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エレスチャル王国編
17.ヴィオレット学院
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王都にあるハイルシュタイン家の屋敷で朝を迎えて、今日で5日目。
フローライトの通う学校は、今日からスタートだ。
「ほら、フローラ。時間だ」
「むぅ……もう行かないと駄目なの?」
リビングのソファにてむくれているフローライトに、苦笑しながら頭を撫でた。
「私に学校を案内してくれるのだろう?」
「……」
「そうか……楽しみにしていたのだが。残念だ」
「……んんっ、もう! 分かったから、そんな顔するのは反則よ」
肩を竦めて残念がってみれば、文句を言いながらも立ち上がってくれた。
何と言っても、ちゃんと動き出してくれるフローライトは可愛い。
「いつも始業式にはギリギリにしか行かないフローラが……」
「えぇ、あなた。これも姉妹愛ね」
それを横のソファから眺めているフローラのご両親。
公爵であるグラウド殿と、奥方であるローズ様だ。
黒髪に深い青の眼のグラウド殿は、フローライトに目元が似ていて、気品がある顔立ちだが浮かべる笑みはとても穏やかで親しみがある。
ローズ様は17になる娘がいるとは思えないほど、とても美しい方だ。ふわりと腰まで垂れている黒髪は艶で輝いているようで、薄い紫の眼は優しい色で微笑みは場を和ませる。
寄り添うようにソファに座る二人は、まるで美術館に飾られた絵のようだ。
これでフローライトが加わったら完璧だな。
「お父様、お母様。では、行ってまいりますわ」
ニッコリと微笑んで膝を折るフローライトに、私も横で頭を下げた。
ディアンはすでに外に待機している馬車に乗っている頃だろう。
笑顔で頷いた二人に見送られ、私達は屋敷を後にした。
**********
今日は馬車の運転をディアンに任せ、私はフローライトと共に馬車内で揺られていた。
「ヴィオレット学院、と言ったか」
「えぇ。エレスチャル王国だけでなく、世界でも屈指の学術レベルなの。一緒に受ける?」
「そうか……いや、私はあまり勉学が得意ではなかったからな。フローラが勉強中は学院内を回ることにしよう」
「ふふ、ケイは体を動かす方が好きなのよね。今朝もまた庭で鍛錬していたわ」
「なんだ、見ていたのか?」
そんな他愛のない会話をしながら、揺られること10分ほど。
「着きました」
運転席からディアンの声が聞こえ、馬車が止まる。
いつものように外からドアがノックされ、サッと開かれるとディアンが手を差し出す。
それにフローライトが手を置き馬車から降りると、私も続いて飛び降りた。
まだ早い時間だからか、周囲に他の生徒は見られない。
フローライトは新学期が始まる為の仕事があるらしい。〈ガーディアン〉と呼ばれる、私が知るところの生徒会のような組織に入っているようだ。
今日はディアンは馬車と共に屋敷へと戻る事になっている。グラウド殿達の相手をしなきゃいけないとか。
馬車を運転して帰っていくディアンを見送ると、笑顔のフローライトがスッと手を差し出した。
「エスコートしてくださいな、お姉様」
「仰せのままに」
苦笑しながら腕を差し出せば、そこに綺麗な彼女の手が添えられる。
フローライトをエスコートしながら、改めて目の前にそびえ立つ学院を見上げた。
遺跡を活用した王都らしく、ヴィオレット学院は石材で造られたもので、最も高い部屋で3階、横広がりな敷地になっている。
正直、王都の街並みと同化してどこから学院なのか私には分からないな。
きっと一人で歩いたら簡単に迷子になってしまうだろう。
石門を潜り、蝋燭が等間隔で灯された廊下をゆっくりと歩く。
時間が早い事もあり、建物内はとてもヒンヤリとしていた。
「かなり大きな建物なんだな」
「ここは昔、礼堂のような場所として使われていたそうよ。遺跡の中でも最大の敷地面積を持っているの」
「私では簡単に迷ってしまうな…」
「毎年、新入生が迷子になるの。それを探して誘導するのも、私達の仕事よ」
つい辺りをキョロキョロとしてしまう私に、フローライトが丁寧に説明してくれる。
大きな部屋の前では、それがどんな用途で使われている部屋なのか、どんな名前で呼ばれているのか、全体のどの辺にあるのかまで教えてくれた。
彼女が授業に移れば私は1人で行動する事になる。早いうちに構造を覚えなければ。
学院内で滅多な事はないだろうが、もしもの時にフローライトの元へ駆け付けられないのも困る。
「そして、ここが〈ガーディアン〉専用の部屋よ」
暫く廊下を進んだ頃、ある部屋の前でフローライトが立ち止まった。
他の部屋に比べ、僅かに装飾が豪華なドアだ。
躊躇いなくノックするフローライトに、中から男性の声で返事が聞こえた。
窺うと頷かれたので、私は丁寧にドアを開く。
するとーーー
「わぁぁぁああああ!!!」
開けた途端、凄まじい悲鳴が轟いた。
何事かと反射で剣の柄に手が向かうが、目の前で倒れかかっている少年が見えて、サッと腕を差し出す。
左腕で少年を受け止め、空中に舞っていた本を4冊キャッチ。
どうやらドアの近くにいたところを、私が開けてしまった為に驚かせてしまったようだ。
「すまない、大丈夫か?」
「……はっ! はいっ、大丈夫です! フローライ、ト、さま…………?」
こちらを見上げた少年は、私を見ると不思議そうに首を傾げ、何気なく私の背後に視線をずらし。
「ふふ、相変わらず慌てん坊さんね」
笑うフローライトを確認し、また私へと視線を移し。
「………………へ?」
呆けた声をあげた。
フローライトの通う学校は、今日からスタートだ。
「ほら、フローラ。時間だ」
「むぅ……もう行かないと駄目なの?」
リビングのソファにてむくれているフローライトに、苦笑しながら頭を撫でた。
「私に学校を案内してくれるのだろう?」
「……」
「そうか……楽しみにしていたのだが。残念だ」
「……んんっ、もう! 分かったから、そんな顔するのは反則よ」
肩を竦めて残念がってみれば、文句を言いながらも立ち上がってくれた。
何と言っても、ちゃんと動き出してくれるフローライトは可愛い。
「いつも始業式にはギリギリにしか行かないフローラが……」
「えぇ、あなた。これも姉妹愛ね」
それを横のソファから眺めているフローラのご両親。
公爵であるグラウド殿と、奥方であるローズ様だ。
黒髪に深い青の眼のグラウド殿は、フローライトに目元が似ていて、気品がある顔立ちだが浮かべる笑みはとても穏やかで親しみがある。
ローズ様は17になる娘がいるとは思えないほど、とても美しい方だ。ふわりと腰まで垂れている黒髪は艶で輝いているようで、薄い紫の眼は優しい色で微笑みは場を和ませる。
寄り添うようにソファに座る二人は、まるで美術館に飾られた絵のようだ。
これでフローライトが加わったら完璧だな。
「お父様、お母様。では、行ってまいりますわ」
ニッコリと微笑んで膝を折るフローライトに、私も横で頭を下げた。
ディアンはすでに外に待機している馬車に乗っている頃だろう。
笑顔で頷いた二人に見送られ、私達は屋敷を後にした。
**********
今日は馬車の運転をディアンに任せ、私はフローライトと共に馬車内で揺られていた。
「ヴィオレット学院、と言ったか」
「えぇ。エレスチャル王国だけでなく、世界でも屈指の学術レベルなの。一緒に受ける?」
「そうか……いや、私はあまり勉学が得意ではなかったからな。フローラが勉強中は学院内を回ることにしよう」
「ふふ、ケイは体を動かす方が好きなのよね。今朝もまた庭で鍛錬していたわ」
「なんだ、見ていたのか?」
そんな他愛のない会話をしながら、揺られること10分ほど。
「着きました」
運転席からディアンの声が聞こえ、馬車が止まる。
いつものように外からドアがノックされ、サッと開かれるとディアンが手を差し出す。
それにフローライトが手を置き馬車から降りると、私も続いて飛び降りた。
まだ早い時間だからか、周囲に他の生徒は見られない。
フローライトは新学期が始まる為の仕事があるらしい。〈ガーディアン〉と呼ばれる、私が知るところの生徒会のような組織に入っているようだ。
今日はディアンは馬車と共に屋敷へと戻る事になっている。グラウド殿達の相手をしなきゃいけないとか。
馬車を運転して帰っていくディアンを見送ると、笑顔のフローライトがスッと手を差し出した。
「エスコートしてくださいな、お姉様」
「仰せのままに」
苦笑しながら腕を差し出せば、そこに綺麗な彼女の手が添えられる。
フローライトをエスコートしながら、改めて目の前にそびえ立つ学院を見上げた。
遺跡を活用した王都らしく、ヴィオレット学院は石材で造られたもので、最も高い部屋で3階、横広がりな敷地になっている。
正直、王都の街並みと同化してどこから学院なのか私には分からないな。
きっと一人で歩いたら簡単に迷子になってしまうだろう。
石門を潜り、蝋燭が等間隔で灯された廊下をゆっくりと歩く。
時間が早い事もあり、建物内はとてもヒンヤリとしていた。
「かなり大きな建物なんだな」
「ここは昔、礼堂のような場所として使われていたそうよ。遺跡の中でも最大の敷地面積を持っているの」
「私では簡単に迷ってしまうな…」
「毎年、新入生が迷子になるの。それを探して誘導するのも、私達の仕事よ」
つい辺りをキョロキョロとしてしまう私に、フローライトが丁寧に説明してくれる。
大きな部屋の前では、それがどんな用途で使われている部屋なのか、どんな名前で呼ばれているのか、全体のどの辺にあるのかまで教えてくれた。
彼女が授業に移れば私は1人で行動する事になる。早いうちに構造を覚えなければ。
学院内で滅多な事はないだろうが、もしもの時にフローライトの元へ駆け付けられないのも困る。
「そして、ここが〈ガーディアン〉専用の部屋よ」
暫く廊下を進んだ頃、ある部屋の前でフローライトが立ち止まった。
他の部屋に比べ、僅かに装飾が豪華なドアだ。
躊躇いなくノックするフローライトに、中から男性の声で返事が聞こえた。
窺うと頷かれたので、私は丁寧にドアを開く。
するとーーー
「わぁぁぁああああ!!!」
開けた途端、凄まじい悲鳴が轟いた。
何事かと反射で剣の柄に手が向かうが、目の前で倒れかかっている少年が見えて、サッと腕を差し出す。
左腕で少年を受け止め、空中に舞っていた本を4冊キャッチ。
どうやらドアの近くにいたところを、私が開けてしまった為に驚かせてしまったようだ。
「すまない、大丈夫か?」
「……はっ! はいっ、大丈夫です! フローライ、ト、さま…………?」
こちらを見上げた少年は、私を見ると不思議そうに首を傾げ、何気なく私の背後に視線をずらし。
「ふふ、相変わらず慌てん坊さんね」
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「………………へ?」
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