異世界ドッペルゲンガー

Ryo

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エレスチャル王国編

19.彼の相棒は

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 ハウ殿は新入生ということもあり、ガーディアンとしてもまだ新米。

 なので、一年間は先輩を1人教育係りとしてつける仕組みになっているらしい。


「カーネリアン様はまだいらしていないのかしら」
「はい、まだ……」
「あらあら」


 困った子ね、と笑うフローライトだが、彼女も良く遅刻すると聞いているので人の事は言えないだろう。

 いつも始業式にギリギリ来ているとの事だったが、ガーディアンの仕事はどうしていたのだろうか……。


「そういえば、マグはどうしたの?」
「マグは今、精霊界で待機してます」
「残念、ケイに紹介してあげたかったのですけど……」
「喚びましょうか?」


 精霊界、という聞き慣れない単語に首を傾げる。
 この世界には魔物だけではなく、精霊もいるのか?

 フローライトが私を振り仰いだ。


「ケイ、動物はお好き?」
「動物か……私は好きな方なんだが、どうも怯えさせてしまって」


 元の世界では全くといっていいほど、動物とは触れ合えていない。
 家の近くに野良猫が数匹いたのだが、兄弟子達には懐くのに私が近づくと一目散に逃げるか威嚇するか。

 試しに兄弟子が抱えて逃げないようにした猫を触ろうとしたら、見事に手を引っ掻かれた。

 それからは無理に触れようとはしていない。


「ふふ、ケイは強いから野生の勘で怯えてしまうのかもしれないわね」
「そういうものか……?」


 楽しげにクスクスと笑うフローライトの言葉に、釈然としない気持ちになる。
 そこまで怯えられる程、私は強くないのだが。


「マグーーーえっと、僕の守護精霊は大丈夫だと思います。見た目は白い虎なんですけど、無闇に襲いかかることはないので」
「紹介しておかないと、ケイが間違って倒してしまうかもしれませんからね。ケイ、襲っては駄目よ」
「心得た」


 どちらが危険な生き物なのか分からないな。

 フローライトの言葉が面白かったのか、緊張していたハウ殿の表情も幾分か穏やかになった。
 怯えさせるのは、どうも動物ばかりではないようだな。気をつけよう。


「それではーーー」


 ペコリと頭を下げると、ハウ殿が右手をテーブルの横に掲げる。

 すると、彼の掌から光輝いた記号が浮き出たように見えた。
 あれは……魔法陣、と呼ばれる類のものか?

 初めて見る魔法の姿に驚いていると、ハウ殿の右隣ーーー魔法陣の先に一つの気配を感じた。

 目を凝らしてみると、宙に薄っすらと光の球がある。
 そして、その球は段々と大きく形を成していきーーー。


「こちらが、僕の守護精霊マグです」


 綺麗な白虎が、そこに座っていた。
 雪のように真っ白な毛に、月を思わせる金の瞳。精霊だからなのか、妙に身体が発光しているように見える。

 鋭くも凛々しい雰囲気を放つ白虎・マグは、私へと視線を向けると緩やかに頭を下げた。


《四精霊が一柱、マグネサイトだ。主の新しき友、双生の片割れよ》
「会話ができるのか……失礼した。フローライト様の護衛となったケイと申す。よろしく頼む」


 低い男の声に、私も一礼をして返す。まるで頭の中に直接響くような声だったが、これも魔法の類なのだろうか。

 しかし、おかしな事を聞いた。


「すまない、私とフローライト様は双子ではないんだ。姉妹でもない」
《何……?》


 私が訂正の言葉を伝えると、何やら訝しげな声で私とフローライト様に視線を交差させる。

 確かに、こうも見た目がそっくりでは双子と考えても仕方がないか。

 私はそう思ったのだが、どうやら違うらしく。


「どうしたの、マグ。君が魂を見間違えるなんて」
「魂?」
「生き物は誰しも魂を持っているもの。精霊は本来実体のない魂に近い存在なので、相手の魂を感じ取る事ができるんです」
「なるほど」
《双生でないのなら、随分と不思議なものだ。こうも似通った魂を持つ者など、そうはいまい。いや、双生の者ですら、ここまで近しいものは珍しい》
「そんなに似ているのか?」
《下位の精霊では、見分ける事も出来ぬやもしれん》


 マグの言葉にハウ殿が目を見開いている様子から、どうやら相当な事のようだ。

 フローライトに視線を移すと、彼女もこちらを振り向いていた。
 自分達ですら血の繋がりがない事が不思議な程、私とフローライトは似ている。

 それが、まさか魂までソックリとはな。


「ふふ……それじゃあ、ハウ様が私とケイを見間違えても仕方がないですわね」
「あぅ……すみません……」


 楽しげなフローライトの声にまた肩を竦めるハウ殿。その反応を面白がっている彼女に、思わず苦笑が漏れた。
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