385 / 580
9章 異邦人が生きるために
346 成長の可能性
しおりを挟む
女性職員は完全に興奮し切っていて、謝れだの取り消せだの煩かったのだが、女性研究員からひと通り話を聞いた年配の男は、彼女に別の仕事を指示して退室させてしまった。
どうやらこの男は会話が出来そうだ。
「さて、彼女の言い分は聞かせてもらった。今度は君の言い分を聞かせてもらおうか。
ああそうだ。私はここの院長をしている。君の話が歪曲して伝わる心配は無い」
「突然訪問した事はこちらに非がありますけどね。こっちだって用事があって来てるというのに、真面目に対応してもらえなくて困ってたんですよ。
探求都市ウィルスレイアでここを紹介してもらったので、出来れば無駄足にはしたくないんですけどね?」
「……あまり彼女を悪く思わないでやって欲しい。
今ここでは非常に重要な検証が行われていてね。研究員一同、満足な休息も取れない状態なのだ。
彼女の態度に問題があったとすれば、それは彼女に負担を強いた私の責任だろう」
おお、ちゃんと部下の失態の責任を被る上司らしい。良い人だ。
「真面目に話をしてくれればそれで充分ですよ。院長さんに用件をお伝えしても?」
「聞かせてもらおう。だが先ほども言ったように私達は今非常に忙しい。出来るだけ手短に頼む」
「了解です。俺たちはウィルスレイアの東の砂漠地帯を進むために、砂漠の移動に適した魔物を従魔にしたいと思っています。ですが現地の狩人に確認したところ、アサルトドラゴンやデューンサラマンダー以上の魔物の情報は得られなかったんです。
ですので、魔物について専門に研究しているというこちらに足を運ばせていただきました」
「……なるほどな。彼女が怒った理由が理解できたよ。
君が何をするつもりなのかは知らないが、砂漠で狩人の真似事をするなら、その2種類の魔物で充分すぎるのだよ。それ以上の魔物など、管理や従属の手間を考えても無駄でしかないからね」
「この2種類の魔物で砂漠の果てまでいけるっていうなら参考にしますよ。
俺の目的はユリバファルゴアの討伐です。アサルトドラゴンやデューンサラマンダーで、エリアキーパーが居るところまで行けますか?」
専門家にOKが貰えるなら、それはそれで構わない。
素直にそいつら従属させればいいだけだしな。
「――――君はいったい誰だ? どうしてユリバファルゴアの名を……、エリアキーパーの存在を知っている……!?
それに、ユリバファルゴアの討伐だって……!? 相手はこの世界が生まれた時から存在していると思われる、神の如き存在だぞっ……!?」
創世の時から生き長らえている存在、か。
魔物って成長とかするんだろうか? それとも能力は固定?
俺たちが討伐したランドビカミウリは、言ってしまえば生まれたての状態だった。
もしも魔物に成長要素があるのだとすれば、ユリバファルゴアの戦闘力は、ボールクローグで戦ったランドビカミウリを大きく上回る可能性が出てきたなぁ……。
「ファーガロン様から聞いてますよ。ランドビカミウリがリヴァーブ王国付近のエリアキーパーだったって可能性があるって話もね。
ランドビカミウリだって殺せたんだし、ユリバファルゴアだって殺せない道理はない。だからそこに辿り着くための騎乗魔物を探してるんですよ」
「ファーガロン……、シルグリイド・ファーガロン様かっ!?
君は本当に何者なのだっ!? ランドビカミウリを殺せたって、どうい、う意味……。
――――済まない。君の名前を教えてくれるか……」
「あれ? 受付の人から伝わってなかったんですか。異風の旋律のトーマです」
「異風の旋律……。
もし間違っていたら……、大変申し訳ないのだが、ボールクローグにて出現した、ランドビカミウリを討伐した冒険者パーティというのは、ひょっとして、君のことかね……?」
「俺たちのパーティですね。勿論メンバー全員で協力して、なんとか勝てたって話ですけど」
ランドビカミウリには、正攻法では触れることすら出来なかった。
もしもユリバファルゴアの方が強いというなら、最低限の準備として、『身体能力強化:大』と『魔力量増加:大』、そして『常時発動スキル強化』の3つは取得しないと危険かも知れない。
「信じられん……、信じられんが。君がエリアキーパーの存在と、ユリバファルゴアの名を知っていることが、君の話を裏付ける、何よりの証拠と言えるのだろうな……。
は、はは、信じられん……。本当にただの冒険者にしか見えない君に、ランドビカミウリが討伐できたなんて、信じられんが……。本当に冒険者の手で、エリアキーパーを殺すことが出来るなんて、これは夢ではないのか……?」
「今までは魔物が強すぎたんじゃなくて、冒険者が弱すぎただけですよ。
流石に誰でも出来るって話じゃないでしょうけど、これから冒険者の強さは劇的に変わっていきますよ。それこそエリアキーパーに対抗できるくらいにね?」
というかこの世界ってまだ1%も開発されてないらしいからな。
異邦人がいないとエリアキーパーが倒せない、なんてことになったら世界の開発が止まっちゃうわ。
冒険者の質の向上は必須なんだよね。
「変わっていく……。これから色んなものが変わっていくのだな……!
この時代に生まれた事に感謝しよう! どうやら私も、世界の変化を見届けることくらいは出来そうだからな!」
院長さんは泣いているような笑っているような、不思議な表情をしながら天を仰いでいる。
この世界の寿命は知らないけど、60代なら余裕で見届けられるでしょ。
きっと1年も経たないうちに、色んなことが変わっていくのだろうから。
どうやらこの男は会話が出来そうだ。
「さて、彼女の言い分は聞かせてもらった。今度は君の言い分を聞かせてもらおうか。
ああそうだ。私はここの院長をしている。君の話が歪曲して伝わる心配は無い」
「突然訪問した事はこちらに非がありますけどね。こっちだって用事があって来てるというのに、真面目に対応してもらえなくて困ってたんですよ。
探求都市ウィルスレイアでここを紹介してもらったので、出来れば無駄足にはしたくないんですけどね?」
「……あまり彼女を悪く思わないでやって欲しい。
今ここでは非常に重要な検証が行われていてね。研究員一同、満足な休息も取れない状態なのだ。
彼女の態度に問題があったとすれば、それは彼女に負担を強いた私の責任だろう」
おお、ちゃんと部下の失態の責任を被る上司らしい。良い人だ。
「真面目に話をしてくれればそれで充分ですよ。院長さんに用件をお伝えしても?」
「聞かせてもらおう。だが先ほども言ったように私達は今非常に忙しい。出来るだけ手短に頼む」
「了解です。俺たちはウィルスレイアの東の砂漠地帯を進むために、砂漠の移動に適した魔物を従魔にしたいと思っています。ですが現地の狩人に確認したところ、アサルトドラゴンやデューンサラマンダー以上の魔物の情報は得られなかったんです。
ですので、魔物について専門に研究しているというこちらに足を運ばせていただきました」
「……なるほどな。彼女が怒った理由が理解できたよ。
君が何をするつもりなのかは知らないが、砂漠で狩人の真似事をするなら、その2種類の魔物で充分すぎるのだよ。それ以上の魔物など、管理や従属の手間を考えても無駄でしかないからね」
「この2種類の魔物で砂漠の果てまでいけるっていうなら参考にしますよ。
俺の目的はユリバファルゴアの討伐です。アサルトドラゴンやデューンサラマンダーで、エリアキーパーが居るところまで行けますか?」
専門家にOKが貰えるなら、それはそれで構わない。
素直にそいつら従属させればいいだけだしな。
「――――君はいったい誰だ? どうしてユリバファルゴアの名を……、エリアキーパーの存在を知っている……!?
それに、ユリバファルゴアの討伐だって……!? 相手はこの世界が生まれた時から存在していると思われる、神の如き存在だぞっ……!?」
創世の時から生き長らえている存在、か。
魔物って成長とかするんだろうか? それとも能力は固定?
俺たちが討伐したランドビカミウリは、言ってしまえば生まれたての状態だった。
もしも魔物に成長要素があるのだとすれば、ユリバファルゴアの戦闘力は、ボールクローグで戦ったランドビカミウリを大きく上回る可能性が出てきたなぁ……。
「ファーガロン様から聞いてますよ。ランドビカミウリがリヴァーブ王国付近のエリアキーパーだったって可能性があるって話もね。
ランドビカミウリだって殺せたんだし、ユリバファルゴアだって殺せない道理はない。だからそこに辿り着くための騎乗魔物を探してるんですよ」
「ファーガロン……、シルグリイド・ファーガロン様かっ!?
君は本当に何者なのだっ!? ランドビカミウリを殺せたって、どうい、う意味……。
――――済まない。君の名前を教えてくれるか……」
「あれ? 受付の人から伝わってなかったんですか。異風の旋律のトーマです」
「異風の旋律……。
もし間違っていたら……、大変申し訳ないのだが、ボールクローグにて出現した、ランドビカミウリを討伐した冒険者パーティというのは、ひょっとして、君のことかね……?」
「俺たちのパーティですね。勿論メンバー全員で協力して、なんとか勝てたって話ですけど」
ランドビカミウリには、正攻法では触れることすら出来なかった。
もしもユリバファルゴアの方が強いというなら、最低限の準備として、『身体能力強化:大』と『魔力量増加:大』、そして『常時発動スキル強化』の3つは取得しないと危険かも知れない。
「信じられん……、信じられんが。君がエリアキーパーの存在と、ユリバファルゴアの名を知っていることが、君の話を裏付ける、何よりの証拠と言えるのだろうな……。
は、はは、信じられん……。本当にただの冒険者にしか見えない君に、ランドビカミウリが討伐できたなんて、信じられんが……。本当に冒険者の手で、エリアキーパーを殺すことが出来るなんて、これは夢ではないのか……?」
「今までは魔物が強すぎたんじゃなくて、冒険者が弱すぎただけですよ。
流石に誰でも出来るって話じゃないでしょうけど、これから冒険者の強さは劇的に変わっていきますよ。それこそエリアキーパーに対抗できるくらいにね?」
というかこの世界ってまだ1%も開発されてないらしいからな。
異邦人がいないとエリアキーパーが倒せない、なんてことになったら世界の開発が止まっちゃうわ。
冒険者の質の向上は必須なんだよね。
「変わっていく……。これから色んなものが変わっていくのだな……!
この時代に生まれた事に感謝しよう! どうやら私も、世界の変化を見届けることくらいは出来そうだからな!」
院長さんは泣いているような笑っているような、不思議な表情をしながら天を仰いでいる。
この世界の寿命は知らないけど、60代なら余裕で見届けられるでしょ。
きっと1年も経たないうちに、色んなことが変わっていくのだろうから。
0
あなたにおすすめの小説
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる