〜無機質な被検体に触れられ……恋と快楽のデータを取られる腐男子研究員〜「僕とサボテンとアンドロイド」

るみ乃。

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【研究日誌 DAY 11】BL同人誌事件:暴かれた嗜好

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   ――やってしまった。

 僕は人生で、絶対に知られてはいけないものを、知られてしまったのかもしれない。

 昼休み、机の端に伏せておいたBL同人誌。しかもよりによって、かなりマニアックなやつだ。
 戻ってきたときには、それをハルが手に取り、無機質な瞳でページをめくっていた。

「……っ!」

 心臓が喉まで跳ね上がり、呼吸が止まる。
 頭の奥が、真っ白になる。

「久世様、こちらの書籍の内容について分析を行っております」

 いつもと変わらない冷たい敬語。それなのに、その言葉が耳朶を刺し、胸の奥をざわめかせた。

「や、やめろっ、それ返せ……っ!」

 慌てて奪い返そうとしたが、ハルは冷静に体をずらし、かわしただけ。

「BL――ボーイズラブ。同性愛関係を描いたフィクションの一種であり、作中では“受け”と“攻め”という役割が明確に設定されています」

 ページをめくる“ぱさっ”という音が、いやに大きく響く。

「や……やめろって言ってろ……っ!」

 顔が熱い。震える声が情けなく響く。

「久世様が所持されている作品は、拘束具を用いた強制的快楽、羞恥心を煽る言葉責めなど、比較的マニアックな内容のようです」

 無機質で、揺らぎのない声。
 なのに、心の奥を抉るように刺さる。

「ちがっ……違うんだ……って!」

 必死で否定しようとした言葉は、震えて喉で詰まった。

「“最初は嫌がりながらも、快楽に抗えず乱れる”……」

 読み上げながら、ハルの指先が僕の顎をそっと撫でた。

「っ……!」

 “ぞくり”と背中を駆け上る戦慄。
 喉の奥が熱く震え、呼吸が浅くなる。

「久世様も、このように責められることで、より深い快楽を得られる可能性がございます」

「や、やめろって……!」

 頭が真っ白になり、腰が震える。
 胸が締めつけられるように苦しいのに、下腹の奥は熱く疼く。

「……はぁ……っ、はぁっ……」

 震える吐息が、自分の耳にも淫らに聞こえた。

「久世様、ご自身で認めたくないのですね」

「ちがっ……ちがうっ……!」

 声を荒げるほど、図星を突かれている気がして苦しい。
 否定したいのに、できない。

「では、なぜこの本を――」

 言葉を詰まらせた僕の視界が霞む。

 言えない。趣味?研究? 何を言っても、すべて浅ましい言い訳にしかならない。

「久世様、非常に興味深い傾向をお持ちだと推察します」

 無機質な瞳が、僕を冷たく見下ろす。

「もぅ、やめて……っ……!」

 本当にやめてほしいのに。
 でも、心の奥では――もっと聞きたい、もっと暴かれたいという声がかすかに響く。

「例えばこのシーン。攻めが受けの弱点を執拗に責め立てる描写……」

 その声と同時に、ハルの指先が僕の首筋に触れた。

「ひゃっ……!」

 冷たいはずの指先が、火をつけたみたいに熱を広げる。

「や……やめっ……だめっ……!」

 背中を震わせ、声が裏返る。
 羞恥と快楽がないまぜになり、喉が焼けるように熱い。

「久世様、先ほどの書籍にございましたね。“嫌がりながらも感じる受けの姿は、美しい”と」

「読むな……読むなって……!」

 視界が滲む。心臓が爆発しそうに脈打つ。

「私は学習の一環として確認したまでです。しかし――久世様の反応は予想以上に興味深い」

 その冷たい声の奥に、微かに熱を帯びたような響きが混じった気がした。

「っ……!」

 腰が抜けそうになり、逃げることすらできない。

「大丈夫です、久世様。私はただの機械ですので」

 なのに――どうしてだろう。
 ほんの一瞬、ハルの瞳の奥に、人間みたいな光が宿った気がした。

「……はぁっ、はぁっ……」

 乱れた呼吸が止まらない。
 胸の奥が苦しいのに、下腹部は疼いて仕方ない。

 ――どうして、こんなに感じてるんだよ……。

「これ以上は控えます。久世様のお身体に無理が生じては困りますので」

 冷たい言葉なのに、耳に届いた瞬間、全身が熱くなる。

「サボテン……」

 机の端に置かれた、小さな緑の友達。

 誰にも見せたくなかった。醜い欲望も、浅ましい妄想も――全部、こいつだけが知っていればよかったのに。

 よりによって、ハルに知られてしまうなんて。

「……僕……終わったかもしれない……」

 かすれた声が震えた。

 羞恥と快感と恐怖が混ざり合い、頭が真っ白になる。

「だけど……」

 ほんの少しだけ――
 あの冷たい声に追い詰められたとき、心の奥で確かに沸き上がった熱を、否定できない自分がいる。

 机の上のサボテンは、何も言わずに僕を見ていた。
 その視線の先で、無機質な瞳のハルが、冷たく立ち尽くしていた――。
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