4 / 23
階段から落ちた私と溺れた私
しおりを挟む公爵家の馬車でクロードに送ってもらい、笑顔で彼の馬車を見送ったあと、アメリアは屋敷に入った。
ハワード伯爵家で働いてくれている使用人の皆と挨拶を交わしつつ、侍女のマーサと共に自室へと向かう。
マーサはアメリア付きの侍女で、20歳になる。
元は男爵令嬢なのだが、家の経済状況の悪化に伴い、伯爵家へとやって来た。
アメリアの侍女であることに誇りを持ち、『お嬢様、命!』を公言している彼女は、結婚する気がないらしい。
アメリアが結婚して、この家を離れる際は、絶対に付いていくと言ってきかない。
アメリアにとっても家族のような存在だ。
マーサに着替えを手伝ってもらい、すでに家族が待っているであろう食堂に向かって歩き出したアメリアだったのだが。
アメリアは着替えの時からずっと、劇の題材のことで頭が一杯であった。
根が真面目なアメリアは、自分から劇を提案したことに責任を感じ、明日までに何か素敵な演目を考えなければと、そちらに気が散っていたのである。
「お嬢様、足元をご覧にならないと危ないですよ!」
背後から、何度か注意を促すマーサの声が聞こえてはいたが、住み慣れた家、使い慣れた階段に、少々油断していたのだろう。
階段をもうすぐ下りきるというところで、足を踏み外した。
とっさに落下の衝撃に備え、目を瞑り、身体を強張らせたが、マーサの悲鳴を最後に、アメリアの視界は暗くなったのだった。
◆◆◆
懐かしい感覚がする。
膝下の辺りを水が流れていく。
冷たくて気持ちがいい。
そういえば、水に浸かるってこんな感覚だった。
久しく感じていなかった気がする。
見渡せば、新緑の木々と小川のせせらぎ、賑やかな声。
ああ、そうだった。
私は今、大学のサークルのメンバーと一緒に合宿に来ていたんだった。
家族連れで訪れたのか、6、7歳位の少女が近くではしゃいでいる。
大学に入学して早2ヶ月。
受験から解放された私は、充実した日々を楽しんでいる。
受験中は我慢していたゲームをし、小説を読み、天文のサークルへ入った。
今回の天文サークルの合宿は、川辺でバーベキューを楽しみ、夜は近くの天文台で星の観測をする予定だ。
「理亜、そんなとこでボーッとしてると、いくら浅くても危ないよ!」
仲良しの美樹が、川辺で水を汲みながら私に声をかけてくる。
そうだ、いくら深さは大したことなくても、川を甘く見てはいけない。
美樹の方へと振り向きかけたその時、さっきまで私のそばではしゃぎ声を上げていた少女が、急に姿を消していることに気付いた。
慌てて見回すと、少し離れた場所で流されていく黒い頭が目に飛び込む。
助けなくちゃと、思わず少女へと足を踏み出した途端、私は全身を水に覆われた。
急に深くなっていたのだろう。
「理亜ーーー!!」
美樹の悲痛な叫び声の中、水に身体を運ばれ流される私は、もがいてもがいて・・・
意識が途絶えた。
14
あなたにおすすめの小説
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】転生令嬢が、オレの殿下を"ざまあ"しようなんて百年早い!〜"ざまあ王子"の従者ですが、やり返します〜
海崎凪斗
恋愛
公爵令嬢ロベリアは、聖女への嫌がらせを理由に婚約破棄された――はずだった。だが夜会の席、第二王子が「冤罪だった」と声を上げたことで、空気は一変する。
けれど第一王子の従者・レンは言う。
「いや?冤罪なんかじゃない。本当に嫌がらせはあったんだよ」「オレの殿下を"ざまあ王子"にしようなんて、百年早い!」
※ざまぁ系ではありますが、"ざまぁされそうな王子の従者が、それを阻止して悪役令嬢気取りの転生者をざまぁし返す話"です。主従モノに近いので、ご注意ください。
プロローグ+前後編で完結。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
他人の婚約者を誘惑せずにはいられない令嬢に目をつけられましたが、私の婚約者を馬鹿にし過ぎだと思います
珠宮さくら
恋愛
ニヴェス・カスティリオーネは婚約者ができたのだが、あまり嬉しくない状況で婚約することになった。
最初は、ニヴェスの妹との婚約者にどうかと言う話だったのだ。その子息が、ニヴェスより年下で妹との方が歳が近いからだった。
それなのに妹はある理由で婚約したくないと言っていて、それをフォローしたニヴェスが、その子息に気に入られて婚約することになったのだが……。
無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら
雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」
「え?」
伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。
しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。
その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。
機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。
そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。
しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。
*他サイトでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる