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10章 壁外世界
397 暁と透月
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「トーマ。待たせちまったがダガーが完成したぜ。受け取ってくれ」
釘打ちを始めて3日も経った頃、夕食後にマーサに2本の短刀を渡される。
燃えるような赤い刀身をした短刀と、透き通るような薄青い刀身をした短刀だった。
「今のところ最強の素材はユリバファルゴアだからな。エリアキーパーの素材を使って装備品を1つも作らないってぇのは、鍛冶職人としての矜持が許さねぇってもんだぜ。
ユリバファルゴアの鱗から削りだした2本のカタナって奴だ。残念ながら頭部の素材は跡形もねぇしよ」
頭部素材はなー……。流石にそんなもの気にしてられる余裕は全くなかった。
素材と言えば、地中深くにも相当量の胴体を斬り捨ててきちまったんだよなぁ……。
それでも有り余ってるけどさ。
「ん? 2本ともユリバファルゴアの鱗から削りだした? ならなんで2本の色が違ってるんだよ?」
「あっはっは! 正直わかんねぇ!
2本を作り上げたときは普通だったんだがよ? 心核を使ったら色が変わっちまったんだよなぁ」
へぇ。流石は謎の多い素材だわ。
心核を使うことで性質が変化する、か。ありうる話だ。鈴音を見てると納得してしまう。
「つーわけで、今回も私は名付けてねぇんだ。鈴音の例もあるしよ。こいつらの名前はトーマが決めてくれよ」
赤と青の対の短刀かぁ。
「じゃあ……。赤い方を『暁』。青い方を『透月』にしようかな」
名前を付けた瞬間、2本から魔力の波が放たれたように感じた。
気に入って、くれたのかな?
「うん。暁は夜明けを意味する言葉だし、『炎魔法』使いのアサヒを連想するにはピッタリの赤い刃だよね。
透月は十月とかけたのかな? 神無月だもんね。それに『氷魔法』使いのカンナにピッタリの青い刃だし」
「ハルさん、お宅はエスパーか何かですか? っていうか口に出すの止めてもらえませんかねぇ!?」
嫁の名前を武器につけるなんて暴露されたら堪ったもんじゃねぇんだよ!
鈴音があるからもう手遅れなんだけどさぁ!
「あっはっはっはっはー! トーマってうちらのこと好きすぎっしょー! 恥ずかしがらなくてもいいんすよー?」
「実力的にも短刀くらいがちょうどいいかしらね?
ねぇトーマ。ハルの言ってたことが当たってるなら、私達にも持たせてくれないかしら?」
「うるせぇな! 年齢半分の嫁に好きとか、恥ずかしいに決まってんだろが!
……たく、ほらよ」
アサヒに暁を、カンナに透月を差し出す。
それぞれが触れた瞬間、暁と透月から伝わってくるものがあった。
この2本は、今完成したのだと。
「その様子だと、トーマも感じたみたいっすね? 手を触れた瞬間、暁が私の深いところと繋がったような感覚を覚えたっすよ」
「私もだわ。透月に魔力を吸われたような気がしたけれど、アサヒが言う通り、繋がったと言った方が正確かも」
なんだろうな? やっぱり心核武器って特殊な気がする。
他のみんなの武器も、こんな感覚を持っているんだろうか?
「今さら取り繕っても仕方ないからな。この2本を2人だと思って戦場に連れて行くよ。
マーサもいつもありがとな。最高の出来栄えだぜ」
「はっ! この2本を完成させたのは私じゃねぇ気もすっけどな。ありがたく礼を受け取っておくぜ」
鈴音の例もある。この2本にも何らかの魔法効果が付与されていそうだ。
でも鈴音の威力を考えると、ちょっと気軽に試せないよな。
ソロ探索のときにでも確かめてみよう。
武器だけじゃない繋がりを確かめてから、この日は眠りについた。
「……やっぱ心核武器は頭おかしいわ……」
鈴音の能力は音魔法。なので俺専用武器は生活魔法と親和性が高い。
そう睨んで試した見た結果、暁は火魔法、透月は熱魔法との相性が抜群に良かった。
2本とも生活魔法の効果を限界以上に高め、暁は火魔法で刀身に炎を纏うことが出来、透月は熱魔法で氷を纏うことが出来るようだった。
やべぇ。この世界に存在しないはずの氷魔法使いに、俺もなっちゃったじゃん……。
性能が有用なのは間違いないので、暇を見て色々考えてみようかな。
「へぇ? 炎魔法と氷魔法を使えるようになっちゃったの? これでトーマがチートを持ってないって説は否定されたね。むしろ2つも持ってることになるじゃないか」
「いやいや、俺の能力は出来た嫁達から賜ったものしかないから。
でもま、出来る事が増えたのは素直にありがたいかな。
それじゃ今日も宜しくっと」
4日目ともなると、俺もシンも完全に作業になってしまって、行きも帰りも普通に撃鉄を使って移動をしてしまった。
慣れてくると結構快適だったり? まさにロケットスタートって感じで。
しかし4日も潜っているのに、原生生物が全く見当たらないのはどうしたものか。
俺たちってスキルのおかげで深海エリアを生身で歩いているけど、『環境適応:小』までしか持っていないはずの原生生物達は、もっと浅い海域に住んでる可能性も少なくない気がするなぁ。
勿論スキルのおかげで、普通では考えられないような深さにも潜れるかもしれないけど。
う~ん。音魔法での魔物釣りの最中にも、1度も姿を表してくれないんだよねぇ。
このまま進んでいけば、いつかエリアキーパーと遭遇する可能性は極めて高い。エリアキーパー相手に逃げ切れる程度の速度を持った生物だと良いんだけどな。
そんなことを考えながら釘を打ち込み続けていると、遠見を使った先の浅い海域に、1匹のウミガメが泳いでいるのが見えた。
釘打ちを始めて3日も経った頃、夕食後にマーサに2本の短刀を渡される。
燃えるような赤い刀身をした短刀と、透き通るような薄青い刀身をした短刀だった。
「今のところ最強の素材はユリバファルゴアだからな。エリアキーパーの素材を使って装備品を1つも作らないってぇのは、鍛冶職人としての矜持が許さねぇってもんだぜ。
ユリバファルゴアの鱗から削りだした2本のカタナって奴だ。残念ながら頭部の素材は跡形もねぇしよ」
頭部素材はなー……。流石にそんなもの気にしてられる余裕は全くなかった。
素材と言えば、地中深くにも相当量の胴体を斬り捨ててきちまったんだよなぁ……。
それでも有り余ってるけどさ。
「ん? 2本ともユリバファルゴアの鱗から削りだした? ならなんで2本の色が違ってるんだよ?」
「あっはっは! 正直わかんねぇ!
