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嵐の前の静けさ。
しおりを挟む「リリー、大丈夫?」
ジェシーが、ミシェルに絡まれてしまったリリーを案じ、声をかけた。
「私は平気ですけれど、お父様が泣いていました。」
隣の部屋でお茶を淹れてもらったリリーが、悲しげに呟いた。
「私のせいで、ミシェル様に勘違いされてしまって・・・。傷付いて可哀想です。」
「え?もしかしてリリーってば、ミシェルにポンコツって言われておじ様が泣いていたと思っているの?」
とりあえずリリーを座らせ、即席のお茶会スタイルを整えながらジェシーが呆れたように言った。
「違うの?」
「いやいや、あんな小娘に泣かされるはずないでしょう?リリーに尊敬されてることが嬉しくて泣いてたのよ。つまり嬉し泣き。」
「だってお父様、泣き虫だし、怠け者みたいに言われて悲しかったのかなって・・・」
「おじ様、ああ見えて侯爵よ!?さすがにあのくらいで泣かないでしょう!?」
黙って聞きながら、ジェシーをサポートしていた令嬢達がクスクス笑っている。
「皆様も言ってやって?この子ってば少しずれてるのよね。」
私はジェシーにもずれてると思われてるのですか!
ハルト様だけでなく、ジェシーにまで・・・
そして、さっきから私だけお手伝いをさせてもらえないのも何か関係が?
ショックを受けていたリリーだったが。
「スペンサー侯爵は誰よりも働き者だと、いつも父が申しておりますわ。」
「ええ。昇爵も遅いくらいだったと、うちの父も。」
ウィリアムを庇う発言に、リリーは嬉しくなる。
「ありがとうございます」と笑顔でお礼を述べた。
「お菓子はこれくらいあれば充分かしら?」
「立派なお茶会が開けそうですわ。」
隣の会場から、最後の令嬢の二人がお菓子を持って現れた。
「夜会の雰囲気はどうなりましたこと?」
一人の令嬢がソワソワしながら尋ねた。
確かに、皆が気になっていることだろう。
「まだ何も起きてはいませんでしたけれど、もう雰囲気が怖くて!!」
「殺伐としておりましたわよ。終わるまで私達はこちらに避難していましょう。」
ウンウンと頷く令嬢の中、リリーだけが「殺伐?」と首を捻っていた。
一方、夜会の会場では・・・
ミシェルの取り巻き達は、リリーとお茶をする為に出ていく令嬢を恨めしげに見ていた。
絶対あちらに参加するべきだと本能が訴えているが、今更ミシェルを裏切れない。
ミシェルは、傍にやって来たラインハルトを上目遣いで見つめ、アピールに余念がなかった。
「ラインハルト様、邪魔者も居なくなりましたし、ぜひ私とお話でも。あ、私達も別室でお茶でもしましょうか?」
まだ状況が理解出来ていないらしく、ラインハルトにしなだれかかろうとしている。
貴族達が顔をしかめ、ミシェルに対する非難の目を強めた時だった。
「おおっ、これは何事ですかな?ミシェル、ラインハルト王子とお近づきになるなんて流石我が娘だな。」
ご機嫌な声と共に、ミシェルの父であるナムール伯爵が入場してきた。
後ろには二名の男性を引き連れているが、ミシェルの取り巻き令嬢の父らしかった。
「ラインハルト王子、うちの娘のミシェルです。美しい娘でしょう?どこぞの田舎娘よりよっぽどあなた様に相応しい。いかがです?父親の私も、いつでも侯爵になれる準備をしております。」
『うわぁ、空気読めよ!』
『馬鹿の親はやっぱり馬鹿だったか・・・』
アーサーとオーウェンが小声で会話をしていた。
ラインハルトは微笑みを絶やさずに立っていたが、その笑顔が何よりも怖いと、多くの者は知っていた。
あえて全く動かず、ラインハルトに一切を任せて壇上で笑っている王族達の本当の怖さも・・・
ナムール伯爵の登場で、夜会の会場は更に修羅場と化していくのであった。
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