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騎士の純愛。
「じゃあ、婚約成立だな。あ、婚約(仮)か。伯爵にも正式に話を通すから。これ、せっかくだから受け取ってくれ。おふくろが持ってけって。」
立ち上がり、ダニエルがエミリアにブーケを押し付ける。
ピンク色のバラを中心に、様々な花が咲き乱れ、持ち手のリボンも可愛らしい。
「これは、ダニー様のお母様が用意されたのですか?」
「ああ、ここに来る前に実家に寄ったんだ。エミィのところに行くって言ったら、持っていけって作り始めてさ。婚約の話なんてしてないのに。母親って凄いよな。」
服装と様子から、何かを感じ取ったのだろうか。
丁寧に作られたブーケからは、ダニエルの母の想いが感じられ、エミリアは嬉しくなった。
「ダニー様のお母様、素敵な方ですね。今度お礼に私も何か作って贈ります。」
笑顔で言うと、ダニエルは面白くなさそうな顔をした。
「婚約者の母(仮)より、婚約者(仮)を優先するべきじゃないか?罰として、抱っこの刑だ。」
有無を言わせず、ダニエルがエミリアを子供のように抱き上げ、腕に乗せた。
ダニエルは昔から、チャンスを見つけるとすぐに抱っこしたがるのである。
うわぁ、また急に!
ダニー様、抱っこが好きすぎるでしょ。
しかもこの、子供用抱っこ。
まあ、私は子供だけどさ。
それに絶対、仮っていうのを根に持ってるよね。
「ダニー様、なんですぐに抱っこをするの?私も重くなってきたし、レディを簡単に抱っこしてはいけないと思うの。」
しかし、ダニエルはエミリアの文句など少しも気にかけず、重さを確かめるように少し揺すった。
「んー、こうやって抱っこすると、エミィの成長を感じるというか、重さが愛おしくなるんだよな。うん、大きくなったな。」
お父さんか!
突っ込みつつ、五年間の親愛の証として首に抱き付けば、嬉しそうに抱き締め返された。
この日、珍しくしばらくの間エミリアは大人しく抱っこされていた。
ダニエルはその後、エミリアの父、バートン伯爵に正式にエミリアとの婚約を申し入れた。
嫁になど出したくないと、縁談全てを断っていた伯爵だったが、五年間の間に培った信頼と、何よりダニエルの提案が魅力的で、あっさり婚約を認めた。
ダニエルは、結婚してもエミリアが好きなように働ける環境を整えることと、自分の遠征の際に実家に帰ることを約束したのだ。
エミリア自身もそうだが、エミリアの才能を手離したくない伯爵家にとって、願ったり叶ったりだったという訳である。
将来有望と言われている騎士との婚約により、加熱していたエミリア争奪戦は一旦収まった。
「ダニエル、エミィちゃんとの婚約、うまくいったらしいじゃないか!みんなその話で持ちきりだぞ?」
「ああ、ルシアン。まあな。風当たりが強いけどな。」
寮の廊下で二人は偶然出くわし、ダニエルは力なく笑う。
エミリアは商才がある為、金の成る木だと言われ、そのエミリアと婚約したことで、ダニエルは『逆玉の輿』や、『ヒモ』と陰口を叩かれていた。
「あんなやっかみ、気にするなよ。エミィちゃんと釣り合う為に、出世しようと頑張ってきたんだろ?順調に出世してるし、純愛だよな。」
相変わらず女性にモテるが、取っ替え引っ替え遊んでばかりいるルシアンには、ダニエルが眩しく見えた。
親の七光りのようで嫌だと出世を望んでいなかったダニエルが、五年前から急に真面目に鍛練に励み、上を目指すようになった。
エミリアに出会い、父の呪縛から解き放たれ、本来のダニエルに戻った経緯をずっと見てきたルシアンは、二人の仲を心から応援していたのである。
「あ、余計なことかもしれないが、バートン家、陞爵の話があるらしいぞ?ま、あれだけ国庫に貢献してたら当然だけど、お前またやっかまれるな?」
ルシアンは、ついイタズラ心でからかってしまう。
「マジか!俺、どこまで偉くなればエミィにふさわしくなれるんだ?」
ガックリと肩を落とすダニエルの背中を、ルシアンがバシッと叩いた。
「決まってるだろ。団長目指すしかないって!」
ダニエルの溜め息と、ルシアンの笑い声が廊下に響いていた。
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