうなんだよアル!!!」

「だから!だから俺がギルドで偉くなって、マーサルさんの待遇を変えてみせるって、約束したじゃん!!
 ちゃんとギルド員になって、ちゃんと真面目に働いて、出世してマーサルさんを助けてみせるって言ったでしょ!!!」

「はっ!他の街ならともかく、ここミルズレンダの商工ギルドで偉くなってもそんなことできねぇさ。たとえギルドマスターになったとしても、職人に逆らえないのがミルズレンダのルールだ。
 ギルドに入って、むしろそういう場面を見ることが多くなってきたんじゃねぇのか?
 それにワリーけどさ。アルが商工ギルドで偉くなるまで、私にずっとこのまま我慢してろって、ふざけんなよ?
 お前も言ったろ?私は職人なんだよ。鍛冶をしなけりゃ生きていけねぇんだよ。私にとって鍛冶ってのは呼吸と一緒だ。
 ミルズレンダに私の居場所が無いように、私にとってもミルズレンダに居続ける理由なんざ一切無いね」


 アルはマーサのことが好きなのかもな。でもそれでマーサの自由を奪うことは出来ないか。

 まぁ一番の元凶はミルズレンダの職人優遇措置なんだろうけど、そんなもん俺にとってはどうでもいい。

 腕の良い職人が仲間になってくれそうだし、ミルズレンダには感謝してもいいくらいだ。


 ありがとう、マーサを冷遇してくれていたクソども。
 お礼に厄介者は引き取って差し上げますよ。
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