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それは甘い毒
エピローグ
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会社のデスクの片付けをしていると、物憂げな表情を浮かべた前野が近づいてきた。彼女の視線は、もう何も置かれていない早苗が使っていたデスクに向けられていた。
「何もしてあげられないのが歯がゆいわ」
退院した翌日、出社した早苗は懲戒解雇を告げられた。理由は無断欠勤だと言われたが、実際のところは無認可の中和剤を使用したオメガ社員を雇用し続けるのは難しいということだろう。
本当の理由を他の社員に知られなかったのは、この辞令において不幸中の幸いと思うことにした。
「いえ、大丈夫です」
「次の仕事は見つかりそう?」
なおも心配そうな表情を浮かべる前野を安心させるために、早苗は口角を上げて頷いた。
彼女には、解雇の本当の理由を詳細はぼかしつつ伝えたので余計に心配をかけることになってしまった。
「はい。知り合いが今回の件を気の毒に思って就職先を紹介してくれたんです。アルバイトでありますが、寮もあるので」
「今住んでるところは?」
「会社の借り上げ社宅だったので引っ越します。次の職場の給料だと今の家賃払うのは難しいからですから」
「そう……」
自分が育てた後輩がこんな形で辞めることになって心苦しいという彼女の気持ちがヒシヒシと伝わってきて、早苗は鼻の奥がツンとした。
「前野さん、今までお世話になりました」
深々とお辞儀をすると前野は突然のことに驚いていたが、「新しい職場でも頑張ってね」と言って自分の部署に戻っていった。
「須田先輩」
夕方、会社のエントランスを出てきた京介を呼び止めた。早苗の顔を見た京介は一瞬目を大きく開けて驚いたが、すぐに前のような優しい表情を向けてきた。
そんな彼の顔を見て早苗の心がチクリとした。
「何か用か?」
「その、コレを渡しに来ました」
京介の顔をまともに見られなかった早苗は、視線を持っていた紙袋に向けたままソレを京介に差し出した。この中には京介が早苗の家に置いていた着替えが入っている。
「わざわざ持ってきてくれたんだな。ありがとう」
袋の中身を確認した京介が穏やかな口調で言う。この時間に私服でいることについて何も聞いてこないのは、早苗が会社を辞めることになったという話が既に彼の耳に届いているからだろう。改めて説明しないで済むのは正直気が楽だ。
「いえ。今までありがとうございました」
京介が目の前にいるのに、彼のフェロモンを感じられないというのは、なんだか不思議な感覚だった。彼に番がいることを思い知らされている気がして、物悲しくなってきたのを必死に誤魔化そうとした。
「俺の方こそありがとう。最後に会えてよかった。今度はお前が幸せになれる道を歩んで欲しい」
その言葉で目頭が熱くなり、浮かんできた涙が溢れないように必死にこらえた。強がって、もう彼をなんとも思っていないフリをしたけれど、早苗の中には京介に対する気持ちがまだ残っていた。
蔑ろにされて傷付いたけれど、それ以上に愛されていたことを早苗は分かっていたからである。
「……はい」
込み上げる感情を抑えて早苗が答えると、京介は安心したように「じゃあな」と残して立ち去った。何度も見送った背中だけど、今この瞬間が1番早苗の胸を締め付けていた。
「さよなら、京介さん――」
「何もしてあげられないのが歯がゆいわ」
退院した翌日、出社した早苗は懲戒解雇を告げられた。理由は無断欠勤だと言われたが、実際のところは無認可の中和剤を使用したオメガ社員を雇用し続けるのは難しいということだろう。
本当の理由を他の社員に知られなかったのは、この辞令において不幸中の幸いと思うことにした。
「いえ、大丈夫です」
「次の仕事は見つかりそう?」
なおも心配そうな表情を浮かべる前野を安心させるために、早苗は口角を上げて頷いた。
彼女には、解雇の本当の理由を詳細はぼかしつつ伝えたので余計に心配をかけることになってしまった。
「はい。知り合いが今回の件を気の毒に思って就職先を紹介してくれたんです。アルバイトでありますが、寮もあるので」
「今住んでるところは?」
「会社の借り上げ社宅だったので引っ越します。次の職場の給料だと今の家賃払うのは難しいからですから」
「そう……」
自分が育てた後輩がこんな形で辞めることになって心苦しいという彼女の気持ちがヒシヒシと伝わってきて、早苗は鼻の奥がツンとした。
「前野さん、今までお世話になりました」
深々とお辞儀をすると前野は突然のことに驚いていたが、「新しい職場でも頑張ってね」と言って自分の部署に戻っていった。
「須田先輩」
夕方、会社のエントランスを出てきた京介を呼び止めた。早苗の顔を見た京介は一瞬目を大きく開けて驚いたが、すぐに前のような優しい表情を向けてきた。
そんな彼の顔を見て早苗の心がチクリとした。
「何か用か?」
「その、コレを渡しに来ました」
京介の顔をまともに見られなかった早苗は、視線を持っていた紙袋に向けたままソレを京介に差し出した。この中には京介が早苗の家に置いていた着替えが入っている。
「わざわざ持ってきてくれたんだな。ありがとう」
袋の中身を確認した京介が穏やかな口調で言う。この時間に私服でいることについて何も聞いてこないのは、早苗が会社を辞めることになったという話が既に彼の耳に届いているからだろう。改めて説明しないで済むのは正直気が楽だ。
「いえ。今までありがとうございました」
京介が目の前にいるのに、彼のフェロモンを感じられないというのは、なんだか不思議な感覚だった。彼に番がいることを思い知らされている気がして、物悲しくなってきたのを必死に誤魔化そうとした。
「俺の方こそありがとう。最後に会えてよかった。今度はお前が幸せになれる道を歩んで欲しい」
その言葉で目頭が熱くなり、浮かんできた涙が溢れないように必死にこらえた。強がって、もう彼をなんとも思っていないフリをしたけれど、早苗の中には京介に対する気持ちがまだ残っていた。
蔑ろにされて傷付いたけれど、それ以上に愛されていたことを早苗は分かっていたからである。
「……はい」
込み上げる感情を抑えて早苗が答えると、京介は安心したように「じゃあな」と残して立ち去った。何度も見送った背中だけど、今この瞬間が1番早苗の胸を締め付けていた。
「さよなら、京介さん――」
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みんなの感想(21件)
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感想ありがとうございます。
番外編につきましては、色々と書きたいとエピソードがあるので気長に待っていて頂けたら嬉しいです☺️
とても励みになる感想をありがとうございました(* ᴗ͈ˬᴗ͈)”
コメントありがとうございます!去年のBL小説大賞のときからずっと応援ありがとうございました😭
楽しんでいただけたようで、本当に本当に嬉しいです。
伊織と京介の関係は私も深堀りしたいと思ってたので、いずれ書けたらいいなと考えています。
また彼らの物語が始まった時は、見守っていただけたら幸いです。
いつも励みになるコメントありがとうございます!
予想大的中でしたね(笑)登場人物の行動を予測して貰えて嬉しです(*^^*)
伊織に対する罰はそれほど派手なものではないですが、彼にとっては最もキツいお仕置を予定してます。