45 / 69
変わる日常と、変わらないリリー。
しおりを挟む日が昇ってからそれなりの時間が経過した頃、ようやくリリーは目を覚ました。
伸びをしつつ、辺りの明るさから、完全に寝過ごしたことを悟った。
随分と寝坊してしまいました。
昨日は胸がドキドキして、なかなか寝られなかったから・・・
そうなのだ。
ラインハルトとの馬車の中でのアレコレを思い出し、ベッドの中で遅い時刻までジタバタしていたのである。
しかも、ラインハルトと次に会えた時に、「好きです」と伝える場面を頭の中で想像していたら、羞恥が許容量を超え、気付けばそのまま気を失うように寝てしまっていたのだった。
身支度を済ませ、侍女のアイラと部屋を出ると、何故か屋敷の雰囲気がいつもより慌ただしい気がする。
「ねえ、アイラ。なんだか落ち着かない雰囲気ね。皆バタバタしているし。何かあったのかしら?」
何かあったも何も、全てリリーの婚約のせいで大変な状況に陥っているのだが、本人は全く気付いていない。
「朝早くから、王宮の使いの方が見えたのです。」
「まあ!何か王宮で大変な事が起こったのかしら?ハルト様が無事だといいのだけれど。」
『いえいえ、全てそのラインハルト様とお嬢様が原因ですよ』とも言えず、「きっと旦那様からお話がありますよ」とだけアイラは伝えた。
侍女に過ぎない自分が、余計なことを言うべきではないと判断したからである。
リリーが食堂へ向かうと、いつもならとっくに出かけているはずの父と兄の姿があった。
「お父様、お兄様、おはようございます。寝坊してごめんなさい。お父様もお兄様も、今日はゆっくりなのですね。もしかして、お仕事と学院がお休みなのですか?」
「おはよう、リリー。いや、今から登城するところだ。急ぎの案件があったんだが、今書類が出来上がったところでね。食事がてら、最後の点検をアーサーとしていたんだよ。」
「リリー、おはよう。僕は今日は学院を休んだんだ。父上の手伝いがあったし、ちょっと面倒なことになりそうだからね。さっきオーウェンが訪ねてきたから、学院には彼から伝えてもらうことにしたよ。」
そう、今から一時間ほど前に、隣家に住むアーサーの親友、オーウェンが我が家へやってきた。
明け方の馬車の音は、隣にもバッチリ聞こえ、心配した彼はアーサーを迎えがてら、様子を見に来てくれたのである。
ちなみに、アーサーが学院の寮を引き払ったタイミングで、オーウェンも同じく自宅から通うことにした為、朝は共に登校することも多いのだ。
書類と格闘するアーサーから、リリーの婚約の話を聞いたオーウェンは、話の進み具合の早さに驚いていた。
だが、彼が何より心配したのは親友アーサーのことだった。
リリーの婚約によって、王家と繋がりが出来るスペンサー家の嫡男であるアーサーは、いまだ婚約者も恋人もいない。
こんなチャンスを、独身の令嬢が居る家が見逃すはずもなく、第3王子との婚約が公になれば、アーサーに結婚話がひっきりなしに舞い込むことは想像に難くない。
察しの良い貴族は、ウィリアムの昇爵と、朝方の王家の暴走馬車から、すでにリリーとの婚約に気付いているかもしれない。
そうなれば、学院でのアーサーももはやいつも通りに過ごしては居られず、一騒動起きるのは目に見えている。
ひとしきりアーサーの身を案じたオーウェンは、学院への休みの伝言を引き受けた後、アーサーに提案した。
「いい案がないこともないけどね。うちの妹と婚約でもすれば?気心しれてるし。色々な意味でいいパートナーになると思うけど?」
そう意味深に言い残し、去っていった。
さて、どうしたものか・・・
アーサーはオーウェンの提案について、それからずっと思案していた。
「王宮からの使いはどんな要件だったのですか?私、寝ていて全然気付かなかったです。」
あの騒音で!?
ウィリアムとアーサーは、騒動の中心人物でありながらそのことにも気付かず、のほほんと朝食を摂り始めたリリーに呆れ、驚いたが、これから一番大変なのはリリーなのである。
とりあえず使いの目的をリリーに伝えなければならないが、ウィリアムは登城しなければならない。
きっと国王が待ちわびていることだろう。
「私は登城せねばならない。詳しい事はアーサーが教えてくれる。リリー、落ち着いてアーサーの話をよく聞くんだよ?」
「ちょっ、父上!?逃げる気ですか!こんな大切な話は父上から・・・」
「いや、急がなければいけないしな。では代わりにお前が国王に謁見してくれるか?」
「無理に決まっているでしょう!」
「では、リリーのことは頼んだぞ!」
「父上ー!!」
なんだかよくわからないが、リリーの前で父子の会話が繰り広げられていた。
何を揉めているのでしょう?
でも二人とも顔色が悪いわ。
寝不足かしら?
モグモグとパンを食べながら、リリーだけが日常と変わらず呑気だった。
80
あなたにおすすめの小説
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
【完結】ありのままのわたしを愛して
彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。
そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。
私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?
自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!
Rohdea
恋愛
──私は、何故か触れた人の心の声が聞こえる。
見た目だけは可愛い姉と比べられて来た伯爵家の次女、セシリナは、
幼い頃に自分が素手で触れた人の心の声が聞こえる事に気付く。
心の声を聞きたくなくて、常に手袋を装着し、最小限の人としか付き合ってこなかったセシリナは、
いつしか“薄気味悪い令嬢”と世間では呼ばれるようになっていた。
そんなある日、セシリナは渋々参加していたお茶会で、
この国の王子様……悪い噂が絶えない第二王子エリオスと偶然出会い、
つい彼の心の声を聞いてしまう。
偶然聞いてしまったエリオスの噂とは違う心の声に戸惑いつつも、
その場はどうにかやり過ごしたはずだったのに……
「うん。だからね、君に僕の恋人のフリをして欲しいんだよ」
なぜか後日、セシリナを訪ねて来たエリオスは、そんなとんでもないお願い事をして来た!
何やら色々と目的があるらしい王子様とそうして始まった仮の恋人関係だったけれど、
あれ? 何かがおかしい……
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる