異世界ドッペルゲンガー

Ryo

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エレスチャル王国編

15.国を支える公爵は(フローライト視点)

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「ケイ、さぁ、これもお食べ」
「あら。ケイ、口元にクリームが付いてますわ。ふふ、お母様が取ってあげますわ」
「ほら、これも美味しいよ。私が切り分けてあげよう」
「そんなにかしこまらなくても良いのよ、お父様とお母様なのだから」


 お父様とお母様の間に座り、とても困った顔でこちらを伺ってくるケイ。
 まるで普段、私が二人に構われている様を側から見ているようで、何とも不思議なものですわ。

 そんなケイに、私もニッコリと笑いかけ、クッキーの載ったお皿を差し出した。


「お姉様、ほら、こちらもどうぞ」
「……あぁ、ありがとう」


 そうじゃない、と目が言っているようですが、気付かないフリを通します。

 だって、困り果てた様子のケイは凄く可愛らしいんですもの。
 お父様とお母様の前では言いづらいのか、大人しく私が渡したクッキーを食べるケイの可愛いこと。

 普段は凛とした空気をしているケイですけど、こういう時は年相応の、私と同じ年頃の女の子ですわ。


「本当にフローライトが二人いるようだね。顔立ちがとても似ているよ」
「そうねぇ。でも、ケイの方が少し大人びて見えますわ。不思議ねぇ」
「あぁ。フローライトの『お姉様』という呼び方がとてもしっくりくるね。確かに、姉妹のようだ」


 ジッと左右から見つめられ、どうしたものかと眉尻を下げるケイ。

 ここへ来るまでは、私の両親に会うからと緊張していたようでしたけど。
 きっと、受け入れてもらえるかどうか、不安だったのでしょう。

 ですが、私はこうなる事が最初から分かっていました。
 なんて言ったって、私の両親ですから。

 あの位置は、いつもは私がいる場所。
 あれだけの溺愛方をされれば、ケイへの対応も想像できていました。

 もちろん、お父様はエレスチャル王国を支える公爵の一つ。ハイルシュタイン家の当主でいらっしゃいます。

 それを踏まえてでも、お父様の親バカぶりは抑えられないというだけ。

 優秀で有名なハイルシュタイン公爵は、同時に自他共に認める親バカとしても有名です。
 その同類として、お母様がいるのです。それに加え、お母様は少し天然なところがあるから…。


「…あ、あの、ご当主様、奥様」
「嫌だなぁ、ケイ。お父様で良いんだよ」
「私のことも、お母様と」
「……さ、さすがにそれは…」
「お父様」
「お母様」
「…………お、父様、お母様」
「なんだい、ケイ」
「なぁに、ケイ」


 ケイにお父様、お母様と呼ばれて嬉しそうに顔を綻ばしている二人は、娘としてちょっと恥ずかしいですが。

 遠い目になってきたケイが少しばかり不憫に思えてきて、私は二人の注目を変えるべくこちらへ歩いてくるディアンに声をかける。


「ディアン、こちらです」
「ん? おぉ! ディアン、久しいな!」
「あらあら、またカッコよくなっちゃって」
「…お久しぶりでございます、旦那様、奥様」


 幼い頃から私に仕えるディアンは、二人にとって息子も同然。

 家族に対するような声と表情のお父様とお母様に、ディアンも執事という立場から少しだけ外れた表情を浮かべています。

 二人の興味が私の背後に控えたディアンに向いた事で、ホッと息をついているケイと目が合った。


「どう? 私の両親は」
「良い方達だな。フローラの素敵な人柄は、この方達から来ているのだろうな」


 フワッと微笑むケイは、珍しく優しい顔をしている。いつもは常に気を張った顔をしているから。
 凛としたケイはとても素敵だけど、やはり気を抜いたところも見たいものです。


「聞いたかい。今、ケイがフローラと」
「えぇ、聞いたわ。仲の良い姉妹で嬉しいわ」
「そうだね。私達の娘は可愛いなぁ」
「そうねぇ。息子はカッコよくなって」


 お父様、お母様。
 二人の子供は私だけですわ。

 まぁ……彼らと本当の家族になれたら、とは思っておりますけどね?
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