「君と暮せば毎日がちょっといい日」

るみ乃。

文字の大きさ
37 / 150

「鍋と味つけ、俺たちの距離」

しおりを挟む
 土鍋を買った翌日。
 仕事を早めに切り上げて、蒼汰の帰りを待ちながら夕食を準備していた。

 初おろしの土鍋。どうせなら、と鶏団子と野菜たっぷりのちゃんこ鍋風。
 出汁を整えながら、ぐつぐつと煮える音を聞いていると、不思議と気持ちまで落ち着いてくる。

 玄関が開いて、蒼汰の声が響いた。
「ただいま~! ……おぉっ! 鍋!? 今日は鍋なん!?」
「うん。ちゃんこ鍋っぽくしてみた。野菜もたっぷり」
「わっ、めっちゃええ匂い!!」

 蒼汰はテンション高く椅子に座り、箸を手に湯気の向こうを覗き込む。

「おぉ~、なんか“関東の寄せ鍋”って感じやな。ちょっと色濃いけど……」
「味見してみて」

 おそるおそるひと口食べた蒼汰の顔が、ぱっと明るくなった。

「……うん! うまっ! あったまる~!」
「よかった」
 
 思わずほっと息をつく。
 蒼汰は満足げにスープをすくって、にこにこしていた。

「蒼汰のお母さんの味付けって、どんな感じ?」
「うちの実家やと、出汁メインで薄口やな。けど、悠真のんも美味しいで。なんか“東京の味”って感じ」

 そんな他愛もない話をしているうちに、鍋の中はほとんど空になった。
 俺は炊飯器を開けて、ご飯をよそおうとした

「えええええええっ!? うどんちゃうの!?」
 その声に思わず手が止まった。

「……雑炊にしようと思ってたんだけど」
「関東は雑炊締めなん? うどんやと思てた……」
 しゅんとした蒼汰を見て、思わず苦笑する。

「ごめん、今度は関西風にするから」
「ちゃうちゃう、怒ってへん。ちょっとびっくりしただけや」

 そう言いながら、蒼汰はしゃもじを受け取って、「雑炊も経験やん!」とスープにご飯を落とした。ぐつぐつ煮える音が、また部屋をあたためていく。

 湯気の向こうで、蒼汰がふうふうと息を吹きかける。

「……おっ、うまっ! これええやん! 雑炊ってこんなにおいしいんや!」
「それは、よかった」
「うどんとは違うけど、これはこれでありやな。新しい味、発見!!」
「大げさだな」
「悠真のおかげで、知らん味の世界広がっとるで」

 嬉しそうに笑うその顔が、なんだか愛しくて。
 俺は思わず箸を止めて見とれてしまった。

 こいつはいつも、ちゃんと俺のことを見てくれる。 味の違いも、育ちの違いも、全部まるごと“ふたりの色”になっていく。

「なぁ悠真」
「ん?」
「こうやってふたりで同じ鍋つつくの、なんかええな」
「そうだな。」
「それに、鍋の中で味が混ざってく感じ、なんか俺らみたいやん」
「混ざって……?」
「お互いの味が、ちょうどええ具合に合わさる感じ」
「……それ、いい表現だな」

 蒼汰が照れくさそうに笑って、またスプーンを口に運ぶ。おでこにはうっすら汗。
 その表情がやけに優しくて、胸が温かくなる。

 外は冷たい風。だけどテーブルの上には湯気と笑いと、ふたりの暮らしの味があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

とあるΩ達の試練

如月圭
BL
 吉住クレハは私立成城学園に通う中学三年生の男のオメガだった。同じ学園に通う男のオメガの月城真とは、転校して初めてできた同じオメガの友達だった。そんな真には、番のアルファが居て、クレハはうらやましいと思う。しかし、ベータの女子にとある事で目をつけられてしまい……。  この話はフィクションです。更新は、不定期です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

定時後、指先が覚えている

こさ
BL
職場で長く反目し合ってきた二人。 それでも定時後の時間だけは、少しずつ重なっていく。 触れるはずのなかった指先。 逸らさなかった視線。 何も始まっていないのに、 もう偶然とは呼べなくなった距離。 静かなオフィスでゆっくりと近づいていく、 等身大の社会人BL。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

イケメンオジイついに交際したことを忘れる

彩根梨愛
BL
天然雰囲気冴えない系イケメンの高校生、綾野蒼に知らん間に彼氏が出来ていた話。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

処理中です...