「君と暮せば毎日がちょっといい日」

るみ乃。

文字の大きさ
66 / 150

「マフラー巻きすぎ」

しおりを挟む
 玄関で靴を履いている蒼汰を見、俺は思わず二度見した。
 ……なんだ、あの丸い物体。

「悠真……寒い……」
 確かに蒼汰……顔がマフラーに埋もれてる。

「お前……何枚巻いた?」
「三枚……」
「三枚!? 事故だろ」
「違う。正しい冬装備やん……今朝、雪降ってんねん」

 もこもこの生き物が、もごもご動く。
 全身で立ってはいるけど、どう見ても――ミノムシ。

「歩ける?」
「……たぶん……」

 一歩、ずり。
「あっ、ずれる……!」
 マフラーが口の位置まで落ちて、慌てて手を動かす蒼汰。

「悠真~~助けてぇぇ~~~……」
 情けない声に、思わず笑いが漏れた。

「はいはい、こっち来い。でっかい毛玉」
 近づいてマフラーをくいっと直すと、
 中からうるんだ目が出てくる。
 ……可愛すぎる。

「……笑ってるやろ」
「あぁ」
「だって寒いんやもん……外、冬やもん……」
 理由になってないけど、まあいい。

「せめて一枚外せ。動けないだろ」
「やだ……」
 子どもか。
 でもこういうときの蒼汰は、妙に強情だ。

「……わかった」
「え?」
「俺がちゃんと巻き直す。来い」

 俺はぐるぐるに巻かれていたマフラーを一度外して、
 先日たまたま見かけた“フードみたいになる巻き方”で
 蒼汰をすっぽり包み直した。

 最近変えた髪型のせいで、耳が冷えやすいのも知ってる。
「……悠真、これ……」
「どうだ」
「いいやん……耳あったか……」

 ほっとした顔でそう言うから、ちょっとだけ胸の奥がゆるむ。

「……ほら、遅れるぞ」
「うん」
 靴を履き直した蒼汰が、ドアに手をかけてから振り返る。

「行ってくるで」
「……ん」
 そう言った瞬間、蒼汰が一歩戻ってきて、
 俺のマフラーの端をつまんだ。

「なに……」

 言い終わる前に、ちょん、と軽く唇が触れる。
 ほんの一瞬。
 冬の空気みたいに冷たくて、でもちゃんとあったかい。

「……いってきますのやつ」
 にっと笑って、今度こそ玄関を出ていく。
 ドアが閉まって、静かになる玄関。

 寒空の下、防寒しすぎで少し丸い背中を思い浮かべながら、
 俺は自分の唇に残ったぬくもりを、そっと噛みしめる……
 冬は、悪くない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

とあるΩ達の試練

如月圭
BL
 吉住クレハは私立成城学園に通う中学三年生の男のオメガだった。同じ学園に通う男のオメガの月城真とは、転校して初めてできた同じオメガの友達だった。そんな真には、番のアルファが居て、クレハはうらやましいと思う。しかし、ベータの女子にとある事で目をつけられてしまい……。  この話はフィクションです。更新は、不定期です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

定時後、指先が覚えている

こさ
BL
職場で長く反目し合ってきた二人。 それでも定時後の時間だけは、少しずつ重なっていく。 触れるはずのなかった指先。 逸らさなかった視線。 何も始まっていないのに、 もう偶然とは呼べなくなった距離。 静かなオフィスでゆっくりと近づいていく、 等身大の社会人BL。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

イケメンオジイついに交際したことを忘れる

彩根梨愛
BL
天然雰囲気冴えない系イケメンの高校生、綾野蒼に知らん間に彼氏が出来ていた話。

さよなら、永遠の友達

万里
BL
高校時代、バスケットボール部のキャプテン・基樹と、副部長として彼を支える冷静な舜一。対照的な二人は親友であり、マネージャーの結子を含めた三人は分かちがたい絆で結ばれていた。しかし舜一は、基樹への決して報われない恋心を隠し続けていた。 卒業を控え、基樹との「ずっと一緒にバスケをする」という約束を破り、舜一は逃げるように東京の大学へ進学する。基樹を突き放したのは、彼が結子と結ばれる幸せを近くで見届ける自信がなかったからだ。 10年後。孤独に生きる舜一のもとに、基樹から「結子が事故で亡くなった」という絶望の電話が入る。ボロボロになった親友の悲痛な叫びを聞いた瞬間、舜一の中にあった想いが目を覚ます。仕事もキャリアも投げ出し、舜一は深夜の高速をひた走る。

処理中です...