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9章 異邦人が生きるために

332 学びの都

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 88階層のペア周回。やっぱりスクロールが出にくいな。
 最高レアって事はわかってるけど、出来れば砂漠地帯に進出する前に治療魔法のヒールが欲しい。
 即時回復手段の有無は生存率に大きく関わってくるし。

 
 ペア探索を終えて朝食。それぞれの予定を確認しつつパーティ探索へ。
 アサヒとカンナも俺たちの往復に合わせて、その都度帰還することになった。移動時間を考えると、結局俺たちのスキップに便乗したほうが効率がいいからだ。
 俺のスキップ使用回数が倍になるだけで、他は特に問題ない。

 アサヒとカンナはチート能力が魔法系だったので、スキル取得前から魔法を使えていたこともあり、魔力量が比較的多い。今のところ2人で順調に探索を続けているようだ。
 ただし11階層からはトラップが出てくるようになるので、魔力感知を取れるまでは10階層を回り続けてもらう。

 カンパニー参加者、特に栄光の運び手達は15階層を越えているらしい。大型化する魔物にかなり苦戦しているようだが、真面目な訓練を続けて身につけた戦闘技術は嘘をつかない。
 被害を出さないように気をつけながら、着実に攻略を進めているようだ。

 アウタオ、ソリスタ、ドルメアの大人組ソロ3人衆も音魔法の扱いに慣れてきたらしく、相変わらずソロのままで10階層を探索しているようだ。もうこいつらは心配要らないだろう。


 ゲートを使ってウィルスレイアへ。
 冒険者ギルドに向かうと、シルグリイド家の使用人が待っていた。


「話は聞いてる。私はファーガロン様から貴方達の案内を申し付かった。名前は『カンカン』。
 貴方達の紹介は必要ないから、ウィルスレイアで何をしたいのか教えて欲しい」


 精霊家で女性の使用人に対応してもらうのは初めてだな。
 見た目は大分若そう。恐らく10代か? 犬っぽい大きな黒い耳が目立つ亜人の女性だ。


「俺たちの希望は2つ。過去にあった都市建設の記録を調べたいのと、魔導具製作について学びたいんだ。ウィルスレイアでこの2つは進められるかな?」

「そうね……。記録を調べるなら、ブラクムール大図書館に行くのがいいと思う。案内する。
 魔導具製作についてはなにが知りたい? 作り方? 理論? 歴史?」

「ん~? どういう違いがあるか分からないけど、基礎的な理論と製作技術を学びたいと思ってる。製作に必要なスキルは恐らく揃ってると思うし」

「わかった。理論も学びたいなら魔導具開発局の方に案内する。もし理論が必要なければ職人を紹介するつもりだったし、歴史が知りたければブラクムール図書館に案内するつもりだった」


 お、選ばなかったルートを開示してくれるのは親切だな。
 職人さんに技術を学ぶのも魅力的ではあるんだけど、俺は理屈から入るタイプだからな。技術を学ぶにしても、先に理論を頭に入れておきたい。

 カンカンにまず案内されたのは、まるで神殿みたいな巨大な建造物だった。
 警備も厳重で、都市の入り口や迷宮入り口よりも厳重な警備が敷かれている。


「ここがブラクムール大図書館だよ。王国の歴史の全てが記録されていると言われてる。
 利用料金は1人1日金貨3枚。その他に保証金として金板2枚必要になる。保証金は利用に問題がなければ帰りに返却されるから、安心していい」


 安心できねぇ~。保証金も利用料金も高すぎませんかねぇ? 全部合わせてほぼ白金貨1枚じゃん!
 まぁそれだけ記録の重要性が分かってるとも言えるし、中の情報には期待してもいいのかな?

 図書館の利用は日没までということなので、日没を目安に予定を立てる。


「それじゃ僕達は時間いっぱいまで調べ物をするよ。トーマも頑張ってね」


 みんなと別れる。俺も1度は図書館に入ってみたいな。中どうなってんだろ?


「それじゃトーマは魔導具開発局に行こ。私には魔導具製作の知識はないから、私に出来るのは紹介まで。それ以降は自分で何とかして欲しい」

「ああ、紹介してもらえるだけでもありがたいよ。早速行こうぜ」


 そして到着した建物は、四方を壁に囲まれた、ちょっと厳つい感じの建物だった。
 地球のイメージで例えるなら、刑務所に近いか? 刑務所と違って門は解放されているし、警備員が立ってたりもしないけど。

 この壁って警備のためにあるんじゃなくて、事故の被害を抑えるためにあるんじゃないだろうな……? 魔導具製作って、そんな危険を伴う作業だったら嫌なんだけど……。


 建物に入って、受付でカンカンがなにか伝えている。 
 するとカンカンと2人で、応接室のような場所に通された。


「魔導具開発局の局長が会ってくれるんだって。さっきも言ったけど、私に出来る事はここまで。
 シルグリイド家に連絡が取りたかったら、どこかのギルドから連絡して。話はつけておくから」

「了解。案内助かったよ。もし出来るなら、ファーガロン様にも感謝していたと伝えて欲しい」

「わかったわ。あとは局長に事情を話したら私は失礼する。ファーガロン様のご厚意を無駄にしないように」


 その時応接室のドアがノックされ、なんか立派な角が生えた男性が入室してきた。
 人の外見に角が生えてるから、鹿とか羊とかの亜人なのかな? 角で動物が分かるほど詳しくないからなぁ。
 1本角じゃなくて枝分かれしてる角だから、恐らくは鹿系?

 男が話し出す前にカンカンが男に近付き、短く用件を伝えて退室していった。
 カンカンが退室すると、男は俺に向き直って微笑んだ。


「話は聞いたよ。ファーガロン様の紹介で、魔導具製作の事を聞きたいそうだね。
 俺は魔導具開発局の局長を任されている『シーシーム』だ」

「6等級冒険者のトーマです。宜しく。
 実はこの度、砂漠地帯の開発計画が始まろうとしていまして、それに先んじて魔導具の基礎的な知識と技術を学ばせていただきに参りました」


 今まではただ単純に戦闘力を突き詰めていけば良かったけど、これからはもっと知識や技術も学んでいかなければいけない。
 
 俺達に協力してくれる沢山の人たちの期待を裏切らないように、せめて全力を尽くさないとな。
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