異世界ドッペルゲンガー

Ryo

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エレスチャル王国編

16.我が主人(オブシディアン視点)

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 ある日、ハイルシュタイン家の敷地内に突然現れた女。

 それは俺が仕える主人、フローライトお嬢様に瓜二つという異様な姿だった。

 最初は魔物の類か、敵の幻術かと警戒していたのだが……。


「はい、ケイ。あーん」
「いや、私は自分で食べられるぞ…?」


 目の前で楽しそうにケーキをフォークに刺し、それを口元へ運ぶお嬢様。
 そして、それを差し出されている女。

 遭遇した時から何故か警戒することなく受け入れたお嬢様の様子に、俺は当初、お嬢様に何か魔術がかけられたのではと本気で疑っていた。

 しかし、そんなことは一切なく、お嬢様はご自分の意思で得体の知れない女を招き入れたのだ。

 エレスチャル王国を支える三大公爵が一つ、ハイルシュタイン家のご息女として幼い頃から厳しく教育されてきたフローライト様。

 強制されるだけでなく、お嬢様は努力なされました。
 それこそ、世界最高峰とされる学院へ首席でご入学されるほど。

 それに慢心することなく更に努力を重ねるお嬢様のお姿は、配下としてとても誇らしく。

 同時に、幼馴染としてとても痛ましく見えた。

 同年代の友人と言えるのは俺くらいで、俺も使用人という枠組みからは外れきれない。

 遅くまで勉学に励む姿に、何度「無理をするな」という言葉を飲み込んだか。

 それでも、公爵を継ぐことになるであろう者としては、 他にいないほどの人物となっていた。

 学院でも夜会でも、一目置かれる存在。
 フローライト・ハイルシュタイン公爵令嬢。

 それが、どうだ。

 大人しく口を開いた女に心から嬉しそうな笑みを浮かべるお嬢様は、年頃の少女のようにしか見えない。
 お嬢様を知る者が見れば、お嬢様すらも偽物なのではと疑うかもしれない。

 仕える者としては、溜息が出てしまうが。

 彼女を慕う幼馴染としては……嬉しいが、何とも腹立たしい。

 彼女を変えたのが、自分ではないという事が。

 ケイ・タチバナ。
 フローライトお嬢様と同じ容姿をした、謎の女。

 異世界から来たというが、未だ俺は信じきれていない。
 そもそも別の世界があるのかさえ分からないのだから、普通は信じるなんて無理だろう。

 俺があの女を排除しないのは、単にお嬢様が受け入れているからに過ぎない。

 お嬢様が命じれば、今すぐにでも叩き出してやるのに……。


「…ん? ディアン、どうかしたのか?」


 ふと、俺の方を振り向いたアイツが首を傾げる。
 どうやら眉間にシワが寄っていたらしい。自分の眉間をトントンとしているアイツに、顔を顰めながら何でもないと首を横に振った。


「ん、そうか」
「……っ」


 安心したように、ふ、と笑顔を浮かべる顔に思わず心臓が鳴った。

 くそ……っ、何でお嬢様と同じ顔なんだ。

 だがお嬢様はあんな風には笑わない。もっと優雅に、綺麗に笑うんだ。

 あんな……親しみのこもった、可愛いものじゃ……、

 …………。


「……!!?!!!?」


 お、俺は今、なんとっ⁉︎


「なぁ、フローラ。ディアンは本当にどうしたんだ……?」
「ふふ、大丈夫。 お年頃なのよ、ディアンもね」
「……? まぁ、フローラが大丈夫と言うのなら、大丈夫なのだろう」


 コソコソとお嬢様とアイツが何か話しているが、パニックになっていた俺の耳には届かなかった。
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