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9章 異邦人が生きるために
閑話028 エリアキーパー ※とある魔物研究者視点
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「迷宮研究院に急いでくれ!!」
御者に檄を飛ばしながら馬車に飛び乗る。
まだ混乱が治まらぬが、まずは院に行かなければ始まるまい。
逸る鼓動を抑えつつ、迷宮研究院へと急いだ。
「遅くなった。それでモノが届いていると聞いたが?」
「はい! モノがモノだけに、最重要研究対象物として、第3研究室に運び込んでおります。
移動しながら簡単なご報告をさせて頂いても?」
「聞こう」
部下に報告を受けながら、院の中でも最も警備の厳重な区画に向かう。
早く現物をこの目で見たいと思う反面、部下の報告があまりにも荒唐無稽で、思わず何度も足を止めて聞き返してしまった。
「最長でも30日という短い期間で、100近い迷宮がほぼ同じ地域に出現した前例などないぞ? 何かの間違いではないのか?」
「はっ。私たちも虚偽報告を疑いましたが、ボールクローグの狩人ギルドが公式に調査、公開した情報です。
また各種ギルドに加え、カルネジア家自ら動いていたのは間違いない様ですし、ボールクローグ近郊の村落は壊滅したようです。
なので、情報の確度はかなり高いかと……」
「むぅ……」
今回の件は、なにから何まで信じがたい。信じがたいのだが、巻き込まれた人の数が尋常じゃなく、現実に何かが起こったことは疑いようもない。
「勿論先生の気持ちは理解できますよ。私も未だに信じられませんから……。
ですが、現物を見せられてしまうと、疑いようもなく思い知らされてしまうんです。報告は本当だったんだって……」
部下が蒼白になって震えている姿を見て、私は少し怖気づいてしまう。
いったいコイツはなにを見てしまったというのか……。
「遅くなって済まない。今日届いたという品を早速見せてくれ」
「はっ! こちらでございますっ!
どうぞご覧下さい!」
部下が持ってきた大きな木箱に入っていたのは、巨大で真っ白なドラゴンスケイル。
この度ボールクローグに出現したと言われている、白の竜王、ランドビカミウリの鱗だった。
――――なんという、美しさなのだろう。
そして、鱗を見ただけで思い知らされる、自分との隔絶した戦闘力の差……!
手で触れたらそれだけで殺されてしまうのではと感じるほどに、その鱗は圧倒的な存在感を放っていた。
……なるほど、部下の言っていたことを理解する。
確かにこれを見せられては、報告が嘘であったなどとは言えなくなるだろうな。
「これは、本当に凄まじいな……。
来る途中に簡単な報告は受けたが、改めて報告を頼む」
先ほどまでは半信半疑だったが、これを見せられては詳しく報告を聞かねばなるまい。
「はっ! 実際の開始時期は不明でありますが、ボールクローグ近郊において、新規迷宮が頻出する騒動が起こりました。
各種ギルドが対応に当たりましたが、あまり成果は上がらず、最大で50を越える迷宮が存在していた時もあったようです。
だがある日、異邦人のパーティが迷宮討伐に参加し始めたことをきっかけに討伐は進み、最終的に全ての永久の討伐に成功致しました。ですが」
一旦言葉を切る報告者。一瞬木箱に目を向けて、唾を飲み込む音が聞こえた。
「カルネジア家に恨みを持つ勢力が狩人ギルドの情報をかく乱し、ギルドに報告されていなかった迷宮5つが同時に魔力枯渇を起こしました。
次の日の夜に5箇所同時の氾濫が始まり、現地狩人ギルドの報告では、30万を超える魔物がボールクローグに訪れたようですね。
そしてその氾濫を乗り切った直後、5箇所の氾濫が融合し、1体の強力な心核魔獣を生み出したそうです。
それがその鱗の持ち主であり、伝説に語られるランドビカミウリであった、と。
しかし出現したランドビカミウリはその場で討伐され、その素材が研究のために1部、こちらに持ち込まれたというわけです」
「本当にこの魔物がランドビカミウリなのか調べて欲しい、だったか。
はっ! 馬鹿げてる。神話の時代の魔物なんぞ、誰が確認できるというのか……。
それで、ボールクローグはどうなったのだ? どの程度の被害が出たのか聞いておらんが」
「……そ、それは」
部下が言い淀んでいる。それも無理はないだろう。
ランドビカミウリは歴史上最強との呼び声も高い魔物なのだ。ボールクローグが壊滅していてもおかしくない。
むしろ、火のカルネジア家の直轄領だったからこそ、討伐が可能だったのだと言っていい。
「人的被害は……、ゼロ人、です。たった1人の犠牲者も出ていないようですね……。
近郊の村落は壊滅的だとのことですが、事前にボールクローグへ近隣住民全員を受け入れたことで、本当に死者は1人も出なかった模様です。
私自身も、この報告は流石に信じられないのですが、事実のようですね……」
「――――死者がいなかった? 5箇所同時に魔物の氾濫が始まって、30万前後の魔物が殺到し、リヴァーブ王国史上最強と言われるランドビカミウリを討伐して、死者がゼロ人だって……!?」
「はい。各種ギルドと、カルネジア家にも確認を取りましたが、死者は1人も出ていないようです。
ランドビカミウリを討伐したと言われているのは、異邦人を含む5名の冒険者パーティだったそうです。
だからこそ調査を依頼されたのでしょうね。冒険者5名に討伐されるような魔物が、本当にランドビカミウリであったのだろうか、と」
「いや、この鱗の持ち主がランドビカミウリだと言うのは恐らく間違いない。私は以前他の『エリアキーパー』を目にしたことがあるからな。この鱗からはその時と同じ感覚を覚える。
白の竜王ランドビカミウリは、神々の時代のリヴァーブ王国近郊のエリアキーパーだったとすれば、私の感覚に説明がついてしまう……」
しかし、だとしたら恐ろしい。
異邦人とは、エリアキーパーを生み出すことも、討伐してしまうことも出来てしまうというのか……!?
ヴェルトーガで起こった騒動の報告を聞いたときはあまりピンとこなかったが、これはなるほど、タイデリア家の過大評価というわけでは無さそうだ。
むしろ私自身が暢気に構えすぎていて、今までの自分を殺してやりたくなってくる……!
「先生申し訳ありません。エリアキーパーとはいったい何のことでしょうか?」
「ああ、新しく入った者は知らないのも無理ないか。それでは簡単な解説をしてやろう。
リヴァーブ王国は、東西南北を精霊家が守護、拡張を担っているのは誰もが知るところであろう。領土拡張が上手くいっていないことも含めてな。
さてここまでは誰もが知る話であるが、問題はその理由なのだよ。どうして領土の拡張が成功していないのか、答えられるものはいるかね?」
「それは、地形的な問題が大きいのではないですか?
西は海に、東は砂漠に、南は山岳地帯に阻まれて、人が生活するには苛酷な環境だと聞いています」
「それに迷宮と違って、野外の魔物は法則性がが薄れ、集団化する傾向にあると聞きます。
単純な危険度が迷宮より高いために、拡張が上手くいかないのではないでしょうか?」
うむ。よく勉強していると言っていいだろう。
流石は王国最高峰の研究所の職員だ。
「うむ。諸君が言うことは全て正しい。だがそれだけではないのだ。
領土の拡張が上手くいかない最大の原因は、エリアキーパーが存在しているからだ。
そして諸君がエリアキーパーを知らないのも無理はないのだ。エリアキーパーの存在は、王国では最重要機密扱いとされているのだから」
「エリアキーパー……。
話の流れに乗るなら、ランドビカミウリ級の魔物が、領土の拡張を妨げている、と?」
「まさにその通りなのだよ。
北の大森林地帯には、ランドビカミウリと対を成す、黒の竜王『レイメルカミウリ』。
東の大砂漠地帯には、風と砂の海を自由に泳ぐ、巨大な蛇神『ユリバファルゴア』。
南の大山岳地帯には、身の丈が優に山をも超える、極大の巨人『グラメダワルケア』。
西の大海原には、暗き海の底から人々を監視する、深遠の邪眼『ザルトワシルドア』。
人智を遥かに超えた戦闘力を持つ魔物たちが、リヴァーブ王国の外への進出を阻んでおるのだよ。
私が実際に見たのはグラメダワルケアだがね。思い出したくもないよ。
君達は想像できるだろうか? 山より大きな人間を。顔が雲に隠れて見えないほどの、巨人の姿を……!」
あの時私は悟ったのだ。人類が領土の拡張をすることなど不可能でしかない事を……。
しかし今回の報告は、非常に興味深いものがあった。
「彼らがエリアキーパーと呼ばれているのは、一定の地域を人類の進出から守護する存在だからだ。
神話に語られているランドビカミウリは、この付近のエリアキーパーであったと考えるのが妥当だ。
そして、人類の手に負えずに、神々の手を借りて退けたという記述が本当であるとするならば、各種エリアキーパーは、神と同等以上の戦闘力を有しているということになるだろうね」
「――――なるほど。存在を公表できないわけですね……。
人類の進出が神と同等の魔物に阻まれているとなったら、未来に希望が持てなくなる者も出てきそうですから……」
「だからこそ、今回齎された報告と、我々が出す結論は、これからのリヴァーブ王国にとって、非常に大きな意味を持つことになるかもしれん。
みんなもその自覚を持って、気を引き締めて欲しい」
「先生。それはどういう意味でしょう? 私達の報告が大きな意味を持つというのはいったい?」
「ふむ。まずは今回の騒動の重要性の方から説明させてもらおう。
今回のランドビカミウリの出現は、異邦人の能力が起こした迷宮の氾濫がきっかけだったと報告されているな?
つまりその異邦人がその気になれば、エリアキーパーを生み出すことが可能であると証明してしまったのだ。
それに加えて異邦人たちは、エリアキーパーを討伐することも可能である事を示して見せたのだよ。
これで、私達の出す結論の重要性に気付いてもらえただろうか?」
「つまり異邦人がその気になれば、リヴァーブ王国を壊滅……、いや、滅亡させることも可能であるということ。
そうであると同時に、リヴァーブ王国と同程度の範囲の新しい土地に、人類が進出できる可能性を示してみせた、ということですね……!」
そう、異邦人の存在は、リヴァーブ王国存続の危機であると同時に、リヴァーブ王国の躍進の可能性も多いに秘めているのだ。
だからこそ悩ましく、恐ろしい。
私達の出した結論が、どのような未来を引き寄せてしまうのか。
恐ろしいが、結論は出さなければならない
我々が出した報告を受けて、実際に行動するのは私達ではないのだ。
せめて正しい判断が下されるように、私達は少しでも正確で詳細な報告を上げるしかない。
だが研究者として言わせてもらえば、こんなに先の見えない時代に生まれた事は何よりの幸福だ。
こんなにも分からないことばかりなんて、まるで赤子に戻ったようだな。
御者に檄を飛ばしながら馬車に飛び乗る。
まだ混乱が治まらぬが、まずは院に行かなければ始まるまい。
逸る鼓動を抑えつつ、迷宮研究院へと急いだ。
「遅くなった。それでモノが届いていると聞いたが?」
「はい! モノがモノだけに、最重要研究対象物として、第3研究室に運び込んでおります。
移動しながら簡単なご報告をさせて頂いても?」
「聞こう」
部下に報告を受けながら、院の中でも最も警備の厳重な区画に向かう。
早く現物をこの目で見たいと思う反面、部下の報告があまりにも荒唐無稽で、思わず何度も足を止めて聞き返してしまった。
「最長でも30日という短い期間で、100近い迷宮がほぼ同じ地域に出現した前例などないぞ? 何かの間違いではないのか?」
「はっ。私たちも虚偽報告を疑いましたが、ボールクローグの狩人ギルドが公式に調査、公開した情報です。
また各種ギルドに加え、カルネジア家自ら動いていたのは間違いない様ですし、ボールクローグ近郊の村落は壊滅したようです。
なので、情報の確度はかなり高いかと……」
「むぅ……」
今回の件は、なにから何まで信じがたい。信じがたいのだが、巻き込まれた人の数が尋常じゃなく、現実に何かが起こったことは疑いようもない。
「勿論先生の気持ちは理解できますよ。私も未だに信じられませんから……。
ですが、現物を見せられてしまうと、疑いようもなく思い知らされてしまうんです。報告は本当だったんだって……」
部下が蒼白になって震えている姿を見て、私は少し怖気づいてしまう。
いったいコイツはなにを見てしまったというのか……。
「遅くなって済まない。今日届いたという品を早速見せてくれ」
「はっ! こちらでございますっ!
どうぞご覧下さい!」
部下が持ってきた大きな木箱に入っていたのは、巨大で真っ白なドラゴンスケイル。
この度ボールクローグに出現したと言われている、白の竜王、ランドビカミウリの鱗だった。
――――なんという、美しさなのだろう。
そして、鱗を見ただけで思い知らされる、自分との隔絶した戦闘力の差……!
手で触れたらそれだけで殺されてしまうのではと感じるほどに、その鱗は圧倒的な存在感を放っていた。
……なるほど、部下の言っていたことを理解する。
確かにこれを見せられては、報告が嘘であったなどとは言えなくなるだろうな。
「これは、本当に凄まじいな……。
来る途中に簡単な報告は受けたが、改めて報告を頼む」
先ほどまでは半信半疑だったが、これを見せられては詳しく報告を聞かねばなるまい。
「はっ! 実際の開始時期は不明でありますが、ボールクローグ近郊において、新規迷宮が頻出する騒動が起こりました。
各種ギルドが対応に当たりましたが、あまり成果は上がらず、最大で50を越える迷宮が存在していた時もあったようです。
だがある日、異邦人のパーティが迷宮討伐に参加し始めたことをきっかけに討伐は進み、最終的に全ての永久の討伐に成功致しました。ですが」
一旦言葉を切る報告者。一瞬木箱に目を向けて、唾を飲み込む音が聞こえた。
「カルネジア家に恨みを持つ勢力が狩人ギルドの情報をかく乱し、ギルドに報告されていなかった迷宮5つが同時に魔力枯渇を起こしました。
次の日の夜に5箇所同時の氾濫が始まり、現地狩人ギルドの報告では、30万を超える魔物がボールクローグに訪れたようですね。
そしてその氾濫を乗り切った直後、5箇所の氾濫が融合し、1体の強力な心核魔獣を生み出したそうです。
それがその鱗の持ち主であり、伝説に語られるランドビカミウリであった、と。
しかし出現したランドビカミウリはその場で討伐され、その素材が研究のために1部、こちらに持ち込まれたというわけです」
「本当にこの魔物がランドビカミウリなのか調べて欲しい、だったか。
はっ! 馬鹿げてる。神話の時代の魔物なんぞ、誰が確認できるというのか……。
それで、ボールクローグはどうなったのだ? どの程度の被害が出たのか聞いておらんが」
「……そ、それは」
部下が言い淀んでいる。それも無理はないだろう。
ランドビカミウリは歴史上最強との呼び声も高い魔物なのだ。ボールクローグが壊滅していてもおかしくない。
むしろ、火のカルネジア家の直轄領だったからこそ、討伐が可能だったのだと言っていい。
「人的被害は……、ゼロ人、です。たった1人の犠牲者も出ていないようですね……。
近郊の村落は壊滅的だとのことですが、事前にボールクローグへ近隣住民全員を受け入れたことで、本当に死者は1人も出なかった模様です。
私自身も、この報告は流石に信じられないのですが、事実のようですね……」
「――――死者がいなかった? 5箇所同時に魔物の氾濫が始まって、30万前後の魔物が殺到し、リヴァーブ王国史上最強と言われるランドビカミウリを討伐して、死者がゼロ人だって……!?」
「はい。各種ギルドと、カルネジア家にも確認を取りましたが、死者は1人も出ていないようです。
ランドビカミウリを討伐したと言われているのは、異邦人を含む5名の冒険者パーティだったそうです。
だからこそ調査を依頼されたのでしょうね。冒険者5名に討伐されるような魔物が、本当にランドビカミウリであったのだろうか、と」
「いや、この鱗の持ち主がランドビカミウリだと言うのは恐らく間違いない。私は以前他の『エリアキーパー』を目にしたことがあるからな。この鱗からはその時と同じ感覚を覚える。
白の竜王ランドビカミウリは、神々の時代のリヴァーブ王国近郊のエリアキーパーだったとすれば、私の感覚に説明がついてしまう……」
しかし、だとしたら恐ろしい。
異邦人とは、エリアキーパーを生み出すことも、討伐してしまうことも出来てしまうというのか……!?
ヴェルトーガで起こった騒動の報告を聞いたときはあまりピンとこなかったが、これはなるほど、タイデリア家の過大評価というわけでは無さそうだ。
むしろ私自身が暢気に構えすぎていて、今までの自分を殺してやりたくなってくる……!
「先生申し訳ありません。エリアキーパーとはいったい何のことでしょうか?」
「ああ、新しく入った者は知らないのも無理ないか。それでは簡単な解説をしてやろう。
リヴァーブ王国は、東西南北を精霊家が守護、拡張を担っているのは誰もが知るところであろう。領土拡張が上手くいっていないことも含めてな。
さてここまでは誰もが知る話であるが、問題はその理由なのだよ。どうして領土の拡張が成功していないのか、答えられるものはいるかね?」
「それは、地形的な問題が大きいのではないですか?
