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12章 俺が望んだ異世界生活

閑話039 解放 ※アリス視点

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 80階層に到達する頃には、白金板100枚以上が口座に納められていたのに気付く。
 これから何度も王都に足を運ぶ事を考えたら、ゲートを覚えるのもいいかもしれないな。

 もう1000枚ほど稼がなきゃいけないけれど……。このペースなら全然いける。
 問題なのは時間だけ……!

 ジェネレイトのおかげで魔力回復速度が明らかに早くなった。
 スキップを自分で使えるようになったおかげで、探索時間に縛られなくて良くなった。
 ストレージのおかげで、手ぶらで探索できる上に1回で持ち帰れる量も増えた。

 1日の稼ぎで白金板数枚まで到達するようになって、当時のトーマやタケルさんの金銭感覚の基準はこの辺りだったんだろうと思い至る。
 いえ、ここよりも更に先なのか。

 タケルさんは白金板100枚を1日で稼げると言っていた。トーマは1000枚でも1日で稼げると言っていた。
 私と2人の実力には、まだまだ大きな隔たりがあるということね。


 深い階層に潜るほど魔物は強く大きくなっていく。
 でも1階層ずつ地道に進んできた者であれば、今さらどんな魔物が出てきたって問題じゃない。

 私はただひたすらにお金を稼ぎ続けた。

 ソリスタさんはもうこの迷宮を踏破して、高層型迷宮も踏破してしまって今は開放型迷宮に挑んでいると聞いた。
 開放型迷宮は難易度が高い分お金稼ぎには向いているという話だし、私も積層型迷宮を踏破した暁には開放型迷宮に挑んでみるべきなのかもしれないな。


 日を追うごとにルイナスリームには冒険者が増えていく。
 商店などは商工ギルドが異邦人を優先しているために最低限のものしか増えていないけれど、宿がなくてもルイナスリームで稼ぎたいと思う冒険者も多いらしく、他の都市の管理迷宮を越えてきた冒険者などは、ゲートを使って通ってまでルイナスリームの迷宮に挑んでいる人すら居るみたい。
 おかげで今まで普通に買えた空間魔法のスクロールの在庫がなくなったらしい。

 聞いた話によると、あの店のスクロールの在庫は殆どトーマが1人で入荷していたものらしい。そして王国解放軍との1件で卸してもらえなくなったんだ、と……。
 こんなところでまた、私がしたことの影響を突きつけられる。


 迷宮に入り始めて100日以上が経過して、私はとうとう114階層に到達することが出来た。
 そう、たった100日。たった3ヶ月ちょっと……。

 私がベイクで冒険者として活動し始めてから王国解放軍の騒動を起こすまで、私はいったいなにをしていたの……?
 甘えているなんてものじゃない……。
 これじゃ何もしていなかったと馬鹿にされても言い返せないじゃないの……!


 114階層は私が行く意味はなさそうだったので、そこから連日113階層を往復し続けた。
 1回の探索で白金板数枚稼げるし、ストレージの容量も増えたしで、まずはシルヴァールを助けるまでは慣れない開放型に行くよりもこの迷宮に集中すべきだと思ったから。

 事実1日で白金板100枚近く稼げるようになり、8日後、ついに1100枚の白金板が用意できた!

 急いでネヴァルドに行き、ギルドで問い合わせてもらうと、すぐに城から使いが来て城に連れて行かれた。


「シルヴァールという名前は忘れてください。あの女の名前は『ルル』です。彼女は基本的に自由にさせて構いませんが、出産前後の50~100日は城に拘束させて頂きます。ルルは今後10人の世継ぎを産むまで解放されることはありません。
 ルルを死なせる事があったら、この国の総力を持ってルイナスリームを壊滅させると心得てください」


 シルヴァール……、ルルと名前を変えられた彼女に再会する前に絶対に彼女を死なせてはいけないと厳命された。
 彼女は今後、10人も子供を産まないと本当の意味での自由は得られないのだ……。

 私が彼女と知り合ってしまったせいで、彼女の人生は最悪のものになってしまった……。


「……アリス? アリス様なんですか……?
 ア、アリス様、アリス様! ああああああああっ!!」


 連れられてきた彼女は私を見るなり抱きついてきて大声で泣き出した。

 私は彼女を抱き返すことも出来ずに、彼女が落ち着くのを待ってからルイナスリームに連れ帰った。


 宿に戻ったは良いけれどシルヴァ……ルルは既に身重だった。
 この世界では妊婦もギリギリまで迷宮に潜り続けるというけれど、それでも宿だと彼女と暮らすのは不可能に思えた。
 彼女はずっと拘束されていて、人の気配に異常に怯えるようになっていた為、不特定多数の人が出入りする宿では常に怯え続けていたからだ。

 今の私にはお金を稼ぐ術があるんだ。
 家を買って、ルルと一緒にそこで暮らそう。


 しかしルイナスリームで敵視されている私達にルイナスリームの中に家を立てることは許されず、雪エリア側の入り口を出た先に、小さな家を建ててもらうのが精一杯だった。
 でも周囲に人がいないだけで充分だ。ここで頑張って、あとの2人も助け出さないと……!

 ルルは本当に生活能力が皆無で、戦闘能力も持ち合わせていなかったけれど、逆に私が未だに苦手な読み書きは出来た。
 ルルに家事や戦い方を教えながら、私はルルに読み書きを教わる。

 そんな生活をしながら15日ほどが経った頃、また1000枚の白金板が貯まっていた。
 こんな簡単に稼げるものに、ルルを助けるまでに100日以上かけてしまった自分の不甲斐なさが情けなくて仕方ないっ……!


「この男は人間相手に危害を加える事が許されていません。もし狙われれば子供にだって無抵抗に殺されることでしょう。他人の恨みを買わないように気をつけて生活なさってください。既に買っている恨みまではどうしようもありませんが」


 アラタに科せられた義務は特に無かった。けれど対人戦闘能力を誓約によって完全に奪われてしまい、赤子にすら勝つことが出来なくなってしまったらしい。

 誰よりも強さを求め、最強を目指したアラタが、この世界で最も弱い人間に成り下がってしまったなんて……。


「……いや、そこまで悪い話でもないさ。1年かからず助けてくれて感謝してるよ……。
 対人戦闘は禁じられたけれど、魔物との戦闘には支障がないからさ。まずは金を稼いでアンジェを解放しよう」

「うん、そうだね……」


 アラタは元々この世界ではトップクラスの冒険者だったおかげで、その3日後にアンジェの解放まで漕ぎつけることが出来た。

 勿論、自由にはさせてもらえなかったけれど……。


「この女は質問に対して黙秘することと嘘を付く事が出来なくなっています。他人と会話させる場合には充分お気をつけ下さい。
 それと10日毎にネヴァルドの冒険者ギルドで取調べを受けてもらいます。これは生涯義務付けられます。1度でも顔を出さなかった場合は処分されますのでご留意ください。
 それと彼女の身分証登録情報は世界中に大犯罪者として1度公表されております。彼女は今後身分証を使ったありとあらゆるサービスを利用することが難しいでしょう。奴隷契約を行ったとしても登録情報そのものを変更できるわけではないので、この女がこの国で生きていくのは大変でしょうね。
 仮に貴女達が襲撃された場合にも、無条件で貴女達が拘束される可能性があることをお忘れなく」


 この世界で身分証を使えないことがどれだけ大変なのか、冒険者として多少成り上がった今なら良くわかる。
 文字通り何も出来ないのだ……。

 そして彼女が襲われても、アラタには抵抗する力はないし、私たちにも抵抗する権利がない……。


「それとアラタには1つの義務が科せられます。アラタは死ぬ前に1体以上のエリアキーパーを打倒してもらいます。もしも1体のエリアキーパーも倒すことなく生涯を終えた場合、残された3名は全員が拘束され、恩赦が取り消しになります。これはアリス様も含めての事となりますのでご留意ください」

「……思った以上にえげつない条件を出してきたね。これはトーマが出した課題なの?」

「いえ。トーマ殿は一切関わっておりません。貴方達4名の処遇は全て王国側で議論されて決定したことです。
 トーマ殿が貴方達を過剰に罰することを望まなかったおかげでこの程度で済んだと思ってください。
 完全に一方的な被害者であった異風の旋律が貴方達に厳罰を要求しなかったのに、彼らに対して何も出来なかった王国民が貴方達を厳罰に処するのはお門違いではないかと、ギリギリ自由に生きられる範囲で留められたのですよ。
 勿論次はありませんけれど」

「……エリアキーパーを倒したら、僕の誓約が解除されたりすることはあるのかな?」

「あるわけないでしょう。エリアキーパーの打倒は義務です。出来なければ罰せられ、達成すれば罰則を回避できる。それだけのことですよ」


 白金板3100枚の支払いを科せられた時も法外だと思ったし、絶望もしたけれど……。
 そんな大金を払い終えたのに、むしろここからが本当に大変なんだということに気付かされる。

 私達がしたことは、お金を払って程度では許される話じゃないんだ……。
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