乙女ゲーの隠れキャラだけどできれば隠れたままでいたい

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紅顔の美少年とお宅訪問ツアーと時をこえた再会

第31話

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 ダン・リュ・ヴィランシアが温室から姿を消した直後、私は彼も鐘楼で見かけた少年のように、もう二度と顔を合わせることはないのかもしれないと予感していました。
 これといった根拠はないものの、彼の人間離れした美貌が、なおのことそのように思わせたのかも知れません。

 そんな私の予想を裏切り、彼はふっつーに翌日も温室に現れやがりました。
 しかも私が顔を出す頃には、ちゃっかりテーブルについて放課後のティータイムと洒落込んでいました。とんだストロングハートの持ち主です。
 などと思っていたら、どうやら彼とジェイは知己の仲らしく、二人して親しげに会話を交わしています。

「ヴィランシア国には小さい頃からバカンスに行ってたよ。楽しかったなぁ。ダンくんともよく遊んだよね」
「うちには王族や貴族のお得意様も多くてね。タウロ家も大事なお客様だよ。ジェイは三人兄弟の末っ子で、いつも兄君の後ろに隠れていたね。あの頃の君ときたら、まるで大聖堂の天井に描かれた天使のように愛らしくて、皆が思いきり甘やかしたくなるはずだ。それにしても、あの頃の天使が今やすっかり男神のような美丈夫とはね」

 こんな調子で、いつぞやのような胸焼けのする語彙をつらつら吐き出す彼を前にした私の心境たるや、「うっそだろ」以外に何と表現できましょう。
 というか、初めてお会いしたときにも思ったのですが、この人の語彙はよくいえば優美で詩的、悪くいえば抒情に過ぎると申しますか、つまるところファンシーなのです。ファンシー枠は既に間に合っているというのに。

 そして、この空間において私以上に険しい表情を浮かべながら、この名状し難い光景を見守っている人物がいました。

「……シャリマー。眉間のしわがえげつないことになっていますよ」
「あいつ、同じ、寮」

 こちらはこちらで急速に語彙力を失いつつありますが、本当に大丈夫なのでしょうか。
 強烈に酸っぱい木の実でも口に詰め込まれたかのように不快感を露わにするシャリマーから聞き出した情報によると、彼とは同じドーム・ラークの寮生なのだそうです。
 かといって、特に仲がいいというわけでもなく、むしろシャリマーは彼に苦手意識を抱いている様子でした。
 一方のダン・リュ・ヴィランシアは、シャリマーのあからさまな嫌悪などものともせず、慣れた手つきで肩を抱き寄せます。

「ひどいな。学年も寮も同じなのに、随分とつれないじゃないか。もっとも、俺は君の荒削りで野生的な美しさも好ましく思っているよ。ジェイとはまた違った魅力の持ち主だ」
「うわああああああやめろおおおおおおお」

 猫のように全身の毛を逆立て、聞いたこともないような悲痛な声を上げるシャリマーの反応は、相手がもはや苦手意識どころか恐怖の対象であることを物語っています。

 とはいえ、人類と見るや口説きにかかるのも、距離感がどうかしているのも、そういう生態なのだと思えば受け入れるのはさほど難しくありません。
 そもそもヴィランシア国といえば美男美女と芸術家の産地として誉れ高いばかりではなく、愛の国としてもその名を轟かせています。
 たとえ相手がたまたま観光に訪れた旅行客で、すぐ離れ離れになることがわかっていようと、全力で一期一会の恋に持ち込もうする姿勢は天晴れの一言に尽きます。ましてや、こんな顔面国宝みたいな美貌の持ち主に迫られて嫌な気持ちになる人は極めて稀でしょう。
 ちなみにミュゲも出会い頭からばっちり口説かれていたものの、意味がよくわかっていなかったのか、のべつまくなしに美辞麗句を並べ立てる彼の口にひたすらフィンガービスケットを詰め込んでいました。
 別にいやがらせをしているわけでも、まして口中の水分という水分をことごとく奪い取ってでも彼を黙らせたかったわけでもなく、彼女なりに歓迎の意思を示しただけです。
 いえ、やっぱり少しくらいはやかましいと思っていたのかもしれません。

「うれしいな。こうしてダンくんとお話しができるなんて。そういえば、ダンくんはまだクラブには入っていないの?」
「そうだね……美術史研究会に興味があったんだけど、ジェイにも会えたことだし、園芸委員会に入って花を愛でるのもいいかもしれない」

 今度は私が「うわああああああやめろおおおおおおお」と叫ぶ番でした。心で。
 ただでさえ私やミュゲの将来に関わる重要な局面に差し掛かっているというのに、これ以上運命を歪められては困ります。
 私は願わくばミツが今すぐに現れて、この場を丸く収めてくれないかと切に祈ったものの、当のミツは今まさに記念祭実行委員の仕事に追われている真っ最中で、それどころではありませんでした。

「何しろ、ここには珍しい花だけじゃなく、珍しい小鳥も集まって来るからね。少なくとも退屈することはなさそうだ」

 矢車草の絵がつけられたティーカップを口元へ運びながら、彼は私に意味ありげな目配せを送ってきます。

「お言葉ですが、ダン様……ここでの活動は地味な作業や力仕事がほとんどで、肥料や土まみれになることも少なくありません。虫が湧くなんて日常茶飯事です。それでも……」
「ダン、と呼んでほしいな。君と俺は主人でも従僕でもない、ただの学友なんだから」

 彼の非の打ちどころのない笑顔によって、私の忠告はあっさりと断ち切られます。
 彫像のような面立ちは完璧であるが故に空恐ろしいまでの迫力に満ちており、私はそれ以上口を挟む気力をすっかり削がれてしまったのでした。
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