31 / 55
紅顔の美少年とお宅訪問ツアーと時をこえた再会
第31話
しおりを挟む
ダン・リュ・ヴィランシアが温室から姿を消した直後、私は彼も鐘楼で見かけた少年のように、もう二度と顔を合わせることはないのかもしれないと予感していました。
これといった根拠はないものの、彼の人間離れした美貌が、なおのことそのように思わせたのかも知れません。
そんな私の予想を裏切り、彼はふっつーに翌日も温室に現れやがりました。
しかも私が顔を出す頃には、ちゃっかりテーブルについて放課後のティータイムと洒落込んでいました。とんだストロングハートの持ち主です。
などと思っていたら、どうやら彼とジェイは知己の仲らしく、二人して親しげに会話を交わしています。
「ヴィランシア国には小さい頃からバカンスに行ってたよ。楽しかったなぁ。ダンくんともよく遊んだよね」
「うちには王族や貴族のお得意様も多くてね。タウロ家も大事なお客様だよ。ジェイは三人兄弟の末っ子で、いつも兄君の後ろに隠れていたね。あの頃の君ときたら、まるで大聖堂の天井に描かれた天使のように愛らしくて、皆が思いきり甘やかしたくなるはずだ。それにしても、あの頃の天使が今やすっかり男神のような美丈夫とはね」
こんな調子で、いつぞやのような胸焼けのする語彙をつらつら吐き出す彼を前にした私の心境たるや、「うっそだろ」以外に何と表現できましょう。
というか、初めてお会いしたときにも思ったのですが、この人の語彙はよくいえば優美で詩的、悪くいえば抒情に過ぎると申しますか、つまるところファンシーなのです。ファンシー枠は既に間に合っているというのに。
そして、この空間において私以上に険しい表情を浮かべながら、この名状し難い光景を見守っている人物がいました。
「……シャリマー。眉間のしわがえげつないことになっていますよ」
「あいつ、同じ、寮」
こちらはこちらで急速に語彙力を失いつつありますが、本当に大丈夫なのでしょうか。
強烈に酸っぱい木の実でも口に詰め込まれたかのように不快感を露わにするシャリマーから聞き出した情報によると、彼とは同じドーム・ラークの寮生なのだそうです。
かといって、特に仲がいいというわけでもなく、むしろシャリマーは彼に苦手意識を抱いている様子でした。
一方のダン・リュ・ヴィランシアは、シャリマーのあからさまな嫌悪などものともせず、慣れた手つきで肩を抱き寄せます。
「ひどいな。学年も寮も同じなのに、随分とつれないじゃないか。もっとも、俺は君の荒削りで野生的な美しさも好ましく思っているよ。ジェイとはまた違った魅力の持ち主だ」
「うわああああああやめろおおおおおおお」
猫のように全身の毛を逆立て、聞いたこともないような悲痛な声を上げるシャリマーの反応は、相手がもはや苦手意識どころか恐怖の対象であることを物語っています。
とはいえ、人類と見るや口説きにかかるのも、距離感がどうかしているのも、そういう生態なのだと思えば受け入れるのはさほど難しくありません。
そもそもヴィランシア国といえば美男美女と芸術家の産地として誉れ高いばかりではなく、愛の国としてもその名を轟かせています。
たとえ相手がたまたま観光に訪れた旅行客で、すぐ離れ離れになることがわかっていようと、全力で一期一会の恋に持ち込もうする姿勢は天晴れの一言に尽きます。ましてや、こんな顔面国宝みたいな美貌の持ち主に迫られて嫌な気持ちになる人は極めて稀でしょう。
ちなみにミュゲも出会い頭からばっちり口説かれていたものの、意味がよくわかっていなかったのか、のべつまくなしに美辞麗句を並べ立てる彼の口にひたすらフィンガービスケットを詰め込んでいました。
別にいやがらせをしているわけでも、まして口中の水分という水分をことごとく奪い取ってでも彼を黙らせたかったわけでもなく、彼女なりに歓迎の意思を示しただけです。
いえ、やっぱり少しくらいはやかましいと思っていたのかもしれません。
「うれしいな。こうしてダンくんとお話しができるなんて。そういえば、ダンくんはまだクラブには入っていないの?」
「そうだね……美術史研究会に興味があったんだけど、ジェイにも会えたことだし、園芸委員会に入って花を愛でるのもいいかもしれない」
今度は私が「うわああああああやめろおおおおおおお」と叫ぶ番でした。心で。
ただでさえ私やミュゲの将来に関わる重要な局面に差し掛かっているというのに、これ以上運命を歪められては困ります。
私は願わくばミツが今すぐに現れて、この場を丸く収めてくれないかと切に祈ったものの、当のミツは今まさに記念祭実行委員の仕事に追われている真っ最中で、それどころではありませんでした。
「何しろ、ここには珍しい花だけじゃなく、珍しい小鳥も集まって来るからね。少なくとも退屈することはなさそうだ」
矢車草の絵がつけられたティーカップを口元へ運びながら、彼は私に意味ありげな目配せを送ってきます。
「お言葉ですが、ダン様……ここでの活動は地味な作業や力仕事がほとんどで、肥料や土まみれになることも少なくありません。虫が湧くなんて日常茶飯事です。それでも……」
「ダン、と呼んでほしいな。君と俺は主人でも従僕でもない、ただの学友なんだから」
彼の非の打ちどころのない笑顔によって、私の忠告はあっさりと断ち切られます。
彫像のような面立ちは完璧であるが故に空恐ろしいまでの迫力に満ちており、私はそれ以上口を挟む気力をすっかり削がれてしまったのでした。
これといった根拠はないものの、彼の人間離れした美貌が、なおのことそのように思わせたのかも知れません。
そんな私の予想を裏切り、彼はふっつーに翌日も温室に現れやがりました。
しかも私が顔を出す頃には、ちゃっかりテーブルについて放課後のティータイムと洒落込んでいました。とんだストロングハートの持ち主です。
などと思っていたら、どうやら彼とジェイは知己の仲らしく、二人して親しげに会話を交わしています。
「ヴィランシア国には小さい頃からバカンスに行ってたよ。楽しかったなぁ。ダンくんともよく遊んだよね」
「うちには王族や貴族のお得意様も多くてね。タウロ家も大事なお客様だよ。ジェイは三人兄弟の末っ子で、いつも兄君の後ろに隠れていたね。あの頃の君ときたら、まるで大聖堂の天井に描かれた天使のように愛らしくて、皆が思いきり甘やかしたくなるはずだ。それにしても、あの頃の天使が今やすっかり男神のような美丈夫とはね」
こんな調子で、いつぞやのような胸焼けのする語彙をつらつら吐き出す彼を前にした私の心境たるや、「うっそだろ」以外に何と表現できましょう。
というか、初めてお会いしたときにも思ったのですが、この人の語彙はよくいえば優美で詩的、悪くいえば抒情に過ぎると申しますか、つまるところファンシーなのです。ファンシー枠は既に間に合っているというのに。
そして、この空間において私以上に険しい表情を浮かべながら、この名状し難い光景を見守っている人物がいました。
「……シャリマー。眉間のしわがえげつないことになっていますよ」
「あいつ、同じ、寮」
こちらはこちらで急速に語彙力を失いつつありますが、本当に大丈夫なのでしょうか。
強烈に酸っぱい木の実でも口に詰め込まれたかのように不快感を露わにするシャリマーから聞き出した情報によると、彼とは同じドーム・ラークの寮生なのだそうです。
かといって、特に仲がいいというわけでもなく、むしろシャリマーは彼に苦手意識を抱いている様子でした。
一方のダン・リュ・ヴィランシアは、シャリマーのあからさまな嫌悪などものともせず、慣れた手つきで肩を抱き寄せます。
「ひどいな。学年も寮も同じなのに、随分とつれないじゃないか。もっとも、俺は君の荒削りで野生的な美しさも好ましく思っているよ。ジェイとはまた違った魅力の持ち主だ」
「うわああああああやめろおおおおおおお」
猫のように全身の毛を逆立て、聞いたこともないような悲痛な声を上げるシャリマーの反応は、相手がもはや苦手意識どころか恐怖の対象であることを物語っています。
とはいえ、人類と見るや口説きにかかるのも、距離感がどうかしているのも、そういう生態なのだと思えば受け入れるのはさほど難しくありません。
そもそもヴィランシア国といえば美男美女と芸術家の産地として誉れ高いばかりではなく、愛の国としてもその名を轟かせています。
たとえ相手がたまたま観光に訪れた旅行客で、すぐ離れ離れになることがわかっていようと、全力で一期一会の恋に持ち込もうする姿勢は天晴れの一言に尽きます。ましてや、こんな顔面国宝みたいな美貌の持ち主に迫られて嫌な気持ちになる人は極めて稀でしょう。
ちなみにミュゲも出会い頭からばっちり口説かれていたものの、意味がよくわかっていなかったのか、のべつまくなしに美辞麗句を並べ立てる彼の口にひたすらフィンガービスケットを詰め込んでいました。
別にいやがらせをしているわけでも、まして口中の水分という水分をことごとく奪い取ってでも彼を黙らせたかったわけでもなく、彼女なりに歓迎の意思を示しただけです。
いえ、やっぱり少しくらいはやかましいと思っていたのかもしれません。
「うれしいな。こうしてダンくんとお話しができるなんて。そういえば、ダンくんはまだクラブには入っていないの?」
「そうだね……美術史研究会に興味があったんだけど、ジェイにも会えたことだし、園芸委員会に入って花を愛でるのもいいかもしれない」
