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お転婆な婚約者。
しおりを挟むリリーの社交界における婚約お披露目は、リリーの知らないところで様々あったが、無事成功に終わった。
貴族の間で、リリーは第3王子の婚約者として周知され、社交界に温かく迎え入れられた。
「お兄様、どこか体調が悪いのですか?もしかして、何か心配事でも?」
夜会の翌朝、顔色が良くないアーサーは、リリーに心配されていた。
「いや、大丈夫だよ。昨日の夜会で飲みすぎたかな?リリーは疲れていないかい?」
アーサーは、昨晩のナムール伯爵一派のすったもんだにより、気が休まるときが無く、精神的に疲れ果てていた。
父のウィリアムは、まだ起きてもこない。
しかし、あの捕らえられた親子のことはリリーには内緒の為、なんとか誤魔化しておく。
「私は元気ですわ。昨日はとてもいい日でした。優しくて楽しいご令嬢に囲まれて、素敵な時間を過ごせました。夜会が思っていたような怖い場所じゃなくて安心しました。」
にこにこと嬉しそうに話すリリーを見て、アーサーは安堵していた。
この笑顔を守るために、ラインハルトを始め皆で乗り切ったのだから。
王子妃となれば、苦労もあるし、今後嫌がらせ全てを取り除くことは出来ないだろう。
リリーは案外強い娘だとは思うが、なるべくなら今のままの真っ直ぐなリリーでいられるように、汚い面を見せずに済ませたいと家族は願っていた。
ラインハルトもきっと同じ気持ちだろう。
「昨日はお茶会から戻ったら、ミシェル様達はもういらっしゃらなくて。お話の途中で申し訳ないことをしました。」
来たか、その質問。
アーサーはドキッとしたが、適当にはぐらかす。
「用事でもあったのかもな。それより、友達が出来て良かったじゃないか。学院に行ったら、一緒に過ごせるだろうし。」
「そうなのです!学院に通うのが更に楽しみになりました。」
うまく誘導し、学院の話へと持っていく。
まもなくリリーは学院に入学し、アーサーは卒業するのだ。
学院は貴族の子息、令嬢が多く通っているが、特に入学の年齢は定められていないし、期間も自由である。
必ず通わなくてはならない決まりもない。
男か女、跡取りかそうでないかによって、教育内容が変わるからである。
リリーは16歳だが、2年間通い、卒業と同時にラインハルトに嫁ぐ予定である。
ラインハルトとしては今すぐに結婚したいが、まだ兄の第2王子が結婚していない為、順番を待っている間、学院でリリーと学生生活を送ろうという魂胆らしい。
一月後、リリーは入学式を迎えた。
寮には入らず、ラインハルトと一緒に王家の馬車で通うことになったリリー。
ジェシーは自分がリリーと行くのだと反対し、リリーも申し訳なさから遠慮したのだが、ラインハルトが聞き入れなかったのと、王子妃教育も始まる為、結局行きも帰りも王家の馬車に乗ることとなった。
入学式当日からリリーは注目を集めたが、お茶会で親しくなった令嬢と再会したり、同じクラスになったラインハルト、ジェシーと楽しく学院生活をスタートさせた。
王子妃教育も始まり、授業の後、王宮に立ち寄ることにも慣れてきたある日。
今日はラインハルトが公務で早退をするというので、教室でラインハルトと別れたリリーは、ジェシーと二人でランチをとろうと食堂に向かっていた。
二人が中庭を通り過ぎようとした時、突風が吹き抜け、リリーとジェシーは思わず立ち止まって目を瞑り、髪を押さえた。
「すごい風だったわね。リリー、大丈夫だった?」
風で乱れたリリーの髪を直しながら、ジェシーが心配そうに覗き込む。
「ありがとう、ジェシー。私なら大丈夫よ。でもビックリしたわ。」
お互いに身だしなみを整えあった後、また歩き出したのだが、ふいに困ったような声が聞こえた。
リリーが目を向けると、令嬢と侍女が木の下で上を見上げながら話している。
「お嬢様、私、誰か呼んでまいります。」
「待って。一人にしないで。心細いわ。」
どうしたのかしら?
何か困ってるみたい。
リリーも二人の頭上を見てみると、薄ピンク色の布が木に引っかかっていることに気付いた。
あれは、ハンカチ?
もしかして、さっきの風で・・・
「ジェシー、ちょっと待って。あのご令嬢が。」
「ああ、ハンカチが飛ばされたのね。放ってはおけないわね。」
ジェシーはいつも行動が早い。
すぐに令嬢に近付き、声をかけた。
「お困りみたいですけど、大丈夫ですか?」
ジェシーと、その後ろに立つリリーを見て、令嬢と侍女は目を丸くし、慌ててペコペコと謝罪し始めた。
「リ、リ、リリー様、ジ、ジェシー様、うるさくして申し訳ございません!!私のことはどうか気になさらず!」
令嬢が謝っているが、別に彼女は何も悪くない。
リリーは安心させるように笑いかけた。
「うるさくなんてありませんわ。でもせっかく綺麗なハンカチが・・・。ねえ、ジェシー、私あそこまでいけると思う?」
「あーあ、やっぱりやる気ね?リリーなら余裕だとは思うけど。」
さすが、ジェシー!
私の行動なんてお見通しね。
リリーが助走をつけようと少し離れ、軽く準備体操をし始めたのを、令嬢と侍女が不思議そうに見ている。
さて、行きますか!
「リリー、怪我だけはやめてね!」
「はーい。」
リリーは元気よく返事をすると、軽く走り、勢いよく飛んだ。
身体が宙に浮き、リリーは手首のスナップをきかせると、フワッとハンカチを一瞬持ち上げ、スカートをはためかせながら着地した。
「ナイスキャッチ!!」
ジェシーが手を叩きながら近付くと、遅れたタイミングで校舎からも歓声が上がった。
「リリー様、凄い!!」
「人ってあんなに飛べるものか!?」
どうやら、見ていた人が結構いたらしい。
早退する為に馬車に向かっていたラインハルトも、偶然その様子を目にし、プッと吹き出しながら呟いた。
「まったく、リリーは相変わらずお転婆なんだから。明日はお仕置きだな。」
リリーは一瞬、寒気がした気がした。
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