西は海に、東は砂漠に、南は山岳地帯に阻まれて、人が生活するには苛酷な環境だと聞いています」
「それに迷宮と違って、野外の魔物は法則性がが薄れ、集団化する傾向にあると聞きます。
単純な危険度が迷宮より高いために、拡張が上手くいかないのではないでしょうか?」
うむ。よく勉強していると言っていいだろう。
流石は王国最高峰の研究所の職員だ。
「うむ。諸君が言うことは全て正しい。だがそれだけではないのだ。
領土の拡張が上手くいかない最大の原因は、エリアキーパーが存在しているからだ。
そして諸君がエリアキーパーを知らないのも無理はないのだ。エリアキーパーの存在は、王国では最重要機密扱いとされているのだから」
「エリアキーパー……。
話の流れに乗るなら、ランドビカミウリ級の魔物が、領土の拡張を妨げている、と?」
「まさにその通りなのだよ。
北の大森林地帯には、ランドビカミウリと対を成す、黒の竜王『レイメルカミウリ』。
東の大砂漠地帯には、風と砂の海を自由に泳ぐ、巨大な蛇神『ユリバファルゴア』。
南の大山岳地帯には、身の丈が優に山をも超える、極大の巨人『グラメダワルケア』。
西の大海原には、暗き海の底から人々を監視する、深遠の邪眼『ザルトワシルドア』。
人智を遥かに超えた戦闘力を持つ魔物たちが、リヴァーブ王国の外への進出を阻んでおるのだよ。
私が実際に見たのはグラメダワルケアだがね。思い出したくもないよ。
君達は想像できるだろうか? 山より大きな人間を。顔が雲に隠れて見えないほどの、巨人の姿を……!」
あの時私は悟ったのだ。人類が領土の拡張をすることなど不可能でしかない事を……。
しかし今回の報告は、非常に興味深いものがあった。
「彼らがエリアキーパーと呼ばれているのは、一定の地域を人類の進出から守護する存在だからだ。
神話に語られているランドビカミウリは、この付近のエリアキーパーであったと考えるのが妥当だ。
そして、人類の手に負えずに、神々の手を借りて退けたという記述が本当であるとするならば、各種エリアキーパーは、神と同等以上の戦闘力を有しているということになるだろうね」
「――――なるほど。存在を公表できないわけですね……。
人類の進出が神と同等の魔物に阻まれているとなったら、未来に希望が持てなくなる者も出てきそうですから……」
「だからこそ、今回齎された報告と、我々が出す結論は、これからのリヴァーブ王国にとって、非常に大きな意味を持つことになるかもしれん。
みんなもその自覚を持って、気を引き締めて欲しい」
「先生。それはどういう意味でしょう? 私達の報告が大きな意味を持つというのはいったい?」
「ふむ。まずは今回の騒動の重要性の方から説明させてもらおう。
今回のランドビカミウリの出現は、異邦人の能力が起こした迷宮の氾濫がきっかけだったと報告されているな?
つまりその異邦人がその気になれば、エリアキーパーを生み出すことが可能であると証明してしまったのだ。
それに加えて異邦人たちは、エリアキーパーを討伐することも可能である事を示して見せたのだよ。
これで、私達の出す結論の重要性に気付いてもらえただろうか?」
「つまり異邦人がその気になれば、リヴァーブ王国を壊滅……、いや、滅亡させることも可能であるということ。
そうであると同時に、リヴァーブ王国と同程度の範囲の新しい土地に、人類が進出できる可能性を示してみせた、ということですね……!」
そう、異邦人の存在は、リヴァーブ王国存続の危機であると同時に、リヴァーブ王国の躍進の可能性も多いに秘めているのだ。
だからこそ悩ましく、恐ろしい。
私達の出した結論が、どのような未来を引き寄せてしまうのか。
恐ろしいが、結論は出さなければならない
我々が出した報告を受けて、実際に行動するのは私達ではないのだ。
せめて正しい判断が下されるように、私達は少しでも正確で詳細な報告を上げるしかない。
だが研究者として言わせてもらえば、こんなに先の見えない時代に生まれた事は何よりの幸福だ。
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