24 / 25
私のハッピーエンド
しおりを挟む
「もしかして、有栖川?」
ジークハルトに恐る恐る言われて思い出した。
私の前世の名前、「有栖川真希」を。
「そうです!言われて思い出しました。私、有栖川真希です!!」
「なんだよ、有栖川かよ。俺は東城遙人だ」
そう!そうだよ、東城先輩だ!!
なんで忘れていたんだろう。
「東城先輩!すごい、こんなところで会えるなんて!!」
「そうだな、ゲームの世界での再会なんてな」
確かに。
しかし青春が甦り、胸が高鳴る。
「私も夕日をバックにしているジークハルト様を見て、初めて先輩に会った時のことを思い出しました。さっき本を取ろうとしていた体勢も。うわー、懐かしい」
「そうか。有栖川も俺のことを覚えていてくれて嬉しいよ」
「そりゃあ、覚えてますよ。私、先輩のこと好きだったんですから。……なーんて」
昔のこととはいえ、やはり告白は恥ずかしく、明るく冗談にしようとしたのだが。
「俺は本気で好きだったよ」
ジークハルトの真摯で静かな声が耳に響いた。
え?嘘!
聞き間違いかな?
思わず私が隣に顔を向けると、端正な横顔が赤く染まって見える。
ランプの灯りのせいだけではないようだ。
「わ、私だって本気で好きでした。告白は出来なかったけど」
「俺は卒業式の日に告白しようと思ってたんだ。でも会えなくて」
「卒業式の日?あ、確か生徒会の女の子に捕まって……気付いた時にはもう先輩は帰った後でした」
ん、もしかして、あれって嫌がらせだったのか?
あの子、先輩のことが好きだったんじゃ……。
マヌケな結末に情けなくなってくる。
どうしてあの頃、もっと積極的になれなかったのだろう。
「俺は社会人になってからも時々あの頃が懐かしくなってさ。アリスの名前も『有栖川』から取ったんだ。とんだ浮気性な女になっちゃったけどな」
「まあ、乙女ゲームのヒロインは複数人と恋に落ちるのが仕事ですから……。でも私自身名前を忘れてたのに、先輩はよく覚えてましたね」
先輩の記憶力に感心してしまう。
「お前、自分で『有栖川って言います。不思議の国の有栖川って覚えてください』って言ってただろ?」
うっ、忘れてたけど、言ってたな。
先輩に覚えて欲しくて必死で。
「黒歴史です……。忘れて……」
「忘れられるか!俺はゲームを作るほどお前のことを引きずってたんだからな?」
こちらを向いたジークハルトの顔はさっきよりも真っ赤で、その表情はまるで恋をしている高校生の男子そのものだ。
「そ、そんなこと言われても、多分私は前世で恋愛しないまま死んだっぽくて……恋愛経験がないからよくわからないんです!!」
きっとその恋愛経験の無さが、乙女ゲームのヒロインに転生したのに、うまく自分を受け入れることが出来なかった理由だと思う。
私も先輩を好きだったことを知らず知らず引きずっていたのかもしれない。
だから攻略対象者と恋が出来ずに、ジークハルトに出会った時だけ電流が走ったのだ。
「じゃあ俺と恋愛しよう!あの頃の延長として」
「そんなの無理!だって先輩、国王の弟でしょう?身分が違うし、年齢だって……」
私は元平民という設定のヒロインな上、10歳くらい離れている気がする。
「それは問題ない。元々そういうゲームの世界だから、ヒロインが俺を選べばそれでハッピーエンドだ。年齢は諦めてくれ」
「そんな楽観的な!ジークハルト様っていくつなんですか?」
「……24だ」
声、ちっちゃ!!
やっぱり結構離れてるじゃん。
「有栖川……いや、真希。この世界で俺と結婚を前提に付き合ってください。絶対大切にするし、苦労もさせないと誓う」
王弟なんだから、確かに生活の苦労はないだろう。
東城先輩の性格もわかっているが、硬派で男気のある男子だったから、きっと浮気もしない。
あれ?なんだかドキドキしてきたぞ。
あんなに好きだった先輩に告白されて、なんで私は迷っているんだろう?
しかも『真希』ってズルい!
「東城先輩、私も先輩が好きです!!」
思い切って言ったのに、先輩はなんだか納得していないみたいだ。
なんで?
