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7章 更なる強さを求めて
199 不穏な流れ
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「お久しぶりというほどでもありませんわね。御機嫌ようトーマさん」
「はい。ディオーヌ様もお変わりないようで何よりです。
シンは今日昇級試験のために不在で申し訳ないですけど、お時間頂いてありがとうございます」
まさか今日話が出来るとも思ってなかったから、ちょっとこの展開の速さについていけていないけど、話が早くて困ることはない。
「まずはトーマさんの用件から済ませましょうか。魔物の分布に詳しい人間を紹介して欲しい、ということでしたね。
残念ながら直接の知り合いはおりませんが、心当たりはあります。
1つは王都の『迷宮研究院』を訪ねること、もう1つは『探求都市ウィルスレイア』で紹介してもらうことですね」
「迷宮研究院ってのは名前の通りなんでしょうけど、探求都市ってのはどんなところなんですか?」
「探求都市ウィルスレイアは、風のシルグリイド家が治めている都市でして。学問や研究に力を入れている都市なのです。
どんな分野であれ、知的好奇心と熱意が本物であれば受け入れられる、そんな場所なのです。
迷宮研究院は正に名前の通り、迷宮の研究を行う施設ですから、魔物素材のことが知りたいトーマさんにとっては少し目的とズレているかとは思いますが、それでも他の人間に比べれば魔物に対する知識は豊富なはずです」
「なるほど……。ではウィルスレイアに一度行ってみて、そこで望む人材に出会えなかった場合に迷宮研究院を訪ねる、という流れが良さそうですね」
「それと、トーマさんは異邦人ですのでもしかしたらご存じないかも知れませんが、魔物素材を専門に扱っているのは狩人ギルドなんですよ。
ベイクにもありますから、一度そちらのほうに顔を出してみることもオススメしましょう」
「狩人ギルド……、ですか。知りませんでした。どうもありがとうございます」
名前からして、迷宮の外の魔物を倒すのが専門のギルドなのかな?
そういえば魔物素材って冒険者ギルドで扱ってないもんな。あそこはあくまで迷宮資源の取り扱いしかやってない。
……つうかあの野郎。
いくら日が浅くても、商工ギルドの職員が狩人ギルドの存在を知らないはずない。
ましてや職人都市の流通を司るギルドだ。他の街のギルドよりも素材に詳しい可能性が高い。
なにが『王国全土の魔物に詳しい奴なんていんのかねぇ?』だよ。
アイツ、マーサへの素材の供給を妨害する気だったんじゃねぇのか?
「私のお伝えできる情報はこの程度です。お役に立てていただければありがたいですね」
一旦言葉を切って、優雅な仕草でお茶を飲むディオーヌ様。
これで変態でさえなければ……!!!
「それでは今度はこちらの用件を済ませましょう。
私は王国中の少年のいる場所に目を光らせているのですが、最近ベイクの救貧院の状況が劇的に変化したと報告を受けております。
そしてそれを主導しているのがトーマさんとも聞いております。宜しければ詳しく教えていただいても?」
「目を光らせている動機は大丈夫じゃないと思いますが、教えるのは大丈夫です。隠す事はなにも無いんで。
それにヴェルトーガではどうなっているのか、俺もディオーヌ様に聞きたいと思っていたんですよ」
カンパニー設立までの流れと、カンパニーの目的や活動内容に関して、なるべく詳しく説明した。
「なるほど。ただ単純に与えるのではなく、あくまで支援までで留めて、本人達の自立を補助するのが目的ということですね。
面白いのは、トーマさんがちゃんと得をするように出来ていることですか。よく考えますね」
「いやいや、自分に得が無いことこそやりませんって。俺は保護者になりたいわけじゃないですからね。
俺自身の体験談として、駆け出しの頃は本当に余裕が無かった。だからそこを支援する組織には需要があると思ったんですよ」
「面白い考え方ですね。子供達に投資することで、始めの投資費用を上回る利益を生むと。そして全員の生活水準が向上する。ええ、本当に面白い仕組みだと思います。
ヴェルトーガでも取り入れて構いませんか?」
「構いませんよ。むしろ王国中の貧困層が少しでも減ってくれればありがたいものです。
ちなみに今のヴェルトーガでは、救貧院とかってどんな感じなんですか?
