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12章 俺が望んだ異世界生活

500 夜間飛行

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「魔導具が完成したぜトーマ! と言っても試作品には変わんねぇけどな!
 早速試してみてくれよ!」


 タケルとの悪巧みを終えて帰宅すると、マーサに魔導具の試作品を渡された。
 渡された魔導具は背嚢のように背負うタイプで、背負ったあとは胸の前のベルトを十字に止めて固定するようだ。


「そんじゃしっかり固定できたら、魔導具に魔力を送ってみてくれ」


 言われるままに魔力を通すと、魔導具から純白の羽が現れた。
 純白ではあるけど。コウモリとかみたいに薄皮が広がっているタイプの羽だな。


「そいつはリーンが切り落とした、ランドビカミウリの翼の飛膜だぜ。強度も魔力感応精度も申し分ないはずだ。
 収納しようと思えば収納可能だから、背負ったままでも邪魔にはならないと思うぜ」

「なるほどね。山岳エリアに居るうちは背負ったままで行動できるってわけか。
 しかしエリアキーパーの素材を贅沢に使ってるよなぁ、うちって」

「そりゃエリアキーパーをほぼ単独で倒してる異風の旋律が悪いんだよ!
 そんで魔力操作で羽の角度が多少変えられるようになってる。滑空をメインに考えたから、羽ばたくような事は出来ないけどよ。動作を確認してくれ」


 魔力を流して魔導具を操作してみる。
 なるほどなぁ~。確かにマーサの言う通り、羽ばたくような動きは出来ないみたいだ。

 どちらかというと、角度の調整がメインって感じなんだろうな。
 確かに滑空に特化した魔導具のようだ。


「後はトーマが実際に使ってみて、使用感を報告して欲しいんだよ。私が試すには危険だからさ」

「俺なら魔導具に不具合があっても生き残れるから、か。
 モルモットになるのは気が進まないけど、確かにこんなもん嫁には任せられねぇわな」


 それじゃ仕方ない。
 科学の発展の為の尊い犠牲となろうじゃないか! って犠牲にはならんわ。


「そんじゃせっかくだし今から試してくるよ。夕食は俺の分残しておいてね?」


 魔導具の羽を解放した状態で上方向に転移。
 そこから風魔法で羽に風を送りつつ、角度を調整して滑空を始める。

 お、おおお?
 こ、これ……、すげぇ面白ぇんだけどっ!?


「すっげえええええええ!」


 眼前に広がるのはどこまでも広い世界。
 既に日は落ちているけど、『暗視』があるから何処までも世界が続いているのが見える。

 この魔導具やべぇな!? 完全に風を掴んで空中移動が可能になっている!

 この世界って気候が安定しすぎているため、風を掴めるかが少々不安だったんだけど、そんな不安を吹き飛ばせるくらいに刺激的な光景だ!

 ああもう! 雪エリアは分厚い雲に覆われているせいで先が見渡せないじゃないか!


 それにしてもこの魔法グライダー、恐らく魔法的な効果で飛行の制御も行われてるよな?
 俺も嫁も、ハンググライダーの翼の構造なんて、見た目くらいしか知らないはずだ。

 物理的に計算され尽くした角度とか、マーサが偶然再現したと考えるのは都合が良すぎる。
 魔法効果で飛行能力をサポートしている、と考える方がよっぽどご都合主義かもしれないけど、リンカーズでは魔法効果と言われる方が説得力があるよね。

 しかも風魔法で風を自前で供給できるから、魔力が続く限り何処までも飛べるんじゃねぇのかこれ?
 下手すると海エリアの探索にすら使えそうな気配がしてくるぞ?
 風魔法を使えば上昇も出来るっぽいからな

 水中用魔導具の時もマーサすげぇと思ったもんだけど、今回の飛行魔導具は画期的過ぎるだろ。
 一定以上の実力を持った冒険者の移動事情に革命が起こるぞっ!


「うん。まず高高度から落ちても死なずに済む冒険者って、殆ど居ないからね? 多分シンでも厳しいと思うかな?」

「トーマくらいのものですよねぇ。ユリバファルゴアの時って、確かこの家よりも遥か高いところから落下したんでしたっけ。
 どうやって生き延びれたのか不思議すぎますよ。マーサ製の装備だけじゃ生き残れませんって」

「トーマだって自分で言ってるけど、トーマの強さってスキルとか魔法とか装備とか、それら全部を合わせた上の更に先にあるものだからねー? あんまり自分基準で物事を語っちゃダメなんだよー?」

「うーん……。でも私も空を飛んでみたいって思うなぁ……。
 迷宮でスキルを取得できないなら、ミケーネに頼んで砂漠の魔物狩りまくろうかな……?」

「だっはっは! リーネが魔物の殺戮に燃えてやがるぜっ! 気持ちは分かるがよ!
 空を自由に飛べるなんてとんでもねぇ魔導具だからよ。せめて家族分くらいは用意してぇところだぜ。
 トーマにはなるべく色んな検証をしてもらって、研究を続けていこうじゃねぇか!」

「そうっすね。空を飛ぶだけなら気球とかでも良さそうっすかね? 魔法があれば制御も簡単そうっすし。
 ただ速く動けない乗り物だと、魔物に狙われる危険性はあるっすよね、この世界だと」

「あーでも発想自体はいいんじゃない? 浮力は科学方面で、操縦は魔法方面で考えれば、意外と飛行船くらいなら作れてもおかしくないんじゃないかしら?」

「飛行船よりもパラシュート作ったほうが早くねぇ? この魔法グライダーとセットに出来れば、落下死の危険性が一気に減るだろうし」


 この魔法グライダーは画期的過ぎるでしょ。
 雪エリアみたいな気象条件でなければ、あらゆるエリアで使っていけるかもしれない。

 あとは山岳エリアの探索中に、戦闘が出来るくらいまで操作に慣れないとな。

 超高高度を飛ぶ魔物が現れないとも限らないし。
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