今度は私が「うわああああああやめろおおおおおおお」と叫ぶ番でした。心で。
ただでさえ私やミュゲの将来に関わる重要な局面に差し掛かっているというのに、これ以上運命を歪められては困ります。
私は願わくばミツが今すぐに現れて、この場を丸く収めてくれないかと切に祈ったものの、当のミツは今まさに記念祭実行委員の仕事に追われている真っ最中で、それどころではありませんでした。
「何しろ、ここには珍しい花だけじゃなく、珍しい小鳥も集まって来るからね。少なくとも退屈することはなさそうだ」
矢車草の絵がつけられたティーカップを口元へ運びながら、彼は私に意味ありげな目配せを送ってきます。
「お言葉ですが、ダン様……ここでの活動は地味な作業や力仕事がほとんどで、肥料や土まみれになることも少なくありません。虫が湧くなんて日常茶飯事です。それでも……」
「ダン、と呼んでほしいな。君と俺は主人でも従僕でもない、ただの学友なんだから」
彼の非の打ちどころのない笑顔によって、私の忠告はあっさりと断ち切られます。
彫像のような面立ちは完璧であるが故に空恐ろしいまでの迫力に満ちており、私はそれ以上口を挟む気力をすっかり削がれてしまったのでした。
0
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。
ななよ廻る
恋愛
貴族のみに門戸を開かれた王国きっての学園は、貧乏貴族の俺にとって居心地のいい場所ではなかった。
令息令嬢の社交場。
顔と身分のいい結婚相手を見つけるための場所というのが暗黙の了解とされており、勉強をしに来た俺は肩身が狭い。
それでも通い続けているのは、端的に言えば金のためだ。
王国一の学園卒業という箔を付けて、よりよい仕事に就く。
家族を支えるため、強いては妹に望まない結婚をさせないため、俺には嫌でも学園に通う理由があった。
ただ、どれだけ強い決意があっても、時には1人になりたくなる。
静かな場所を求めて広大な学園の敷地を歩いていたら、薔薇の庭園に辿り着く。
そこで銀髪碧眼の美しい令嬢と出会い、予想もしなかった提案をされる。
「それなら、私と“偽装婚約”をしないかい?」
互いの利益のため偽装婚約を受け入れたが、彼女が学園唯一の公爵令嬢であるユーリアナ・アルローズと知ったのは後になってからだ。
しかも、ユーリアナは偽装婚約という関係を思いの外楽しみ始めて――
「ふふ、君は私の旦那様なのだから、もっと甘えてもいいんだよ?」
偽装婚約、だよな……?
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』『アルファポリス』に掲載しております※
※ななよ廻る文庫(個人電子書籍出版)にて第1巻発売中!※
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
転生メイドは貞操の危機!
早桃 氷魚(さもも ひお)
恋愛
クララは乙女ゲームの世界に転生した、モブのメイド。
最推しキャラの公爵令息、ロルフのメイドとして、不幸フラグを折りながら、天使のように愛らしい推しを守ってきた。
ロルフはクララに懐き、魔法学園に入学するときも、離ればなれになるのを嫌がるほど。
「帰ってきたら、ずっと一緒だからね?」
ロルフとそう約束してから三年後。
魔法学園を卒業したロルフが、ついに屋敷へ戻ってきた!
だが、クララの前に現れたのは、
かつての天使ではなく、超イケメンの男だった!
「クララ、愛している」
え!? あの天使はどこへ行ったの!?
そして推し!! いま何て言った!?
混乱するクララを、ロルフはベッドに押し倒してきて……!?
-----
Kindle配信のTL小説
『転生メイドは推しを甘やかしまくった結果、貞操の危機です!』
こちらは番外編です!
本編よりずっと前の、推しがまだ天使だった頃のお話です。
本編を知らなくても読めます。
悪役令息の婚約者になりまして
どくりんご
恋愛
婚約者に出逢って一秒。
前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。
その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。
彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。
この思い、どうすれば良いの?
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる