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どうぞどうぞ
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気付けば、本日初対面の男爵令嬢ユリアまでもが参戦している。
ますます意味がわからない。
ピシッと元気良く手まで上げているが、そもそも彼女はこれが何の集まりかわかっているのだろうか。
不安に思ったアイリーンが、「ユリア様はご自身が何の候補かわかっていらっしゃるのですか?」と、基本的な問いかけをしようとした時だった。
「あら、ではユリア様におまかせしましょうよ」
エリスが、アイリーンが言葉を発する前にとんでもない台詞をぶちかました。
は?
エリス様がとてもいい笑顔ですごいことを言い出したわ。
さすがにそれは……と思っていたアイリーンだったが。
「そうですわね!」
「どうぞどうぞ」
「喜んでお譲りしますわ、ユリア様」
「ええ、どうぞ」
「どうぞどうぞ!」
あれほど「自分が!」と言っていたはずの彼女たちが、あっさりとユリアに王太子妃の座を譲りだしたではないか。
ユリアも「え、いいんですか? やったぁ」などと喜んでいる。
いやいやいや、いくら渡りに船と言ってもそれはないでしょう。
何が「どうぞどうぞ」なのよ。
あなた方、変わり身が早すぎるわ。
ユリア様も喜ばないで!
さすがに引き取られたばかりの男爵令嬢に、一国の王太子妃が務まるはずがない。
いずれは国王を支える王妃になるのだから。
きっとユリアは何も知らずにノリで会話に参加しただけで、王太子妃になったらどういう目にあうのか知らないに違いない。
これでは騙し討ちのようで寝覚めが悪いではないか。
「ユリア様、わたくしたちが何の候補なのかは理解されていますか?」
「うーん、実はよくわからないままここまで来たんですけど、王太子妃って言っているのが聞こえたので、王子様の結婚相手かなぁって」
「ええ、そうです。わたくしたちは王太子妃候補なのです」
「やっぱり! それでみんな王子様のお嫁さんになりたいって立候補していたわけですね。納得ですっ! あ、だったら急に私が横取りするのはまずいですよねぇ……」
思いっきり誤解しているユリア。
確かに部屋に入ってきたタイミング的に、王太子妃の座を皆でとりあっているように見えたかもしれないが、実際は嫌がり過ぎて一周回ってヤケを起こした令嬢の成れの果て――ただの暴走劇である。
しかしそうとは知らないユリアはしゅんと落ち込んだ様子で、やっぱり王太子妃の座は辞退すると言い出した。
それを黙って聞いているはずのない他の令嬢たち。
「横取りだなんてとんでもない!」
「陛下御自らユリア様を推薦なさったのですから、もっと自信をお持ちになって!」
「そうですわ、王太子妃はユリア様こそふさわしいと思います」
「私どもは喜んで身を引きますわ」
ちょっとちょっと、そうやってすぐにユリア様に押し付けるのはよくないわよ?
彼女が何も知らないからって。
……気持ちはわかるけれども。
溜め息を吐いたアイリーンは、ユリアに正直に打ち明けることにした。
「ユリア様はご存じないかもしれませんが、我がバラン王国の王族へ嫁ぐには色々と覚悟が必要なのです。わたくしたちはその決心がつかず、三年も候補者のまま話し合いを続けてきました」
「覚悟? じゃあ皆さんは覚悟とやらができたから争っていたのですね。じゃあやっぱり私にはまだ早いかぁ」
んん~?
そうなんだけれどそうじゃないというか、なんだか微妙に通じていない気が。
どうしても王太子妃の座を取り合っていると思われてしまうのね。
アイリーンはなんだか唐突に全てが面倒になり、言葉を選ぶのを諦めた。
こうなったら不敬でも構わないから、さっさと状況を正確に伝えてしまいたい。
「この際、ざっくばらんにお話しします。わたくしたち、王太子妃になりたくなくて三年も揉めていました。全員、本気で嫌がっているのです」
同意を示すように頷く令嬢たち。
「えっ? 嫌なんですか? でもなんで? あ、もしかして王子様って格好良くないとか?」
率直な物言いを始めたのはこちらだが、ユリアもなかなかに失礼である。
「いえ、そのようなことはありません。内面の優しさが現れている素敵なお顔です」
決して顔が整っているとは言わない正直者のアイリーン。
王太子はキリリと厳しい国王の顔と、ニコニコ可愛らしい王妃の顔を足して割ったからか、とても……普通の顔だった。
またまた頷く令嬢たち。
「そうなんですかぁ。じゃあ性格に問題があるとか?」
「いえ、そのようなこともありません。とてもお優しい方です」
「うーん、だったらなんでそんなに嫌なのかなぁ。あ、これは義母が怖いパターン? 姑に虐められるのは確かに嫌かも」
とうとう王妃が悪者になってしまった。
これは早々に真実を教えなければと、アイリーンはバラン王国の立場とラキュール帝国との関係性について簡潔に説明を始めるのだった。
ますます意味がわからない。
ピシッと元気良く手まで上げているが、そもそも彼女はこれが何の集まりかわかっているのだろうか。
不安に思ったアイリーンが、「ユリア様はご自身が何の候補かわかっていらっしゃるのですか?」と、基本的な問いかけをしようとした時だった。
「あら、ではユリア様におまかせしましょうよ」
エリスが、アイリーンが言葉を発する前にとんでもない台詞をぶちかました。
は?
エリス様がとてもいい笑顔ですごいことを言い出したわ。
さすがにそれは……と思っていたアイリーンだったが。
「そうですわね!」
「どうぞどうぞ」
「喜んでお譲りしますわ、ユリア様」
「ええ、どうぞ」
「どうぞどうぞ!」
あれほど「自分が!」と言っていたはずの彼女たちが、あっさりとユリアに王太子妃の座を譲りだしたではないか。
ユリアも「え、いいんですか? やったぁ」などと喜んでいる。
いやいやいや、いくら渡りに船と言ってもそれはないでしょう。
何が「どうぞどうぞ」なのよ。
あなた方、変わり身が早すぎるわ。
ユリア様も喜ばないで!
さすがに引き取られたばかりの男爵令嬢に、一国の王太子妃が務まるはずがない。
いずれは国王を支える王妃になるのだから。
きっとユリアは何も知らずにノリで会話に参加しただけで、王太子妃になったらどういう目にあうのか知らないに違いない。
これでは騙し討ちのようで寝覚めが悪いではないか。
「ユリア様、わたくしたちが何の候補なのかは理解されていますか?」
「うーん、実はよくわからないままここまで来たんですけど、王太子妃って言っているのが聞こえたので、王子様の結婚相手かなぁって」
「ええ、そうです。わたくしたちは王太子妃候補なのです」
「やっぱり! それでみんな王子様のお嫁さんになりたいって立候補していたわけですね。納得ですっ! あ、だったら急に私が横取りするのはまずいですよねぇ……」
思いっきり誤解しているユリア。
確かに部屋に入ってきたタイミング的に、王太子妃の座を皆でとりあっているように見えたかもしれないが、実際は嫌がり過ぎて一周回ってヤケを起こした令嬢の成れの果て――ただの暴走劇である。
しかしそうとは知らないユリアはしゅんと落ち込んだ様子で、やっぱり王太子妃の座は辞退すると言い出した。
それを黙って聞いているはずのない他の令嬢たち。
「横取りだなんてとんでもない!」
「陛下御自らユリア様を推薦なさったのですから、もっと自信をお持ちになって!」
「そうですわ、王太子妃はユリア様こそふさわしいと思います」
「私どもは喜んで身を引きますわ」
ちょっとちょっと、そうやってすぐにユリア様に押し付けるのはよくないわよ?
彼女が何も知らないからって。
……気持ちはわかるけれども。
溜め息を吐いたアイリーンは、ユリアに正直に打ち明けることにした。
「ユリア様はご存じないかもしれませんが、我がバラン王国の王族へ嫁ぐには色々と覚悟が必要なのです。わたくしたちはその決心がつかず、三年も候補者のまま話し合いを続けてきました」
「覚悟? じゃあ皆さんは覚悟とやらができたから争っていたのですね。じゃあやっぱり私にはまだ早いかぁ」
んん~?
そうなんだけれどそうじゃないというか、なんだか微妙に通じていない気が。
どうしても王太子妃の座を取り合っていると思われてしまうのね。
アイリーンはなんだか唐突に全てが面倒になり、言葉を選ぶのを諦めた。
こうなったら不敬でも構わないから、さっさと状況を正確に伝えてしまいたい。
「この際、ざっくばらんにお話しします。わたくしたち、王太子妃になりたくなくて三年も揉めていました。全員、本気で嫌がっているのです」
同意を示すように頷く令嬢たち。
「えっ? 嫌なんですか? でもなんで? あ、もしかして王子様って格好良くないとか?」
率直な物言いを始めたのはこちらだが、ユリアもなかなかに失礼である。
「いえ、そのようなことはありません。内面の優しさが現れている素敵なお顔です」
決して顔が整っているとは言わない正直者のアイリーン。
王太子はキリリと厳しい国王の顔と、ニコニコ可愛らしい王妃の顔を足して割ったからか、とても……普通の顔だった。
またまた頷く令嬢たち。
「そうなんですかぁ。じゃあ性格に問題があるとか?」
「いえ、そのようなこともありません。とてもお優しい方です」
「うーん、だったらなんでそんなに嫌なのかなぁ。あ、これは義母が怖いパターン? 姑に虐められるのは確かに嫌かも」
とうとう王妃が悪者になってしまった。
これは早々に真実を教えなければと、アイリーンはバラン王国の立場とラキュール帝国との関係性について簡潔に説明を始めるのだった。
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