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9章 異邦人が生きるために
333 採用面接
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「なるほど。この街の国境の先に、新しく都市を建設するというのか。
心躍る計画ではあるが、とても困難極まる大事業となりそうだね。
そんな大事業を前にして、個人単位の魔導具の知識なんて、どの程度役に立つというんだい?」
シーシームが問いかけてくる。
それは試すような口調ではなく、純粋な疑問のように思えた。
「実は此方に来る前に先んじて、中央農地の見学もさせていただいたんです。
そこでは大規模な農地を支える、様々な魔導具の存在を知ることが出来ました。
リヴァーブ王国の都市建設において、魔導具の存在を無視することは絶対に出来ません。
計画を任された私が魔導具の知識が皆無では、どんな魔導具がどの程度必要であるか、判断出来ません。
開発が本格的に動き出す前に私自身が魔導具について学び直す必要があると感じ、この度ファーガロン様に無理を通して頂いた次第です」
なんだこれ。入社面接かよ?
ただウソは言ってないし、誤魔化しもしてない。
壁外都市建設計画に必要な要素だから学びに来た。ただそれだけのことだ。
「ふむ。生兵法は怪我の元、なんて言葉もある。中途半端が1番良くないということは理解しているかね?
それでも君自身が学ぶ必要があると言うのか? 君は魔導具職人の道を目指している訳でもないだろうに」
「中途半端が危険なら、本気で学べばいいだけです。
私自身が学ぶ必要がない? 他の人に任せる必要がない、の間違いでしょう。
どうか協力して頂けませんか? ウィルスレイアの砂漠地帯の、その先を見るために」
別にここで断られても別の人を探せばいいだけだけど、ここは探求都市ウィルスレイアの魔導具開発局。きっと学ぶ場所としては最高の環境だろう。
出来ればここで魔導具についての理解を深めたいところだが、シーシームはなんていうかな?
「ふむ。熱意は認めましょう。それではトーマさん。『魔力探知』はお持ちかな?」
「はい。取得してます」
「『魔力付与』、『魔法付加』、『魔力成型』、『魔法薬作成』、『錬金術』。
この中で持っているスキルは?」
「それらなら全て持ってますよ」
「――――は?」
「ですから、その5つなら全て取得済みです。使った事があるのは、『魔法付加』と『魔力成型』だけですが」
「ななな……! 全て取得済み……? そんな人間、ミルズレンダの職人にすら多くないはずだが……」
「これでも多少腕に覚えがありまして。それを買われてシルグリイド家に紹介状を書いてもらい、今回都市建設を任されたと言ったら、信用してもらえますかね?」
やっぱり魔力感知を含めたこの6つが、職人に必要なスキルということになるのか。
マーサも魔法付加まで持っているとしたら、数年単位で迷宮に連れて行かれてたのかもな。
「……どうやら貴方を侮りすぎていたようだ。申し訳無かった。
熱意も本物、必要なスキルも取得済みであるならば、その熱意に応えるのがウィルスレイアの礼儀というもの。
付いて来てくれ。建物内を案内させて欲しい」
どうやらシーシームの面接には合格できたようだ。
熱意とかよりも、スキルの有無が決め手だった気もするけどな。
『任意発動スキル強化』もあるから、スキルだけなら職人よりも上だと思う。スキルだけなら。
シーシーム自ら開発局の案内をしてくれる。
殆どの場所は俺には関係無さそうだけど、開発局の内部ってだけでワクワクしてくるから困る。
「トーマさんがまず利用すべきはここ、開発局資料室だ。
魔導具開発の基礎理論の資料などは揃っているので、本当に初歩的な知識は自主的に学んで欲しい。
開発局員にはそれぞれ仕事があるし、人に教えるが苦手な局員も少なくない。
資料室の局員に聞けばお勧めの資料を教えてくれるはずだし、記録すれば貸し出しも行っている。
紛失等の問題があった場合は、白金貨を超える賠償金を請求しなくてはいけないので、くれぐれも扱いには細心の注意を払うように」
なるほど。まずは教科書で予習しろってか。
ここにいるのは一線級の職人ばかり。俺の教育に時間を割いて欲しくないわけね。
せっかくなのでシーシームにお勧めの資料を選別してもらって、早速借りることにした。
貸し出しが可能なのはありがたい。家でじっくり読めるからな。
「それと、トーマさんには専属で1人局員を付けよう。『メンタム』という狐の獣人でね。優秀なのだが気分屋なところがある男だ。
壁外都市計画は私でも面白いと思う計画だからね。メンタムの興味をそそるかも知れない。
もしどうしても合わないと思ったら言ってくれ。その時は交代を検討すると約束しよう」
検討を約束されても微妙じゃね? 検討の結果そのままです。ってなるパターンじゃん?
でも狐の獣人はめっちゃ興味あるな。仲良くなりたい。
シーシームに案内され、開発局の中でもかなり奥まった部屋に案内される。
優秀だから奥に居るのか、使えないから追いやられてるのか、どっちかな。
「メンタム。私だ。入らせてもらうぞ」
拳で強めにドンドンとノックし、返事も待たずにドアを開けて中に入っていくシーシーム。
なんか強引な突入に慣れを感じるな。
意外とシーシームは苦労人なのかも知れない。
「っ!? ほ、埃が……! ゲッホ! グェッホ!」
こんな部屋に居られるか! 私は洗浄させてもらう!
風魔法に洗浄を乗せた空気洗浄魔法。何気にハロイツァと戦った時から使っている生活魔法だ。
「お、おい!? 今アンタ何やったんだ!?」
埃塗れの部屋の奥から出てきたのは、これまた埃だらけの狐の獣人だった。
すまん。返事の前に洗浄だけかけさせてくれ……!
心躍る計画ではあるが、とても困難極まる大事業となりそうだね。
そんな大事業を前にして、個人単位の魔導具の知識なんて、どの程度役に立つというんだい?」
シーシームが問いかけてくる。
それは試すような口調ではなく、純粋な疑問のように思えた。
「実は此方に来る前に先んじて、中央農地の見学もさせていただいたんです。
そこでは大規模な農地を支える、様々な魔導具の存在を知ることが出来ました。
リヴァーブ王国の都市建設において、魔導具の存在を無視することは絶対に出来ません。
計画を任された私が魔導具の知識が皆無では、どんな魔導具がどの程度必要であるか、判断出来ません。
開発が本格的に動き出す前に私自身が魔導具について学び直す必要があると感じ、この度ファーガロン様に無理を通して頂いた次第です」
なんだこれ。入社面接かよ?
ただウソは言ってないし、誤魔化しもしてない。
壁外都市建設計画に必要な要素だから学びに来た。ただそれだけのことだ。
「ふむ。生兵法は怪我の元、なんて言葉もある。中途半端が1番良くないということは理解しているかね?
それでも君自身が学ぶ必要があると言うのか? 君は魔導具職人の道を目指している訳でもないだろうに」
「中途半端が危険なら、本気で学べばいいだけです。
私自身が学ぶ必要がない? 他の人に任せる必要がない、の間違いでしょう。
どうか協力して頂けませんか? ウィルスレイアの砂漠地帯の、その先を見るために」
別にここで断られても別の人を探せばいいだけだけど、ここは探求都市ウィルスレイアの魔導具開発局。きっと学ぶ場所としては最高の環境だろう。
出来ればここで魔導具についての理解を深めたいところだが、シーシームはなんていうかな?
「ふむ。熱意は認めましょう。それではトーマさん。『魔力探知』はお持ちかな?」
「はい。取得してます」
「『魔力付与』、『魔法付加』、『魔力成型』、『魔法薬作成』、『錬金術』。
この中で持っているスキルは?」
「それらなら全て持ってますよ」
「――――は?」
「ですから、その5つなら全て取得済みです。使った事があるのは、『魔法付加』と『魔力成型』だけですが」
「ななな……! 全て取得済み……? そんな人間、ミルズレンダの職人にすら多くないはずだが……」
「これでも多少腕に覚えがありまして。それを買われてシルグリイド家に紹介状を書いてもらい、今回都市建設を任されたと言ったら、信用してもらえますかね?」
やっぱり魔力感知を含めたこの6つが、職人に必要なスキルということになるのか。
マーサも魔法付加まで持っているとしたら、数年単位で迷宮に連れて行かれてたのかもな。
「……どうやら貴方を侮りすぎていたようだ。申し訳無かった。
熱意も本物、必要なスキルも取得済みであるならば、その熱意に応えるのがウィルスレイアの礼儀というもの。
付いて来てくれ。建物内を案内させて欲しい」
どうやらシーシームの面接には合格できたようだ。
熱意とかよりも、スキルの有無が決め手だった気もするけどな。
『任意発動スキル強化』もあるから、スキルだけなら職人よりも上だと思う。スキルだけなら。
シーシーム自ら開発局の案内をしてくれる。
殆どの場所は俺には関係無さそうだけど、開発局の内部ってだけでワクワクしてくるから困る。
「トーマさんがまず利用すべきはここ、開発局資料室だ。
魔導具開発の基礎理論の資料などは揃っているので、本当に初歩的な知識は自主的に学んで欲しい。
開発局員にはそれぞれ仕事があるし、人に教えるが苦手な局員も少なくない。
資料室の局員に聞けばお勧めの資料を教えてくれるはずだし、記録すれば貸し出しも行っている。
紛失等の問題があった場合は、白金貨を超える賠償金を請求しなくてはいけないので、くれぐれも扱いには細心の注意を払うように」
なるほど。まずは教科書で予習しろってか。
ここにいるのは一線級の職人ばかり。俺の教育に時間を割いて欲しくないわけね。
せっかくなのでシーシームにお勧めの資料を選別してもらって、早速借りることにした。
貸し出しが可能なのはありがたい。家でじっくり読めるからな。
「それと、トーマさんには専属で1人局員を付けよう。『メンタム』という狐の獣人でね。優秀なのだが気分屋なところがある男だ。
壁外都市計画は私でも面白いと思う計画だからね。メンタムの興味をそそるかも知れない。
もしどうしても合わないと思ったら言ってくれ。その時は交代を検討すると約束しよう」
検討を約束されても微妙じゃね? 検討の結果そのままです。ってなるパターンじゃん?
でも狐の獣人はめっちゃ興味あるな。仲良くなりたい。
シーシームに案内され、開発局の中でもかなり奥まった部屋に案内される。
優秀だから奥に居るのか、使えないから追いやられてるのか、どっちかな。
「メンタム。私だ。入らせてもらうぞ」
拳で強めにドンドンとノックし、返事も待たずにドアを開けて中に入っていくシーシーム。
なんか強引な突入に慣れを感じるな。
意外とシーシームは苦労人なのかも知れない。
「っ!? ほ、埃が……! ゲッホ! グェッホ!」
こんな部屋に居られるか! 私は洗浄させてもらう!
風魔法に洗浄を乗せた空気洗浄魔法。何気にハロイツァと戦った時から使っている生活魔法だ。
「お、おい!? 今アンタ何やったんだ!?」
埃塗れの部屋の奥から出てきたのは、これまた埃だらけの狐の獣人だった。
すまん。返事の前に洗浄だけかけさせてくれ……!
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