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8章 異風の旋律
289 スタンピード⑥ 心核魔獣
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「伝令! 魔物が途切れた今のうちに、補給や休憩を行う!
最低限の哨戒役は消耗していない者から選出するので、今まで最前線にいた者は、逐次下がって休憩を取るように!」
お、エルハからの指示か。
確かに、これで終わりなのか、第2波があるかも分からないからな。
仮に第2波がある場合、少しでも部隊の状態を万全に近づけておくべきだ。
「た、助かったぁ~! とりあえずなんか食いてぇわ!」
「あ~お酒が飲みたいけど、まだ終わったとは限らないのよねぇ、もう!」
「ま、とりあえず下がろうぜ。警戒は他の奴がやってくれるって話だしな」
やっぱりみんな、疲労の色が濃いな。
最後まで踏ん張ってくれて、本当に良くやってくれたよ。
後方の予備戦力部隊はそのまま待機し、その部隊の更に後方に、簡易的な休憩スペースが設けられていた。
ま、座れるように地面に敷物を敷いただけなんだけど、今はそんな程度の気遣いでもありがたいよな。
「出来るだけ安静にして、魔力の回復に努めてくれよ!
食い物が欲しい奴は、パンと肉程度だが用意してあるから、遠慮なく言ってくれ!」
へぇ? 急遽設置した休憩スペースの割には、食事まで用意してあるとはね。
エルハはガチで有能だったみたいだな。もう疑ってなかったけど、思っていた以上にって意味で。
「あ、トーマ……! こっちこっち……!」
お、リーネ発見。っていうかテンション高いな? 手を振りながら走ってくるとかキャラが違わない?
リーネはそのまま俺の胸に飛び込んできて、力いっぱい抱きしめてきた。
なんだか嬉しくて堪らないといった様子だな? せっかくなので抱きしめ返すけど。
「凄い凄い、ホントに凄いよトーマ……! 死んでないの、誰も死んでないの……!
信じられないよ……! 信じられないくらい凄くて、嬉しいよ……!」
おお、思わぬところから報告が舞い込んできたな。
まだ心核魔獣を倒せていないけど、氾濫した魔物に殺された奴はいなかったか。本当に良かった。
「はは、リーネがこれだけ喜んでくれたなら頑張った甲斐があったよ。
じゃあ頑張った俺に、ご褒美をくれないかな?」
「ご褒美……? ん……」
上向きながら首を傾げたリーネがあまりにも可愛かったもので、ついつい許可を待たずに唇を重ねてしまった。
そしてご褒美といったおかげか、いつもより大分積極的なリーネさん。もう毎日ご褒美ねだらないといけないなこれは。
「いやいや休憩ってそういう意味じゃなからな!? TPOは弁えてほしいんですけど!?」
んもー。キス欲高まってる時に限って邪魔が入るぅ。
まぁ今回は全面的に俺が悪い気がするので黙っておくけど。
「タ……、じゃなくてオーサン。どうやら誰も死なずに済んだみたいだぜ?
まだラスボスが残ってっけどさ」
タケルは一瞬フリーズした後、搾り出すように話した。
「……ああ、ありがとうトーマ。本当にありがとうな。
冒険者なんてしてりゃあ、いつかは人を殺める機会も来るかも知れねぇけどさ。流石に今回のは話が違うもんな。
犠牲者が出なくて、本当に良かったよ……」
少し鼻声になっているように思えるけど、触れてやらないのが武士の情けかな。
俺専用の抱きぐるみを抱きしめたまま、会話を続ける。
「っていうか死者ゼロ人って誰から聞いたんだ? リーネの喜びようからすると、全体の生存確認が取れたってことだよな?」
「うん。エルハが頑張って確認して、それを各部隊に通達してるみたいなの……。
最高の報せだから、早くみんなに伝えたかったんだろうね……」
「あ、いたいたトーマさん!
ちょっとだけお時間いいかしら?」
お、噂をすればなんとやらだ。
全体の後ろで総指揮を任されているはずのエルハがやってきた。
「おうエルハ。こんなところにいて良いのか?」
「ええ、今は氾濫が途切れてるしね。見張りも立てたし、問題はないと思ってるわ。
それよりトーマさん」
エルハは自分の気持ちを落ち着かせるように深く息を吐く。
「私が至らなかったばかりに、トーマさんには度重なる迷惑をかけてしまったわ。本当にごめんなさい。
それなのにボールクローグを見捨てないでくれて、本当にありがとう。
貴方たちがいなかったら、私達は皆殺しにされていたわ……」
「いやいや。流石に礼を言うのは早いだろ。
心核魔獣とやらを倒すまでは氾濫が終わったとは言えないんだからさ」
長いと3日くらいは続くらしいからなぁ。
なんとなく終わりみたいな雰囲気だけど、小康状態に入っただけの可能性だった低くない。
「それに、別に俺たちだけの手柄ってワケじゃないだろ。
エルハだって全体を上手く指揮してたし、冒険者や狩人達の実力と協力あってこその結果だろ。
ボールクローグの奴等全員で掴み取った戦果だろうが。
胸張れよ。エルハ自身も全力を尽くしたから誰も死なせずに済んだんだからさ」
「……街の人みんなで力を合わせるなんて、想像したことも無かったのよ……。
指揮を取ったと言われても、私はお膳立てを揃えてもらった上で、自分に出来る事をしただけだから……。
でもそうね。お礼を言うなら、今日戦った全員に言うべきなのかもね…・・・」
エルハは柔らかい笑みを見せた。
裏切りなんていうイレギュラーが起こらなければ、あんな醜態は晒さなかったんだろうなぁ。
その時、突如夜空が明るく照らされる。
振り返ると、氾濫迷宮があるはずの方角が、夜とは思えないような明るさになっている。
あ~……、これってもしかして、ボス演出って奴……?
氾濫が始まる時に出現した柱が、今度は地面から空に向かって伸びていく。
そして天高い場所で5本の光は交わり、光は強さを増していく。
いやいやいや、それはちょっと反則じゃない……?
氾濫迷宮が5つあるんだから、心核魔獣が5体現れると想定していた。
でも目の前を見る限り、5箇所の氾濫が全て合わさって、1体の強力なボスキャラが出てくる流れだよなこれ……。
「至急伝令! 2等級冒険者未満、2等級狩人未満の者は、全員ボールクローグへ退却させなさい!
心核魔獣が出現したということは、魔物の氾濫はもう終わったということ! もう人手は必要ないわ!」
空を見上げている後ろで、エルハが撤退の指示を出す。
その条件だと俺たちも撤退できるはずなんだけど、まぁ無理だろうね。
「そんじゃリーネとタケルも街に戻っててくれ。後方支援よくやってくれた。後は任せてくれ」
リーネを腕から解放して、軽く頭を撫でてやる。
つうかタケルって言っちゃった。ま、いいかもう。
「うん、トーマも頑張って……! ここまで来たら、最後まで誰も死なずに朝を迎えようね……!」
「トーマ! 人任せにしてダサすぎるとは思うけど、俺にはアンタに頼ることしか出来ねぇ!
俺が楽しい異世界生活を再開できるようにさ、ボスキャラなんかぶっ倒してくれよな!」
2人がボールクローグへ戻るのを見送って、改めて空を見上げる。
地面から天に立ち上る光は既に消えていて、代わりに巨大な光球が空に浮かんでいる。
……まるで、卵だな。
少しずつ光が弱くなっていく。
光が消えた場所から出てきたのは、今まで見たどの魔物よりも大きい、真っ白なドラゴンだった。
最低限の哨戒役は消耗していない者から選出するので、今まで最前線にいた者は、逐次下がって休憩を取るように!」
お、エルハからの指示か。
確かに、これで終わりなのか、第2波があるかも分からないからな。
仮に第2波がある場合、少しでも部隊の状態を万全に近づけておくべきだ。
「た、助かったぁ~! とりあえずなんか食いてぇわ!」
「あ~お酒が飲みたいけど、まだ終わったとは限らないのよねぇ、もう!」
「ま、とりあえず下がろうぜ。警戒は他の奴がやってくれるって話だしな」
やっぱりみんな、疲労の色が濃いな。
最後まで踏ん張ってくれて、本当に良くやってくれたよ。
後方の予備戦力部隊はそのまま待機し、その部隊の更に後方に、簡易的な休憩スペースが設けられていた。
ま、座れるように地面に敷物を敷いただけなんだけど、今はそんな程度の気遣いでもありがたいよな。
「出来るだけ安静にして、魔力の回復に努めてくれよ!
食い物が欲しい奴は、パンと肉程度だが用意してあるから、遠慮なく言ってくれ!」
へぇ? 急遽設置した休憩スペースの割には、食事まで用意してあるとはね。
エルハはガチで有能だったみたいだな。もう疑ってなかったけど、思っていた以上にって意味で。
「あ、トーマ……! こっちこっち……!」
お、リーネ発見。っていうかテンション高いな? 手を振りながら走ってくるとかキャラが違わない?
リーネはそのまま俺の胸に飛び込んできて、力いっぱい抱きしめてきた。
なんだか嬉しくて堪らないといった様子だな? せっかくなので抱きしめ返すけど。
「凄い凄い、ホントに凄いよトーマ……! 死んでないの、誰も死んでないの……!
信じられないよ……! 信じられないくらい凄くて、嬉しいよ……!」
おお、思わぬところから報告が舞い込んできたな。
まだ心核魔獣を倒せていないけど、氾濫した魔物に殺された奴はいなかったか。本当に良かった。
「はは、リーネがこれだけ喜んでくれたなら頑張った甲斐があったよ。
じゃあ頑張った俺に、ご褒美をくれないかな?」
「ご褒美……? ん……」
上向きながら首を傾げたリーネがあまりにも可愛かったもので、ついつい許可を待たずに唇を重ねてしまった。
そしてご褒美といったおかげか、いつもより大分積極的なリーネさん。もう毎日ご褒美ねだらないといけないなこれは。
「いやいや休憩ってそういう意味じゃなからな!? TPOは弁えてほしいんですけど!?」
んもー。キス欲高まってる時に限って邪魔が入るぅ。
まぁ今回は全面的に俺が悪い気がするので黙っておくけど。
「タ……、じゃなくてオーサン。どうやら誰も死なずに済んだみたいだぜ?
