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ポンコツはメンタル強め

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「エミリーが出ていく必要なんてないわよ」

心配と憤慨を混ぜ合わせたような顔で言うと、アリアーナはエミリーを守るように彼女の前へ立ちはだかった。
セレスとアリアーナは共に伯爵家の令嬢で、アリアーナはスラッとした長身をしている為、小柄なエミリーは彼女にすっぽりと隠れてしまう。

いつの間にかエミリーの前にあった人垣が綺麗に割れていたので、少し離れた場所にエリオットと彼に腰を抱かれている令嬢が目に入った。
なんとなく見覚えのある女の子だと、アリアーナの後ろから顔を出して覗いていたエミリーはエリオットと目が合ってしまった。

「見つけたぞ!そこにいたのか。――よく聞け!お前の立場も今日で終わりだ、地味お……ん?」

フンと鼻で笑い、獲物に狙いを定めたかのような鋭い視線で顎をあげながら声を張り上げたエリオットだったが、その言葉は途中で途切れた。
当然貴族の注目を浴び、期待の目で見られていると思いきや、エミリー以外の会場中の視線が自分ではない他に向けられていることに気付いたからである。

皆の視線はエミリーの二人の兄、エヴァンとジェスに向けられていた。
シスコンで有名な彼らが最愛の妹の窮地に大人しく引っ込んでいるはずがなく、その動向に興味津々だったのだ。

「ステファン殿下。私は兄として、愛する妹をクソバカポンコツスカポンタンの魔の手から守る義務がありますので、少々御前を失礼いたします」
「ぶはっ、いい名前をつけているな。もちろん止めやしないが、少し待て。私も出る。――陛下、よろしいですか?」

ステファンが父である国王を見やると、国王は頷いて手をヒラヒラと振った。
「お前の好きにやれ」とのことらしい。

「ありがとうございます。では――近衛騎士ジェス・マリナード!しばし任務を解く。こちらに加われ」
「はっ!!」

幾人もの同僚に押さえつけられ、「フガーッ、離せー!」と暴れていたジェスは、瞬く間にその拘束を解かれ、水を得た魚のように嬉しそうにエミリーのそばへと駆け付けた。
ステファンとエヴァンもすぐさまエミリーへと歩み寄る。

「エミィ、大丈夫か?セレス嬢、ありがとう」

ジェスがエミリーを案じ、庇うように肩を抱いてくれていたセレスに礼を言うと、セレスは頬を赤らめて一歩引いた。
エヴァンもエミリーの前でガードをしてくれていたアリアーナの勇気を讃えると、あとは自分らに任せるように伝えて珍しく微笑んだ。

「おいおい、どういうつもりだ?ワラワラと集まりやがって!」

エリオットが苛立ちながら叫んでいるが、そもそも国王主催の夜会という厳粛な場で、私的なことを持ち出したのはエリオットのほうだ。

「『どういうつもり』なのはあんたのほうだし、ステファン殿下に向かってなんて口の利き方なのかしら……。常識を疑うわ」
「あの方に常識なんて期待したって無駄よ。ね、エミリー?」

セレスとアリアーナの言葉に、困ったようにエミリーは苦笑したが、まさか婚約者がここまで残念な人だとはエミリーも正直思っていなかったのだ。

ステファンが王太子らしい堂々とした態度で言い放った。

「この場は私が預かった。さて、タウラー侯爵令息エリオット。貴殿の言い分をまず聞こうか。この大事な場で訴えなければならない余程のことがあるのだろう?私はあくまで中立の立場であるから、心配は無用だ。さぁ、好きに話すがいい」

ステファンがエヴァンと共にエミリーを守るように並び立っている時点で、中立のはずなどないことは誰の目にも明らかなのだが、ポンコツ婚約者は都合よく捉えたのか嬉しそうに答えた。

「さすがステファン殿下。私が今から行うことを理解し、認めてくださるのですね!必ずや殿下の期待に応え、憎き地味女を一瞬にして成敗してご覧に入れましょう!!」

ステファンは嫌味を言って煽っただけなのだが、それすら通じずにエリオットは王太子が味方だと受け取ったらしい。
めでたい男だと皆呆気に取られたが、彼は鼻息荒く続けた。

「マリナード侯爵家エミリー!貴様は地味女の分際で父上を騙して強引に俺との婚約を結んだ挙句、ここにいる俺の愛するシシリーヌに嫉妬し、害そうとしたことは明白だ。よって、婚約破棄と他国への追放を宣言する!!」

……………………は?

突っ込みどころ満載な口上に、聞いていた全ての人間の口が呆れて開いてしまっている。
たかが侯爵令息が何の権限があって追放などとのたまうのか。
あまりの頭の悪さと、そんなことを平気で口に出せるメンタルの強さに、しばらく声を発する者は居なかったのだが……。

なぜかステファンだけはツボに入ったらしく、お腹を抱えて笑っていた。

「殿下!何がそんなに面白いんですか!!エリオットめ……お前こそ絶対追放してやる!!」
「いや、俺が斬る!!」

ステファンが笑いころげ、エヴァンとジェスが殺意を隠そうともしない中、ホールの入口から聞き慣れた声が響いた。

「僕が魔法で燃やすってば。あ、エミィお姉様、お待たせしました!」

予告もなく三男のショーンが現れ、夜会は更におかしな展開を見せ始めた。

しかし、誰もがわかっていた。
シスコン三兄弟が揃ったことで、エリオットに勝ち目など万に一つもないことを。



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