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9章 異邦人が生きるために

316 断罪

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 王城の待合室で待機していたら、初対面の相手に変な難癖をつけられてしまった。

 というか他の奴等はなにしてんだと思って探してみると、他の女性陣に囲まれて身動きが取れない状態らしい。
 まぁこの人たち身分高そうだしな。
 変に揉めると後々めんどくさそうではある。


「えーと? 申し訳ないんですが、仰ってる意味が良く理解できません。
 私に誰を解放しろと? そして貴方はどなたですか?」

「ふんっ! 貴方のような下賎な輩に名乗る名など、持ち合わせておりませんわっ!
 誰を解放しろですって? 白々しい! 私は貴方のしたことは全て分かっているのですよ!」


 話通じないなぁこの人。
 多分10代半ばくらいに見えるし、思い込み激しそうだ。

 やることもないし、暇潰しにはちょうど良さそうではあるけど。


「分かりました。もうお名前は結構です。
 では済みませんが、私に誰を解放しろとご命令なのですか? 私のしたことってなんなんですか?
 下賎なこの身にも分かるよう説明していただきたいんですけど」

「あくまでシラを切るつもりなのね。そっちがそのつもりでしたら、言わせてもらいますわよ?
 貴方は若い男女を奴隷として扱い、手篭めにしているそうですわね!
 その汚らわしい行為を今すぐやめて、皆さんを解放しなさいと言っているのですわっ!」

「はぁ? 私の仲間に奴隷なんて1人もいませんけど。
 奴隷印を確認してもらっても構いませんし、魔力感知で確認しても構いませんよ?」


 まぁ持ってないだろうけどな。
 奴隷を疑うなら、魔力感知で確かめない理由はないし。


「ふんっ! 私は知っておりますのよ! 奴隷印は任意に消すことが出来るのでしょう!
 あの方達に奴隷印が見つからないことが、貴方の潔白を証明する事にはなりませんわっ!」

「となると、私の潔白を証明する方法はありませんね。
 私は奴隷契約を結んでいないので、奴隷解放を行うことは出来ないんですよ。
 なので、他にどうしたら私の潔白を証明できるのか、教えてもらえますか?」

「ちょ、ちょっとお待ちなさい! 今考えて参りますわ!
 この輩が決して逃げないよう、皆さん見張っていてくださるかしら」


 いや王族に呼ばれてるのに逃げるわけないだろ。
 むしろお前が誰なんだよっていう。

 難癖女は俺から離れ、どこに向かったかと思えば、なんとアリスと何か話し合っているようだった。
 つまり難癖女の情報のソースはアリスで、あいつが俺に女を嗾けてきたって流れなのかな?

 女は何かを入れ知恵されたのか、自信満々の表情で戻ってきた。


「聞きましたわよ! 貴方は彼らと強制的にパーティを組んで、従えているそうじゃない!
 だから貴方は今すぐパーティを解散して、あの人たちを解放しなさい! これは命令よ!」

「……はぁ。それで良いなら分かりましたよ。
 それじゃ俺のパーティは今この場を持ってか「ダメーーーー!!」


 突然の叫び声に目を向けると、周囲の女性陣を突き飛ばしてリーンが走ってきた。


「ダメ! 絶対にダメ! パーティの解散なんて絶対に認めないからね!」

「いやぁ別にパーティ解散したってなにが変わるつもりもないって。
 そこの誰かも名乗らない人って、知らないけど身分高い人なんでしょ?
 だったら平民が逆らうわけにはいかないだろ」

「ダメ! もし異風の旋律を解散しなきゃいけないくらいなら、今この場でこの城真っ二つにするからねっ!?」

「いやいやいや。何物騒なこと言ってんだよ。
 分かった。解散はしないよ。絶対にしない。約束するよ。
 誰かも知らない変な難癖女よりも、リーンの方が大切だからな」


 リーンを抱きしめて頭を撫でてやる。


「つうことで、そこの名前も知らない誰かさん。パーティ解放は聞けなくなった。諦めてくれ」

「なっ!? 貴方私を誰だと思っているのですかっ!? 貴方にそんな権限などありません!」

「名乗りもしない妄想馬鹿女なんて誰か知るわけないだろ。お前こそ何の権限があってそんなこと言ってんだ?
 あーそれとアリス! お前今俺と明確に敵対したからな。生きてネヴァルドから出られると思うなよ?」


 リーンを連れたままアリスのところに移動する。
 横で馬鹿女が騒いでいるけど消音して無視。


「お前が俺の事を嫌いだろうがなんだろうが、俺には知ったこっちゃないんだけどさぁ。お前、自分が如何に危うい立場が少しは理解すべきだったな」

「な、なによ!? 私は別に何もしてないじゃないの!
 そ、それに私の立場って何よ!? 私はこの王国の最重要人として、タイデリア家に手厚く保護されてるのよ!
 私に何かをしたら、ディオーヌ様が黙ってないわ!」

「――――お前馬鹿すぎて、ディオーヌ様が気の毒になるわ。
 元々お前の事象復元は危険すぎるから、お前は即殺されてもおかしくない立場なんだよ。そこをディオーヌ様のご厚意だけで生かしてもらってんだよ。
 最重要人? お前はただの厄介者なんだよ。殺す理由が出来たんなら、ディオーヌ様も喜んで賛成してくれるぜ?
 お前、働きもしないで贅沢の限りを尽くしていたらしいな? どっちにしても、お前はもうヴェルトーガには帰れないぜ? 今回の訪問が済んだら、お前は俺が引き受けるになってたからな、この穀潰し女」

「は、はぁ!? そ、そんなわけ、そんなことディオーヌ様は一言も……!」

「お前が今まで重要に扱われていたのは、ディオーヌ様のご厚意と、異邦人の証明のためだけなんだよ。
 今回ボールクローグの騒動のせいで、異邦人の存在は疑いようがなくなった。
 つまりお前はなんの価値もなくなって、無駄に散財するだけの厄介者に成り下がったわけだ。
 そんなお前をタイデリア家が面倒見る義理はないからな。異邦人の俺たちに払い下げってわけだ。
 そしてお前は俺と明確に敵対したからな。お前の能力は野放しにすることは出来ないし、くだらない考えで軽く扱われたら、この国が滅亡するかも知れない。
 ほらな? お前が死なない理由なんか1つもないぞ」


 アリスは絶句して、口をパクパクさせている。


「この国に、俺からお前を守れる人がいるといいなぁ。
 流石に王城を血で汚すわけにはいかないからさ。城から出るまで精々足掻けばいいよ。
 お前が嗾けたお友達にでも頼んで護衛してもらったら? 俺の前に立つ奴は皆殺しにしてやるけど」


 アリスが被害者のままだったら守ってやる気にもなるけど、これじゃあね。
 生かしておく意味がないというより、殺してしまわないと危険だ。

 生きていても迷惑にしかならないし、本人もその自覚がないんだから、殺してやらないと国が滅ぶ。

 お前を生かす理由なんて、ディオーヌ様のご厚意1つだけだったっていうのにな。
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