まだラスボスが残ってっけどさ」
タケルは一瞬フリーズした後、搾り出すように話した。
「……ああ、ありがとうトーマ。本当にありがとうな。
冒険者なんてしてりゃあ、いつかは人を殺める機会も来るかも知れねぇけどさ。流石に今回のは話が違うもんな。
犠牲者が出なくて、本当に良かったよ……」
少し鼻声になっているように思えるけど、触れてやらないのが武士の情けかな。
俺専用の抱きぐるみを抱きしめたまま、会話を続ける。
「っていうか死者ゼロ人って誰から聞いたんだ? リーネの喜びようからすると、全体の生存確認が取れたってことだよな?」
「うん。エルハが頑張って確認して、それを各部隊に通達してるみたいなの……。
最高の報せだから、早くみんなに伝えたかったんだろうね……」
「あ、いたいたトーマさん!
ちょっとだけお時間いいかしら?」
お、噂をすればなんとやらだ。
全体の後ろで総指揮を任されているはずのエルハがやってきた。
「おうエルハ。こんなところにいて良いのか?」
「ええ、今は氾濫が途切れてるしね。見張りも立てたし、問題はないと思ってるわ。
それよりトーマさん」
エルハは自分の気持ちを落ち着かせるように深く息を吐く。
「私が至らなかったばかりに、トーマさんには度重なる迷惑をかけてしまったわ。本当にごめんなさい。
それなのにボールクローグを見捨てないでくれて、本当にありがとう。
貴方たちがいなかったら、私達は皆殺しにされていたわ……」
「いやいや。流石に礼を言うのは早いだろ。
心核魔獣とやらを倒すまでは氾濫が終わったとは言えないんだからさ」
長いと3日くらいは続くらしいからなぁ。
なんとなく終わりみたいな雰囲気だけど、小康状態に入っただけの可能性だった低くない。
「それに、別に俺たちだけの手柄ってワケじゃないだろ。
エルハだって全体を上手く指揮してたし、冒険者や狩人達の実力と協力あってこその結果だろ。
ボールクローグの奴等全員で掴み取った戦果だろうが。
胸張れよ。エルハ自身も全力を尽くしたから誰も死なせずに済んだんだからさ」
「……街の人みんなで力を合わせるなんて、想像したことも無かったのよ……。
指揮を取ったと言われても、私はお膳立てを揃えてもらった上で、自分に出来る事をしただけだから……。
でもそうね。お礼を言うなら、今日戦った全員に言うべきなのかもね…・・・」
エルハは柔らかい笑みを見せた。
裏切りなんていうイレギュラーが起こらなければ、あんな醜態は晒さなかったんだろうなぁ。
その時、突如夜空が明るく照らされる。
振り返ると、氾濫迷宮があるはずの方角が、夜とは思えないような明るさになっている。
あ~……、これってもしかして、ボス演出って奴……?
氾濫が始まる時に出現した柱が、今度は地面から空に向かって伸びていく。
そして天高い場所で5本の光は交わり、光は強さを増していく。
いやいやいや、それはちょっと反則じゃない……?
氾濫迷宮が5つあるんだから、心核魔獣が5体現れると想定していた。
でも目の前を見る限り、5箇所の氾濫が全て合わさって、1体の強力なボスキャラが出てくる流れだよなこれ……。
「至急伝令! 2等級冒険者未満、2等級狩人未満の者は、全員ボールクローグへ退却させなさい!
心核魔獣が出現したということは、魔物の氾濫はもう終わったということ! もう人手は必要ないわ!」
空を見上げている後ろで、エルハが撤退の指示を出す。
その条件だと俺たちも撤退できるはずなんだけど、まぁ無理だろうね。
「そんじゃリーネとタケルも街に戻っててくれ。後方支援よくやってくれた。後は任せてくれ」
リーネを腕から解放して、軽く頭を撫でてやる。
つうかタケルって言っちゃった。ま、いいかもう。
「うん、トーマも頑張って……! ここまで来たら、最後まで誰も死なずに朝を迎えようね……!」
「トーマ! 人任せにしてダサすぎるとは思うけど、俺にはアンタに頼ることしか出来ねぇ!
俺が楽しい異世界生活を再開できるようにさ、ボスキャラなんかぶっ倒してくれよな!」
2人がボールクローグへ戻るのを見送って、改めて空を見上げる。
地面から天に立ち上る光は既に消えていて、代わりに巨大な光球が空に浮かんでいる。
……まるで、卵だな。
少しずつ光が弱くなっていく。
光が消えた場所から出てきたのは、今まで見たどの魔物よりも大きい、真っ白なドラゴンだった。
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