街を歩いていても、ベイクみたいにガリガリの子供が歩いてるって印象が無いんですけど」
「ああ、ヴェルトーガでは単純に、救貧院の数と規模が違うんですの。救貧院全体で見れば、ベイクの5倍近い人数を面倒見れますわ。
ただまぁ、おかげさまで維持費は膨大なのですよね。なのでトーマさんのカンパニーの考え方を少し参考にさせてもらおうかなと」
「5、5倍とはまた凄まじいですね……。今回のお話が少しでも維持費軽減に繋がれば幸いです」
ベイクの救貧院ですら200人を超える人数を受け入れていたってのに、その5倍とはね。
それでよくこんなに気前良く振舞えるよなぁこの人。
「ええ。ヴェルトーガの未来のためにも、必ず役に立ててみせますわ。貴重なお話をありがとうございました。
と、ここで話が終わりならば良かったのですけど、一応トーマさんに耳に入れておきたい話がありまして」
「あーはい。スカーさんにもチラッと聞いてますから覚悟は出来てますよ。なにがありました?」
「ええ、先日アリスを連れて王都に異邦人の話をしに行きましてね。王国中の有力者に集まって頂いて、アリスとこれから現れるかもしれない異邦人の危険性を説明してきたつもりなんですよ。
……それでですね。その話のあとに、当家の情報網にこんな話が引っかかったんですよ。
各地で黒髪の冒険者が、相次いで突然行方不明になっている、と」
……はぁ~~。
…………まぁ、想定すべき事態ではあったけど。
アリスの事象復元を説明してなお、そんな行動に移る奴がいるのかよ……。
「それはつまりこういうことですよね?
異邦人がチート能力を持っていると知った誰かが、異邦人を集めていると」
「まず間違いないでしょうね。行方不明者の中に異邦人がいたかどうかは確かめようがありませんが。
行方不明事件が起き始めたのは、王都での説明会の後ですから。関連性が無いとは判断できません」
まったく、チート能力者による行方不明事件を解決したばっかりだってのにさ。
今度はチート能力者のほうが行方不明事件の被害者になってるとか、いったい何の冗談だって話だよ。
「はい。ディオーヌ様もお変わりないようで何よりです。
シンは今日昇級試験のために不在で申し訳ないですけど、お時間頂いてありがとうございます」
まさか今日話が出来るとも思ってなかったから、ちょっとこの展開の速さについていけていないけど、話が早くて困ることはない。
「まずはトーマさんの用件から済ませましょうか。魔物の分布に詳しい人間を紹介して欲しい、ということでしたね。
残念ながら直接の知り合いはおりませんが、心当たりはあります。
1つは王都の『迷宮研究院』を訪ねること、もう1つは『探求都市ウィルスレイア』で紹介してもらうことですね」
「迷宮研究院ってのは名前の通りなんでしょうけど、探求都市ってのはどんなところなんですか?」
「探求都市ウィルスレイアは、風のシルグリイド家が治めている都市でして。学問や研究に力を入れている都市なのです。
どんな分野であれ、知的好奇心と熱意が本物であれば受け入れられる、そんな場所なのです。
迷宮研究院は正に名前の通り、迷宮の研究を行う施設ですから、魔物素材のことが知りたいトーマさんにとっては少し目的とズレているかとは思いますが、それでも他の人間に比べれば魔物に対する知識は豊富なはずです」
「なるほど……。ではウィルスレイアに一度行ってみて、そこで望む人材に出会えなかった場合に迷宮研究院を訪ねる、という流れが良さそうですね」
「それと、トーマさんは異邦人ですのでもしかしたらご存じないかも知れませんが、魔物素材を専門に扱っているのは狩人ギルドなんですよ。
ベイクにもありますから、一度そちらのほうに顔を出してみることもオススメしましょう」
「狩人ギルド……、ですか。知りませんでした。どうもありがとうございます」
名前からして、迷宮の外の魔物を倒すのが専門のギルドなのかな?
