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第四章 熟さぬ果実
第十話 仮面の距離
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ブレジストン領の国境まで馬を走らせるだけでも丸一日はかかった。駆け落ちの夜は二日目を迎え、野宿の為に安全な場所を探す。
「ここら辺にいたしましょうか」
先に下馬し手を差し出すブライアン。
躊躇いながらもそこに手を乗せ、ルーカスも地に足を付けた。
臀部に違和感があり、拳で叩いたり、腰を回して柔軟に勤しむ。その間に手際よく手綱を木の幹に結ぶブライアン。いつもなら「自分でする」と言うところだが、駆け落ちをしてから上手く会話をすることが出来ていない。
初めて焦がれる思いを抱いた馬番にどのように接していいか皆目見当もつかないのだ。
ブライアンとは何度も会っているのに、仮面を外した別人を目の当たりにした気分だ。
「食料と水を確保してきます。旦那様はここでお待ちください」
「旦那様」と呼ばれ、ルーカスは見えない位置で拳を握った。
「俺も行く」
「お疲れでしょう?休んでいてください」
そう言って、ブライアンは背を向けた。
どんどん森の奥へ行ってしまう。
まだ埋まっていない主従関係という見えない距離のようで、もどかしくそして縮めることが出来ない。そして、それが広がるにつれ、不安感が押し寄せる。やはりこの関係はルーカスが一人で追っているだけの物なのではないか。
仮面を取り去ったのに、二人の関係はまだ仮面に隠されているように見えない。
「ブライアン!」
ルーカスが居ても立ってもいられなくなり走り出した時には彼の姿は見えなくなっていた。
森を走り回り、耳を澄ます。
目を瞑れば小鳥の囀り、木々のざわめき、そしてそれに混ざってせせらぎの音がする。
「あっちか」
微かな音を頼りに森を歩く。
生い茂る蔓や葉を避けながら進むと開けた場所に出た。
革のブーツ越しに土ではなく硬い砂利の感触が伝わる。目の前には小川が流れていて、水は今すぐ浴びててしまいたくなるほど透き通っていた。
そのほとりで蹲る男がいた。
ここまでの乗馬中ずっと後ろから見ていたくせっ毛の髪、逞しい背中。
——ブライアンだ。
竹の筒に水を汲んでいるブライアンにゆっくりと近付く。
騎士の頃の癖か、獲物を狙う時の抜き足のせいで、すぐに目的の場所へ辿り着けない。
結局最後まで本人を目の前に走り出すことは出来ず、しかも彼に気づかれる事なく背後を取った。
「ブライアン」
「?!」
肩を震わせたブライアンが目を見開きながら振り向いた。
「旦那様?! どうして? ……あっ!」
今すぐ野宿の場所へ追い返そうとするブライアンをルーカスは荒っぽく抱きしめた。
「ここら辺にいたしましょうか」
先に下馬し手を差し出すブライアン。
躊躇いながらもそこに手を乗せ、ルーカスも地に足を付けた。
臀部に違和感があり、拳で叩いたり、腰を回して柔軟に勤しむ。その間に手際よく手綱を木の幹に結ぶブライアン。いつもなら「自分でする」と言うところだが、駆け落ちをしてから上手く会話をすることが出来ていない。
初めて焦がれる思いを抱いた馬番にどのように接していいか皆目見当もつかないのだ。
ブライアンとは何度も会っているのに、仮面を外した別人を目の当たりにした気分だ。
「食料と水を確保してきます。旦那様はここでお待ちください」
「旦那様」と呼ばれ、ルーカスは見えない位置で拳を握った。
「俺も行く」
「お疲れでしょう?休んでいてください」
そう言って、ブライアンは背を向けた。
どんどん森の奥へ行ってしまう。
まだ埋まっていない主従関係という見えない距離のようで、もどかしくそして縮めることが出来ない。そして、それが広がるにつれ、不安感が押し寄せる。やはりこの関係はルーカスが一人で追っているだけの物なのではないか。
仮面を取り去ったのに、二人の関係はまだ仮面に隠されているように見えない。
「ブライアン!」
ルーカスが居ても立ってもいられなくなり走り出した時には彼の姿は見えなくなっていた。
森を走り回り、耳を澄ます。
目を瞑れば小鳥の囀り、木々のざわめき、そしてそれに混ざってせせらぎの音がする。
「あっちか」
微かな音を頼りに森を歩く。
生い茂る蔓や葉を避けながら進むと開けた場所に出た。
革のブーツ越しに土ではなく硬い砂利の感触が伝わる。目の前には小川が流れていて、水は今すぐ浴びててしまいたくなるほど透き通っていた。
そのほとりで蹲る男がいた。
ここまでの乗馬中ずっと後ろから見ていたくせっ毛の髪、逞しい背中。
——ブライアンだ。
竹の筒に水を汲んでいるブライアンにゆっくりと近付く。
騎士の頃の癖か、獲物を狙う時の抜き足のせいで、すぐに目的の場所へ辿り着けない。
結局最後まで本人を目の前に走り出すことは出来ず、しかも彼に気づかれる事なく背後を取った。
「ブライアン」
「?!」
肩を震わせたブライアンが目を見開きながら振り向いた。
「旦那様?! どうして? ……あっ!」
今すぐ野宿の場所へ追い返そうとするブライアンをルーカスは荒っぽく抱きしめた。
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