2本を作り上げたときは普通だったんだがよ? 心核を使ったら色が変わっちまったんだよなぁ」
へぇ。流石は謎の多い素材だわ。
心核を使うことで性質が変化する、か。ありうる話だ。鈴音を見てると納得してしまう。
「つーわけで、今回も私は名付けてねぇんだ。鈴音の例もあるしよ。こいつらの名前はトーマが決めてくれよ」
赤と青の対の短刀かぁ。
「じゃあ……。赤い方を『暁』。青い方を『透月』にしようかな」
名前を付けた瞬間、2本から魔力の波が放たれたように感じた。
気に入って、くれたのかな?
「うん。暁は夜明けを意味する言葉だし、『炎魔法』使いのアサヒを連想するにはピッタリの赤い刃だよね。
透月は十月とかけたのかな? 神無月だもんね。それに『氷魔法』使いのカンナにピッタリの青い刃だし」
「ハルさん、お宅はエスパーか何かですか? っていうか口に出すの止めてもらえませんかねぇ!?」
嫁の名前を武器につけるなんて暴露されたら堪ったもんじゃねぇんだよ!
鈴音があるからもう手遅れなんだけどさぁ!
「あっはっはっはっはー! トーマってうちらのこと好きすぎっしょー! 恥ずかしがらなくてもいいんすよー?」
「実力的にも短刀くらいがちょうどいいかしらね?
ねぇトーマ。ハルの言ってたことが当たってるなら、私達にも持たせてくれないかしら?」
「うるせぇな! 年齢半分の嫁に好きとか、恥ずかしいに決まってんだろが!
……たく、ほらよ」
アサヒに暁を、カンナに透月を差し出す。
それぞれが触れた瞬間、暁と透月から伝わってくるものがあった。
この2本は、今完成したのだと。
「その様子だと、トーマも感じたみたいっすね? 手を触れた瞬間、暁が私の深いところと繋がったような感覚を覚えたっすよ」
「私もだわ。透月に魔力を吸われたような気がしたけれど、アサヒが言う通り、繋がったと言った方が正確かも」
なんだろうな? やっぱり心核武器って特殊な気がする。
他のみんなの武器も、こんな感覚を持っているんだろうか?
「今さら取り繕っても仕方ないからな。この2本を2人だと思って戦場に連れて行くよ。
マーサもいつもありがとな。最高の出来栄えだぜ」
「はっ! この2本を完成させたのは私じゃねぇ気もすっけどな。ありがたく礼を受け取っておくぜ」
鈴音の例もある。この2本にも何らかの魔法効果が付与されていそうだ。
でも鈴音の威力を考えると、ちょっと気軽に試せないよな。
ソロ探索のときにでも確かめてみよう。
武器だけじゃない繋がりを確かめてから、この日は眠りについた。
「……やっぱ心核武器は頭おかしいわ……」
鈴音の能力は音魔法。なので俺専用武器は生活魔法と親和性が高い。
そう睨んで試した見た結果、暁は火魔法、透月は熱魔法との相性が抜群に良かった。
2本とも生活魔法の効果を限界以上に高め、暁は火魔法で刀身に炎を纏うことが出来、透月は熱魔法で氷を纏うことが出来るようだった。
やべぇ。この世界に存在しないはずの氷魔法使いに、俺もなっちゃったじゃん……。
性能が有用なのは間違いないので、暇を見て色々考えてみようかな。
「へぇ? 炎魔法と氷魔法を使えるようになっちゃったの? これでトーマがチートを持ってないって説は否定されたね。むしろ2つも持ってることになるじゃないか」
「いやいや、俺の能力は出来た嫁達から賜ったものしかないから。
でもま、出来る事が増えたのは素直にありがたいかな。
それじゃ今日も宜しくっと」
4日目ともなると、俺もシンも完全に作業になってしまって、行きも帰りも普通に撃鉄を使って移動をしてしまった。
慣れてくると結構快適だったり? まさにロケットスタートって感じで。
しかし4日も潜っているのに、原生生物が全く見当たらないのはどうしたものか。
俺たちってスキルのおかげで深海エリアを生身で歩いているけど、『環境適応:小』までしか持っていないはずの原生生物達は、もっと浅い海域に住んでる可能性も少なくない気がするなぁ。
勿論スキルのおかげで、普通では考えられないような深さにも潜れるかもしれないけど。
う~ん。音魔法での魔物釣りの最中にも、1度も姿を表してくれないんだよねぇ。
このまま進んでいけば、いつかエリアキーパーと遭遇する可能性は極めて高い。エリアキーパー相手に逃げ切れる程度の速度を持った生物だと良いんだけどな。
そんなことを考えながら釘を打ち込み続けていると、遠見を使った先の浅い海域に、1匹のウミガメが泳いでいるのが見えた。
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