【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ

文字の大きさ
21 / 25

ラブレターの威力。

しおりを挟む

ダニエルがバーシャルへと発ってから、十日ほど経った。
エミリアは学校へ通いながら、新しいドレスを提案し、シーラとお茶をするという、いつも通りの生活を送っていた。
今までもダニエルが一月ほど留守にすることはあった為、まだそれほどの寂しさを感じることはなかったのである。
ただ、少し煩わしいことは増えた。

「エミリア様、婚約者が遠くへ行かれて、さぞ心細いことでしょう。今度の週末、我が家へご招待するので、寂しさを忘れて楽しみましょう。」

「私なら、あなたを一人にはしません。一度、共に出かけませんか?」

鬼の居ぬ間のなんとやら、ダニエルが留守にしているのをいいことに、エミリアに言い寄る男性が一気に増えたのである。
少しも心は動かないし、誘いに応じるつもりも更々なかったが、ひたすら鬱陶しい。
エミリアがどうしたものかと対応を考えていると、ある時を境にピッタリと誘いが収まった。

急にどうしたのかしら?
なんだか私を見て怯えているし。
なんかしたっけ?

意味がわからなかったが、面倒事がなくなり清々していると、校内で騎士のルシアンに出くわした。
最近良く学校で見かける気がする。

「ごきげんよう、ルシアン様。最近良くお会いしますね。」

「やぁ、エミィちゃん。まあね。俺、この学校の警備を頼まれてさ。俺があいつの代わりに目を光らせてるから、安心してね。」

ルシアンは手を振り、行ってしまった。
どうやら、ルシアンはこの貴族学校の警備を任されたらしい。

どうりで良く見かけるはずだわ。
でもルシアン様が居てくれるのは心強いよね。
偶然に感謝だわ。

しかし、もちろん偶然などではなかった。
ダニエルが、ルシアンからエミリアに群がる男共の報告を受け、速攻手を回したのである。
ルシアンを警護に任命しただけでなく、間接的に家にも圧力をかけた結果、男達はエミリアから手を引くしかなかった。
騎士団副団長のダニエルは、今や様々な力を手に入れていたのだ。


ダニエルが王都を離れて半年。
ダニエルは影でエミリアを守るだけでなく、エミリアにマメに手紙を送っていた。
手紙を書いたり、届けられるということは、バーシャルが安定している証であり、エミリアは手紙が届くと安堵した。

ダニー様、また手紙を送ってきたのね。
って!今回も情熱的というか、なんて恥ずかしい内容・・・
これって、絶対真夜中のテンションで書いたでしょ?

ダニエルの手紙の内容は、いつもひたすら愛を囁いていた。
『エミィ、愛している』、『エミィに会いたい』、『俺の心はいつでもエミィの側にある』・・・

ダニー様本人も確かに甘かったけど、こんなタイプだったっけ?
キャラ変わってない?
今でも、巷ではクールで堅物だと思われてるらしいのに。

こんなラブレターは、前世でももちろん貰ったことがなく、毎回赤面してしまうが、嬉しくないはずがなかった。
エミリアも読んだ直後にいそいそと返事を書き始めるのだが、困ったことがあった。
ダニエルの内容に、エミリアの情緒までつられてしまうのである。

手紙を書き終えると、エミリアは前世からの習慣で、時間を置いて出す前にもう一度読み直すのだが、毎回自分が書いたとは思えない甘える文面に、急いで書き直す羽目になっていた。

うぎゃー!
私ってば、何書いてるんだか!
「ダニー様に会えなくて寂しい」とか、「一緒に出かけたい」とか、はたまた、「ダニー様の大きな手に触れたい」って・・・
恥ずかしすぎる!!
うっかりヒロイン気分で自分に酔っちゃったよ。

毎回こんなことを繰り返している内に、出せない手紙が引き出しに溜まっていた。
どれもこれも、読み返すと身悶えしてしまう内容ばかりである。

「お嬢様、たまにはそちらの失敗したお手紙を送ってみたらいかがですか?ダニエル様もきっとお喜びになりますよ。」

結局いつも色気のない日記のような返事を出しているエミリアに、クスクス笑いながら侍女が提案する。

「からかわないでよ。こんなの私らしくないし、心配かけちゃうわ。というか、私のプライドが許さないわ!」

エミリアの本音に、益々侍女が笑い出す。
今更何を言っているのだと思っているのだろう。

暫くして、エミリアの知らないところで事件が起きていた。
エミリアの兄と侍女が結託して、引き出しの中の秘密の手紙を数通、こっそりとダニエルに送ってしまったのである。
減っていることに気付かないエミリアは、日常を過ごしていたが、バーシャルのダニエルは違っていた。


ダニエルは今日も見張りの塔に上がっていた。
どこに行っても領主の娘や、騎士団の世話係の娘、町娘が寄ってきて面倒なことこの上ない。
ここに来れば、団員しかいない為、逃げ込むのに最適だった。

「副団長?あ、良かった、やっぱりここでしたね。手紙です。」

部下が大きめの封筒を持ってきてくれた。
確認すれば、エミリアの兄の名前だ。

エミィの兄貴か?
始めてだな。
まさかエミィに何かあったのか?

不安に襲われて封を切れば、中から三通の手紙と、一枚の紙。
しかも手紙は全部、差出人がエミリアである。
意味がわからないまま紙を広げた。

『エミリアが隠していた手紙の一部です。本音をわかってあげて下さい』

本音?

手紙を読んで、ダニエルは思わずしゃがみこんだ。
まさかエミリアがこんな可愛いことを考えていたとは思わず、全身が熱くなり、力が抜けてしまった。

「副団長?どうしたんですか?」

部下に心配されるが、それどころではない。

エミィが会いたがっているなら、俺は今すぐ帰る!
エミィを抱き締めて離さない!!

ダニエルは急に立ち上がると、外へ駆け出した。
町の外まで出ようとして、皆に止められる。

「副団長、どうしたんですか?どこに行く気ですか?」

「俺は王都へ戻る!可愛いエミィが待っているからな!」

「いやいやいや、おい、副団長を止めるぞ!副団長のご乱心だー!!」

「俺を止めるな!!」

ヒートアップした彼らは、剣まで持ち出し、戦い始めた。
ダニエルが冷静になるまで続いたが、本気のダニエルと剣を交える機会は貴重であり、部下は改めてダニエルの強さに感心していた。

「いやー、いい鍛錬になったな!」

娯楽の少ないこの地で、急遽イベント的に起きた出来事を、皆楽しんでいた。

この後もダニエルの「エミィに会いたい病」の発作は定期的に起こり、待っていましたとばかりに部下が参戦し、騎士達はメキメキと腕を上げるのだった。

そして、その様子を見ていた女性陣は、ダニエルの想いの深さに、自ら身を引いたのである。










しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

人形令嬢は暗紅の公爵に溺愛される

oro
恋愛
生まれた時から妹の代わりでしか無かった姉フィオラ。 家族から愛されずに育った少女は、舞台に立つ操り人形のように慎ましく美しい完璧な令嬢へと成長した。 全てを諦め、平穏な人生を歩むために。 妹の代わりに婚約させられた相手は冷淡で冷酷な「暗紅の白銀狼」と呼ばれる公爵様。 愛を知らない令嬢と公爵様のお話。

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。 生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。 このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。 運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。 ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。

処理中です...