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お茶会という名の決起集会
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色鮮やかな衣装を身にまとい、談笑する貴婦人の群れ――
一見、穏やかで上品に見える彼女たちだが、社交界におけるその影響力は絶大である。
今日は王妃様主催の女性限定のお茶会が、王宮内の庭園で催される。
名目上は王妃主催となっているこの会だが、実際は私が王妃ことマリーママにお願いして急遽開いてもらうことになったものだ。
我が国が背負った借金問題の噂がひとり歩きしているこの時期に、王妃自らが貴族女性を集め一堂に会する――
その意味をわからない貴族がいるはずもなく、今日の参加人数は歴代トップとなることは間違いないだろう。
出来るだけ多くの女性に集まってもらいたかった私は、恐れ多くも王妃様の名前をお借りしたというわけだ。
侯爵令嬢の私ごときのネームバリューでは集められる人は限られてしまうからありがたい。
さすがマリーママ! よっ、影のボス! ヒューヒュー!
さて、私がここまでしてお茶会を開いた本当の目的――それはもちろん『アイドルグループを作って借金返済しちゃいましょう計画』に力を貸してもらうことにある。
この場で夫人や令嬢に『チェスターズ』の魅力を訴えかけ、計画に賛同してもらうのだ。
そして支援をお願いし、集まった女性たちで一致団結して成功に向けての気持ちを高めあう――つまり、このお茶会は決起集会の意味合いも兼ねている。
私は、このお茶会での彼女たちの反応が『チェスターズ』の今後を大きく左右すると意気込んでいた。
しかし、そんなことは露ほども知らない招待客は、どこか不安そうな面持ちで庭園にしずしずとやってきた。
普段の華やかな雰囲気は全く感じられず、そこはかとなく空気も重い。
こんなお茶会は初めてである。
私も軽く挨拶を交わしながら会場を確認して回ったが、憂いを帯びた声があちこちから漏れ聞こえてきた。
「まあ、今日も素敵な装いですわね……ところで、お茶会では王妃様からどのようなお話があるのかしら? 私、気がかりでたまらなくて」
「突然の招集でしたものね、何か特別な発表があるに決まっていますわ。きっとアレに関することかと……」
「この国はどうなってしまうのかしら……」
アレ――借金で国が乗っ取られるという話はやはりショッキングだったようですね。
このままでは貴族ではいられなくなるでしょうし。
しかし、今日の私の最大の使命はこの悩まし気な女性たちの不安を拭い去り、気持ちを一つにすることなのだ!
……正直荷が重いけれど。
やっぱり男性アイドルのターゲットは主に女性ですからね。
この世界の女性貴族の理解とサポートなしに、チェスターズの成功などありえません!
メンバーも女性受け間違いなしの三人ですし。
この場で『チェスターズ』のファンを増やせれば、良いパトロン……いや、パトロネスになって、金銭的に、はたまた政治的にも力強い味方となってくれるはずである。
外交に強いご婦人方も多いからだ。
それに、上手くいけばチェスターズ事務所の一員となって、私と一緒に働いてくれる女性も現れるかもしれない。
今は猫の手も借りたいほどなのだから。
良くも悪くも噂と新しいもの好きで、裏で様々なことを動かしてきた貴族女性たちですからね。
三人も国歌の練習を頑張ってくれているのですから、私も正念場です!
そこで、ふと先日の恋愛禁止のルールについて思い出してしまった。
忙しくなった為、あれからゆっくりと四人揃って話す時間はとれていないが、相変わらず彼らはちっともルールを守るつもりがないようだ。
偶然会うと、むしろ以前より瞳に熱を帯びている気がして戸惑ってしまうこともしばしば……。
でもアイドルにスキャンダルは、ダメ。ゼッタイ。
改めて恋愛禁止の徹底を図ろうと私が心に誓った時、マリーママの凛とした声が華やかにセッティングされた庭園に響き渡った。
一見、穏やかで上品に見える彼女たちだが、社交界におけるその影響力は絶大である。
今日は王妃様主催の女性限定のお茶会が、王宮内の庭園で催される。
名目上は王妃主催となっているこの会だが、実際は私が王妃ことマリーママにお願いして急遽開いてもらうことになったものだ。
我が国が背負った借金問題の噂がひとり歩きしているこの時期に、王妃自らが貴族女性を集め一堂に会する――
その意味をわからない貴族がいるはずもなく、今日の参加人数は歴代トップとなることは間違いないだろう。
出来るだけ多くの女性に集まってもらいたかった私は、恐れ多くも王妃様の名前をお借りしたというわけだ。
侯爵令嬢の私ごときのネームバリューでは集められる人は限られてしまうからありがたい。
さすがマリーママ! よっ、影のボス! ヒューヒュー!
さて、私がここまでしてお茶会を開いた本当の目的――それはもちろん『アイドルグループを作って借金返済しちゃいましょう計画』に力を貸してもらうことにある。
この場で夫人や令嬢に『チェスターズ』の魅力を訴えかけ、計画に賛同してもらうのだ。
そして支援をお願いし、集まった女性たちで一致団結して成功に向けての気持ちを高めあう――つまり、このお茶会は決起集会の意味合いも兼ねている。
私は、このお茶会での彼女たちの反応が『チェスターズ』の今後を大きく左右すると意気込んでいた。
しかし、そんなことは露ほども知らない招待客は、どこか不安そうな面持ちで庭園にしずしずとやってきた。
普段の華やかな雰囲気は全く感じられず、そこはかとなく空気も重い。
こんなお茶会は初めてである。
私も軽く挨拶を交わしながら会場を確認して回ったが、憂いを帯びた声があちこちから漏れ聞こえてきた。
「まあ、今日も素敵な装いですわね……ところで、お茶会では王妃様からどのようなお話があるのかしら? 私、気がかりでたまらなくて」
「突然の招集でしたものね、何か特別な発表があるに決まっていますわ。きっとアレに関することかと……」
「この国はどうなってしまうのかしら……」
アレ――借金で国が乗っ取られるという話はやはりショッキングだったようですね。
このままでは貴族ではいられなくなるでしょうし。
しかし、今日の私の最大の使命はこの悩まし気な女性たちの不安を拭い去り、気持ちを一つにすることなのだ!
……正直荷が重いけれど。
やっぱり男性アイドルのターゲットは主に女性ですからね。
この世界の女性貴族の理解とサポートなしに、チェスターズの成功などありえません!
メンバーも女性受け間違いなしの三人ですし。
この場で『チェスターズ』のファンを増やせれば、良いパトロン……いや、パトロネスになって、金銭的に、はたまた政治的にも力強い味方となってくれるはずである。
外交に強いご婦人方も多いからだ。
それに、上手くいけばチェスターズ事務所の一員となって、私と一緒に働いてくれる女性も現れるかもしれない。
今は猫の手も借りたいほどなのだから。
良くも悪くも噂と新しいもの好きで、裏で様々なことを動かしてきた貴族女性たちですからね。
三人も国歌の練習を頑張ってくれているのですから、私も正念場です!
そこで、ふと先日の恋愛禁止のルールについて思い出してしまった。
忙しくなった為、あれからゆっくりと四人揃って話す時間はとれていないが、相変わらず彼らはちっともルールを守るつもりがないようだ。
偶然会うと、むしろ以前より瞳に熱を帯びている気がして戸惑ってしまうこともしばしば……。
でもアイドルにスキャンダルは、ダメ。ゼッタイ。
改めて恋愛禁止の徹底を図ろうと私が心に誓った時、マリーママの凛とした声が華やかにセッティングされた庭園に響き渡った。
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