そういえば魔物素材って冒険者ギルドで扱ってないもんな。あそこはあくまで迷宮資源の取り扱いしかやってない。
……つうかあの野郎。
いくら日が浅くても、商工ギルドの職員が狩人ギルドの存在を知らないはずない。
ましてや職人都市の流通を司るギルドだ。他の街のギルドよりも素材に詳しい可能性が高い。
なにが『王国全土の魔物に詳しい奴なんていんのかねぇ?』だよ。
アイツ、マーサへの素材の供給を妨害する気だったんじゃねぇのか?
「私のお伝えできる情報はこの程度です。お役に立てていただければありがたいですね」
一旦言葉を切って、優雅な仕草でお茶を飲むディオーヌ様。
これで変態でさえなければ……!!!
「それでは今度はこちらの用件を済ませましょう。
私は王国中の少年のいる場所に目を光らせているのですが、最近ベイクの救貧院の状況が劇的に変化したと報告を受けております。
そしてそれを主導しているのがトーマさんとも聞いております。宜しければ詳しく教えていただいても?」
「目を光らせている動機は大丈夫じゃないと思いますが、教えるのは大丈夫です。隠す事はなにも無いんで。
それにヴェルトーガではどうなっているのか、俺もディオーヌ様に聞きたいと思っていたんですよ」
カンパニー設立までの流れと、カンパニーの目的や活動内容に関して、なるべく詳しく説明した。
「なるほど。ただ単純に与えるのではなく、あくまで支援までで留めて、本人達の自立を補助するのが目的ということですね。
面白いのは、トーマさんがちゃんと得をするように出来ていることですか。よく考えますね」
「いやいや、自分に得が無いことこそやりませんって。俺は保護者になりたいわけじゃないですからね。
俺自身の体験談として、駆け出しの頃は本当に余裕が無かった。だからそこを支援する組織には需要があると思ったんですよ」
「面白い考え方ですね。子供達に投資することで、始めの投資費用を上回る利益を生むと。そして全員の生活水準が向上する。ええ、本当に面白い仕組みだと思います。
ヴェルトーガでも取り入れて構いませんか?」
「構いませんよ。むしろ王国中の貧困層が少しでも減ってくれればありがたいものです。
ちなみに今のヴェルトーガでは、救貧院とかってどんな感じなんですか?
街を歩いていても、ベイクみたいにガリガリの子供が歩いてるって印象が無いんですけど」
「ああ、ヴェルトーガでは単純に、救貧院の数と規模が違うんですの。救貧院全体で見れば、ベイクの5倍近い人数を面倒見れますわ。
ただまぁ、おかげさまで維持費は膨大なのですよね。なのでトーマさんのカンパニーの考え方を少し参考にさせてもらおうかなと」
「5、5倍とはまた凄まじいですね……。今回のお話が少しでも維持費軽減に繋がれば幸いです」
ベイクの救貧院ですら200人を超える人数を受け入れていたってのに、その5倍とはね。
それでよくこんなに気前良く振舞えるよなぁこの人。
「ええ。ヴェルトーガの未来のためにも、必ず役に立ててみせますわ。貴重なお話をありがとうございました。
と、ここで話が終わりならば良かったのですけど、一応トーマさんに耳に入れておきたい話がありまして」
「あーはい。スカーさんにもチラッと聞いてますから覚悟は出来てますよ。なにがありました?」
「ええ、先日アリスを連れて王都に異邦人の話をしに行きましてね。王国中の有力者に集まって頂いて、アリスとこれから現れるかもしれない異邦人の危険性を説明してきたつもりなんですよ。
……それでですね。その話のあとに、当家の情報網にこんな話が引っかかったんですよ。
各地で黒髪の冒険者が、相次いで突然行方不明になっている、と」
……はぁ~~。
…………まぁ、想定すべき事態ではあったけど。
アリスの事象復元を説明してなお、そんな行動に移る奴がいるのかよ……。
「それはつまりこういうことですよね?
異邦人がチート能力を持っていると知った誰かが、異邦人を集めていると」
「まず間違いないでしょうね。行方不明者の中に異邦人がいたかどうかは確かめようがありませんが。
行方不明事件が起き始めたのは、王都での説明会の後ですから。関連性が無いとは判断できません」
まったく、チート能力者による行方不明事件を解決したばっかりだってのにさ。
今度はチート能力者のほうが行方不明事件の被害者になってるとか、いったい何の冗談だって話だよ。
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