【完結】聖クロノア学院恋愛譚 ―君のすべてを知った日から―

るみ乃。

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2 静寂の中の出会い

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 寮のドアが静かに開く音がした。
 俺は本から視線を上げる。

 入ってきたのは、あの男——レオン・ヴァルフォード。
 王家の血を引き、学業・武術すべてに秀でた、いわば“完成されたアルファ”。

 まさか、そいつが俺のルームメイトになるとは。

(……これは、想定外だ)

 本を閉じ、無表情のまま口を開く。

「君が、レオン・ヴァルフォードか」

 冷えた声音に、レオンは肩をすくめ、口角を上げる。

「お前がルームメイト?ずいぶん歓迎されてないな」

「ユリス・フェルナンド。生徒会副会長だ。歓迎する理由はない」

「副会長ってのは、新人の世話もする役目なのか?」

「違う。ただ——」

 少し語気を強めた。

「お前が“特別”だからだ」

 この学院にアルファが存在すること自体、異例中の異例だ。
 空気が変わる。秩序が揺らぐ。それが、面倒なんだ。

 レオンは黙ってこちらを見つめる。
 その目は、笑っていない。どこか試すような、深く静かな視線。

「で、俺の扱いは?特別扱いか、それとも腫れ物扱い?」

「どちらでもない。問題を起こせば、即座に対処する。それだけだ」

「厳しいな」

「当然だ。ここは、アルファのための場所じゃない」

 沈黙が落ちる。
 やがて、レオンはふっと笑った。

「……お前、面白いな」

「は?」

「普通のベータなら、もっと緊張してる。あるいは、媚びへつらうか」

「俺は“普通”じゃない」

 レオンの笑みが、少しだけ深くなる。

「……だろうな」

 また、あの目。人の奥を覗き込むような、いやらしいほど真っ直ぐな視線。
 不快ではない。ただ——厄介だ。

 ノックの音がして、教師が顔を出した。

「ユリス、タイミングがいいな。ヴァルフォードの生活サポート、頼む」

「は? なんで俺が?」

「お前、生徒会だろ。管理能力あるって評判だしな」

(誰の評判だ……)

 ユリスの眉がわずかに動く。教師の態度は変わらない。
 決定事項、というわけだ。

 レオンは、横で腕を組んだまま笑っている。

「よろしく頼むよ、ルームメイト」

「……頼む気なんてないだろ」

「さあ?それはこれからのお楽しみってことで」

 その態度が、妙に癇に障る。
 俺は静かにため息をついた。

(……本当に、面倒くさい)
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