「先輩?」
「その呼び方。遙人って呼んでみて?ジークハルトの愛称みたいだし、ちょうどいい」
「ちょうどよくないです!!そんなの急に無理!!」
「真希?いいのかな、そんなこと言って」
遙人が私の腰を抱いた。
ワイルドだと思っていた顔が、怪しさを増して近付いてくる。
「あの5人だって、いつ真希のことを好きになるかわからないし、俺も真希の卒業までは側にいられないし?このままだと不安だから、約束だけでも欲しいんだよね」
「と言いますと?」
私はすっかり逃げ腰だが、ソファーの端まで追い詰められてしまった。
「この合宿中には俺の婚約者になってもらわないと、悪い虫が付きそうだし?俺としては、先に既成事実を作っても構わないんだけど?」
ヒィィィ……。
既成事実ってアレですよね?
いきなりそんなの、恋愛初心者の私には無理ですよね!?
「します、婚約します!!」
叫んだ私を、遙人は大きな体で抱き締めた。
「愛している、真希」
耳元で囁かれ、力が抜けたところに口づけまでされてしまった。
「せんぱ……じゃなかった、遙人は手が早かったんですね?そんな素振りなかったのに!!」
「そうか?剣道で煩悩を発散させてたからな」
なんですと!?
こんなの詐欺じゃん!!
硬派なイメージの先輩はどこ行った……。
結局、合宿中に私達の婚約はまとまり、攻略対象者達やチェルシーも祝福してくれた。
みんな最初は絶句してたし、チェルシーは「王弟が隠れキャラだったとは!!」と大興奮だったけど。
前世の話は2人の秘密だから誰にも教えてあげない。
私は学園の卒業と共に、王弟殿下に嫁ぐことになった。
学園の学生も、住んでいた村の人達も、国民全体が私のハッピーエンドを喜んでくれている。
学園の卒業式当日。
遙人が学園の門で花束を持って私を待っている。
ここからはもうゲームのシナリオも関係ない、私の本当の人生が始まるのだ。
「真希、卒業おめでとう」
私は今の人生を、遙人と一緒に精一杯歩んでいく。
前世の分まで。
ジークハルトに恐る恐る言われて思い出した。
私の前世の名前、「有栖川真希」を。
「そうです!言われて思い出しました。私、有栖川真希です!!」
「なんだよ、有栖川かよ。俺は東城遙人だ」
そう!そうだよ、東城先輩だ!!
なんで忘れていたんだろう。
「東城先輩!すごい、こんなところで会えるなんて!!」
「そうだな、ゲームの世界での再会なんてな」
確かに。
しかし青春が甦り、胸が高鳴る。
「私も夕日をバックにしているジークハルト様を見て、初めて先輩に会った時のことを思い出しました。さっき本を取ろうとしていた体勢も。うわー、懐かしい」
「そうか。有栖川も俺のことを覚えていてくれて嬉しいよ」
「そりゃあ、覚えてますよ。私、先輩のこと好きだったんですから。……なーんて」
昔のこととはいえ、やはり告白は恥ずかしく、明るく冗談にしようとしたのだが。
「俺は本気で好きだったよ」
ジークハルトの真摯で静かな声が耳に響いた。
え?嘘!
聞き間違いかな?
思わず私が隣に顔を向けると、端正な横顔が赤く染まって見える。
ランプの灯りのせいだけではないようだ。
「わ、私だって本気で好きでした。告白は出来なかったけど」
「俺は卒業式の日に告白しようと思ってたんだ。でも会えなくて」
「卒業式の日?あ、確か生徒会の女の子に捕まって……気付いた時にはもう先輩は帰った後でした」
ん、もしかして、あれって嫌がらせだったのか?
あの子、先輩のことが好きだったんじゃ……。
マヌケな結末に情けなくなってくる。
どうしてあの頃、もっと積極的になれなかったのだろう。
「俺は社会人になってからも時々あの頃が懐かしくなってさ。アリスの名前も『有栖川』から取ったんだ。とんだ浮気性な女になっちゃったけどな」
「まあ、乙女ゲームのヒロインは複数人と恋に落ちるのが仕事ですから……。でも私自身名前を忘れてたのに、先輩はよく覚えてましたね」
先輩の記憶力に感心してしまう。
「お前、自分で『有栖川って言います。不思議の国の有栖川って覚えてください』って言ってただろ?」
うっ、忘れてたけど、言ってたな。
先輩に覚えて欲しくて必死で。
「黒歴史です……。忘れて……」
「忘れられるか!俺はゲームを作るほどお前のことを引きずってたんだからな?」
こちらを向いたジークハルトの顔はさっきよりも真っ赤で、その表情はまるで恋をしている高校生の男子そのものだ。
「そ、そんなこと言われても、多分私は前世で恋愛しないまま死んだっぽくて……恋愛経験がないからよくわからないんです!!」
きっとその恋愛経験の無さが、乙女ゲームのヒロインに転生したのに、うまく自分を受け入れることが出来なかった理由だと思う。
私も先輩を好きだったことを知らず知らず引きずっていたのかもしれない。
だから攻略対象者と恋が出来ずに、ジークハルトに出会った時だけ電流が走ったのだ。
「じゃあ俺と恋愛しよう!あの頃の延長として」
「そんなの無理!だって先輩、国王の弟でしょう?身分が違うし、年齢だって……」
私は元平民という設定のヒロインな上、10歳くらい離れている気がする。
「それは問題ない。元々そういうゲームの世界だから、ヒロインが俺を選べばそれでハッピーエンドだ。年齢は諦めてくれ」
「そんな楽観的な!ジークハルト様っていくつなんですか?」
「……24だ」
声、ちっちゃ!!
やっぱり結構離れてるじゃん。
「有栖川……いや、真希。この世界で俺と結婚を前提に付き合ってください。絶対大切にするし、苦労もさせないと誓う」
王弟なんだから、確かに生活の苦労はないだろう。
東城先輩の性格もわかっているが、硬派で男気のある男子だったから、きっと浮気もしない。
あれ?なんだかドキドキしてきたぞ。
あんなに好きだった先輩に告白されて、なんで私は迷っているんだろう?
しかも『真希』ってズルい!
「東城先輩、私も先輩が好きです!!」
思い切って言ったのに、先輩はなんだか納得していないみたいだ。
なんで?
「先輩?」
「その呼び方。遙人って呼んでみて?ジークハルトの愛称みたいだし、ちょうどいい」
「ちょうどよくないです!!そんなの急に無理!!」
「真希?いいのかな、そんなこと言って」
遙人が私の腰を抱いた。
ワイルドだと思っていた顔が、怪しさを増して近付いてくる。
「あの5人だって、いつ真希のことを好きになるかわからないし、俺も真希の卒業までは側にいられないし?このままだと不安だから、約束だけでも欲しいんだよね」
「と言いますと?」
私はすっかり逃げ腰だが、ソファーの端まで追い詰められてしまった。
「この合宿中には俺の婚約者になってもらわないと、悪い虫が付きそうだし?俺としては、先に既成事実を作っても構わないんだけど?」
ヒィィィ……。
既成事実ってアレですよね?
いきなりそんなの、恋愛初心者の私には無理ですよね!?
「します、婚約します!!」
叫んだ私を、遙人は大きな体で抱き締めた。
「愛している、真希」
耳元で囁かれ、力が抜けたところに口づけまでされてしまった。
「せんぱ……じゃなかった、遙人は手が早かったんですね?そんな素振りなかったのに!!」
「そうか?剣道で煩悩を発散させてたからな」
なんですと!?
こんなの詐欺じゃん!!
硬派なイメージの先輩はどこ行った……。
結局、合宿中に私達の婚約はまとまり、攻略対象者達やチェルシーも祝福してくれた。
みんな最初は絶句してたし、チェルシーは「王弟が隠れキャラだったとは!!」と大興奮だったけど。
前世の話は2人の秘密だから誰にも教えてあげない。
私は学園の卒業と共に、王弟殿下に嫁ぐことになった。
学園の学生も、住んでいた村の人達も、国民全体が私のハッピーエンドを喜んでくれている。
学園の卒業式当日。
遙人が学園の門で花束を持って私を待っている。
ここからはもうゲームのシナリオも関係ない、私の本当の人生が始まるのだ。
「真希、卒業おめでとう」
私は今の人生を、遙人と一緒に精一杯歩んでいく。
前世の分まで。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
167
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる