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ジェイルとカフェテリア

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午後の授業とホームルームがようやく終わった。

あーお腹が空いた。

授業中も、何度もお腹が鳴っていた。
見かねたクラスメイトが休み時間にクッキーをわけてくれたけれど、それだけではこの空腹を満たすことはとても出来なかった。

よし、今度こそカフェテリアに行くぞ!!
この学園のカフェテリアは、部活動に勤しむ一部の学生や、研究に精をだす教師の為に、遅くまで営業していると学園のパンフレットに書いてあった。
放課後でも食事を提供しているらしいし、男爵家からも好きなだけ食べていいといわれている。
チェルシーはどこかに行ったみたいだけど、どうせ寮では同室なんだから私も勝手に行っちゃおうっと。

スキップするように教室を出ようとしたところで、声をかけられた。

「アリス!!」

騎士団長の息子、ジェイルである。
放課後になって、本当に様子を見に来てくれたらしい。

「ジェイル様……」

「元気そうだな。良かったよ」

「わざわざ確認に来てくださってありがとうございます。この通りどこも痛くはありませんので、これ以上心配はいりません。それではカフェテリアに行くところなので、失礼します」

流れるように丁寧な言い方で、「もう大丈夫だから帰っていいよ」と伝えたつもりだった。

「なんだ、独りでか?じゃあお詫びにご馳走させてくれ」

全然伝わってない……。
なんで攻略対象者と『カフェテリアで放課後デート』なんてしないといけないのよ。

「いえいえそんな。ぶつかったのは私も悪かったのでおあいこです。それに、今日はお昼を食べ損ねてしまって、これからガンガン食べるつもりなので」

ガンガンを特に強調して、奢りを辞退する予定だったのに、あろうことかジェイルが食い付いてしまった。

「それはいいな、ぜひガンガン食ってくれ。じゃあ行くか!!」

なにぃ!?
この世界の人って、みんな人の話を聞かなさ過ぎませんか?
なんでもう一緒に行くことに決定してるのよ!!


結局、断り切れないまま、ジェイルと一緒にカフェテリアを訪れている。
こんなはずじゃなかったのに……。

カフェテリアは、よくある学食のように、好きなメニューをトレイに乗せて最後にお会計を済ませるシステムのようだ。
限界までお腹が空いていたのと、思い通りにいかないイライラからのやけ食いで、トレイ一杯に料理を並べてしまった。

さすがに取り過ぎたかな。
でも全部美味しそうなんだもん。

ステーキ丼の大盛りにサラダ、スープ、デザートのケーキとアイスティー。
なんで丼もののメニューやお箸があるんだとかは、考えたら負けだと思う。
日本で作られたゲームの世界で、日本人の転生者ばかりなのだから、きっとそういうことなのだろう。

「アリス、こっちだ」

ジェイルが呼んでいる。
席を取っておいてくれたらしいーーが。

なんでテラス席なのよぉ!
野次馬がすでに集まりつつあるじゃん!!

解放感のあるテラス席は、まわりからもよく見えるに決まっていた。

「お待たせしました。あの、自分で払おうと思っていたんですけど、もう払ってあると言われて……」

そうなのだ。
お会計をしようとしたら、「もういただいております」と言われてしまったのだ。
ジェイルがスマートにお会計を済ませてくれたらしい。

「ああ、気にするな」

「でも私、そんなつもりじゃなかったのでたくさん選んでしまって。きっと高かったんじゃないかと」

本当に奢られるとわかっていたなら、ステーキ丼の大盛りなんて頼んではいない。
そんなに図々しい性格はしていないつもりだ。

「値段なんていいじゃないか。何を選んだ……」

私のトレイを見て、ジェイルの言葉が止まった。
驚いたらしく、目が真ん丸になった後、吹き出した。

「アッハハハハハ!!マジか!!いいな、その豪快さ。見習い騎士の食事より多いんじゃないか?」

ジェイルはツボに入ったのか、楽しそうに笑い続け、野次馬の観客は私のステーキ丼大盛りというチョイスに引いている。

何よ、令嬢はステーキ丼を食べちゃいけない決まりでもあるわけ?
どうせ大盛りなんて下品だとか思っているんでしょ?
お腹が空いているんだからいいじゃないのよ。

「いただきます」

私はさっさと食べることにした。
ステーキソースのいい匂いが食欲をそそり、もう限界だったのである。

うっそー、さすがお金持ちの貴族が通う学園のカフェテリア!
お肉がめっちゃ柔らかい。
これはいいお肉に違いないわ。

なんて感動しながらテンポ良く食べ進めていたが、ふと目の前にジェイルがいたことを思い出した。
あまりにも食べることに熱中しすぎて、つい存在を忘れてしまったのだ。
このままでは奢ってもらったのに申し訳ない。

「あの、つい食べるのに集中しちゃってすみません。あまりにも美味しすぎて……」

「ん?何を謝っているんだ?いい食べっぷりに惚れ惚れしてたところだ。こんなに気持ち良く食べる令嬢がいるなんてな」

「まあ私は数日前まで平民だったので。この学園にも今日編入してきたんです」

「そうか。通りで見ない顔だと思ったぜ」

たくさん奢らせてしまったという後ろめたさから、何か会話をしなければ悪いという気持ちが芽生えてしまった。
根が貧乏性で、小市民なのである。

「えーと、ジェイル様のお父様は騎士団長をされていると聞きました。ジェイル様も体格を見れば鍛えているのは一目瞭然ですし、騎士を目指しているんですか?」

深入りをしないつもりだったのに、気付けばプライベートな話を始めている馬鹿な私だった。

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