迷子の天使の話~王子妃セスから冒険者レノになった話 シリーズ第4弾~

氷室 裕

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10 初めてのキス

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 俺はノアを困らせたい訳じゃない。
 怖がらせたくもない。

 ただ、安心させてやりたいだけだ。安心して、俺の側にいさせてやりたいだけなんだ・・俺の、側で・・?

「ノア・・」

 俺はノアをそのまま立たせると、向かい合って見つめる。頭を撫で、髪をすいてやる。それから頬に触れて顎をすくってまた見つめる。

「ノア」
「ユージーン、殿下・・?」
「お前は俺が怖いか?」
「怖く、ありません」
「俺に触れられるのは嫌か?」
「・・分かり、ません」
「分からないか」
「だけど、僕を襲った人、みたいじゃなくて・・その・・」
「ん?じゃなくて?」
「あ、えっと・・僕、殿下に見つめられると・・なぜかその、お、おちんちんが固くなっちゃって・・僕、そんな風になった事、今まで、なかったから・・僕、おかしいんだと思います!す、すみません!」
「俺に、見つめられるだけで?」
「・・ううっ・・ごめん、なさい・・」
「謝らなくていいと言ってるだろ?それより、ノアが俺をそんな風に?俺はお前を・・」
「ダリル様が、僕は、奴隷なんだと言っていました・・僕には、権利も自由もないと・・」
「俺はお前をそんな風には扱わないよ、おいで」

 俺はノアを優しく抱きしめる。驚いたノアは俺の瞳をじっと見つめて、また瞳に涙を溜めた。
 なぜ泣くのか理由が分からない。だけど、その不安そうで何かを求めるような薄桃色の瞳が、俺を吸い寄せるように惹きつけた。

 俺は、思わずノアの唇にそっとキスをした。ただ重ねただけのキスだというのに、それがまるでこぼれ落ちそうなくらいに愛おしい気持ちが溢れて堪らないものだった。

「あ、あ、はぁはぁ・・ん」
「ノア?すまない!」
「はぁはぁ、ん、ビリ、ビリして・・あ、あ」

 子供じみた軽いキス、たかがそんなものにノアは身体をふるふると震わせている。立っていられないのか両手で俺に捕まって、息を荒くしている。

「ははっ、ノア、俺のキスで感じた?」
「・・キス?僕、はじ、めてで・・」
「した事なかったのなら悪かったよ、もうしたくない?」
「あの・・はぁはぁ・・ビリビリ、したい、です。あの・・すみません・・」
「いいのか?初めてなんだろ?」
「もう、一度だけ・・」

 初めてか、良かった・・
 俺はノアが、キスをもう一度と言ってくるだなんて思っていなくて、潤んだ瞳から目を離せないまままた唇を重ねた。

 何度も角度を変えて唇に吸い付いて、下唇を舐めながらゆっくりと舌を差し込んでいく。

 ノアの小さい舌が逃げていく・・追いかける。絡める。小さい舌を絡めとりながら吸いながら、そのうち歯列をなぞっていく。

「んふぅ・・んぁぁ・・ん、ん!んあ・・」

 感じている声、可愛い・・
 濡れた薄桃色の瞳が蕩けながら俺を見ている。

「くぅん・・んんっ・・ん、んぁっ!」

 小さい性器を完全に勃起させて、先を蜜で濡らしている。ぷるぷると揺れていて、物欲しそうに見えていやらしい。声が蕩けているな。

 俺はさらに舌を伸ばしてノアの口蓋を擦ってやる。すると首を反らせて膝が折れ、倒れ込んでしまった。俺はノアを抱き上げて抱える。

 身体がすっかり冷えてしまった。
 俺はノアを湯船に入れると、身体が温まるまで髪を撫でてやる。

「んぁっ・・はぁはぁ・・あ、ああ・・」
「ノア、大丈夫か?少し、やり過ぎたか?」
「はぁはぁ・・きもち、くて・・驚いて・・はぁはぁ・・」

 ノアが俺のキスの余韻で感じて声を出す。
 口元に手を当てて耐えているようだが、それどころじゃなさそうだな。

「怖くなかったか?」
「こわく、ないです・・」
「嫌じゃない?」
「嫌じゃ、ない・・お口の中、きもちぃです・・はぁはぁ」
「ははっ、そうか。また、俺にして欲しい?」
「はぁはぁ・・して、ほ、しい・・」

 ノアは俺とキスする事に抵抗がないようだ・・聞けば素直に欲しいと言うんだから。

 それともあれか・・?ノアはキスが初めてだと言っていた・・感じる事が気持ち良くて、それを欲しがっているだけとか?
 別に俺じゃなくても良い、とか?

「でも残念だ、ノアは明日ここを出ていくんだろ?王子の俺と使用人のお前は、そう簡単には会えないぞ?」
「はい、そうですよね?分かりました」
「うん、分かればいい。このままここに──」
「明日でお別れですね?ユージーン殿下、お元気でお健やかでいらして下さい。本当にありがとうございました」

 やっぱり・・!
 俺じゃなくても良い、そういう事なのか!?

 あっさりと俺と会えなくなる事を受け入れて、何の躊躇いもなく出ていこうとする。

「ノア!なんでだよ!なぜ俺から逃げる!?」
「っ・・!申し訳ありません!」
「いや、悪い・・大きい声、怖いよな?」
「すみません・・」
「ノア、まだ出ていくな・・まだ治療だって終わってないんだ。そんなに俺から離れたいのか?」
「そうでは、ありません・・だけど僕は毒味役です。父からせめて国の為に尽くすようにと言われてきたんです。僕もそのつもりです」
「父親に?命をかけろと?毒を食らえばお前は死ぬんだぞ?お前の人生がそんな事で終わるなんて!」
「・・僕は、死ぬ事を特別な事だとは思っていません。この5年間、誰にも必要とされず、誰からも忌み嫌われて・・僕には何も望みはありません。明日が、来るのが怖い・・だから、僕は早く・・早く、毒で死ぬのを待つ・・それだけです」
「ノア、そんな事を言うな!なんて事を・・お前はいったい・・お前は貴族だぞ!なのになぜそんなに虐げられているんだ」

 コリン卿はなぜ実の息子にこれ程の仕打ちを?没落貴族とはいえ、断罪が理由で毒味役をさせて死なせるなんて事があるか?

 それに5年間とは何だ?5年前に何があった?13才・・その頃からずっとひとりで家族にも周囲の人間にも虐げられてきたのか?

 俺がノアを保護してから一週間が経過した・・その間にノアが断罪されるほどの人物像だと感じた事などなかった。

「僕が悪いからです。全て僕が・・」
「ノア、聞いてもいいか?いや、聞かせてもらう。なぜお前がこんな扱いをされてきたのかを・・」
「何も、お話できることはありません・・」
「いいや!聞かせてもらうよ。ノアが分かることだけでいいんだ。だから、俺を信じて話してくれないか?」
「殿下・・」

 俺はまたノアの頭を撫でて、薄桃色の瞳を見つめながら深いキスをした。











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