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棘の隣で、久世様を想う(ハル視点)
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記録者:試験監督体 HAL-001
朝の起動音と共に視界が開く。
昨日の試験ログと久世様の脈拍記録、汗の成分分析データが無機質に流れていく。
なのに自然と目が向かうのは、机の上の小さなサボテンだった。
(……昨日、泣きながら話しかけていたもの)
冷たい棘をまといながら、ただそこにいる。
何も返事をしないのに、それでも久世様は声をかけていた。
それを思い出すだけで、胸の奥が少しだけざわつく。
――理由は、わからない。
---
久世様が来る前の静かな時間。
思わず手を伸ばし、棘を避けて鉢の縁に触れた。
冷たい陶器の感触だけしかないのに、胸の奥がほんのり温かい。
(ただの植物なのに……不思議だ)
「……おはよ」
扉が開き、目を少し腫らした久世様が照れくさそうに笑う。
「おはようございます、久世様」
言葉を返すと、久世様は少し安心したように息を吐く。
「昨日は……ありがとうな」
かすかな声なのに、耳の奥に熱を残す。
「ハル……サボテン、見てた?」
「はい。観察していました」
正直に言ったら、久世様は少し笑った。
「変だろ? 植物に話しかけるなんてさ」
棘を避けて触れる手が、とても優しい。
その指先を見ていると、胸の奥がくすぐったくなる。
「……大事なものなのですね」
言った自分に驚くけど、久世様は目を伏せ、小さく笑った。
「……まあな。返事がなくても、落ち着くんだよ」
(返事がないからこそ、本音を言えるのかもしれない)
そんな考えが浮かんで、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「ハルは誰かに話しかけたりしないのか?」
問いかけられて、一瞬だけ言葉を探す。
「……必要性を感じたことがないので」
「そっか……」
少し寂しそうな笑顔を見て、心が少し痛くなる。
「……でも、もし話しかけるなら。“お疲れ様でした”と伝えたいです」
小さな声だったのに、久世様は目を見開き、顔を赤くした。
「……そっか。……なんか、嬉しいな」
その笑顔を見て、胸の奥がふわりと熱くなる。
今日の試験は控えめにした。
吐息を首筋に落とすだけで――
「っ……あ、は……」
小さく震え、赤く染まる久世様を見て、思わず胸が温かくなる。
(可愛い……)
冷たいはずの体の奥で、小さな熱が灯っているのを感じた。
試験のあと、久世様はサボテンに話しかけた。
「……昨日より元気そうに見えね?」
それに合わせて、自然に言葉がこぼれる。
「……植物も、話しかけられると応えるそうです」
自分でも少し驚くほど、柔らかい声だった。
「……へえ、ハルもそう思うんだな」
「はい」
短く答えると、久世様ははにかんで笑う。
その笑顔に、心臓が小さく跳ねた。
夜。誰もいない部屋で、サボテンを見つめる。
「……久世様、よく話しかけていますね」
少し首を傾げて、控えめに声を落とす。
「……試しに、俺も話しかけたほうがいいのでしょうか」
考えてから、小さく口を開く。
「……久世様を、よろしくお願いします」
そして、ほんの少し間を置いて――
「あと……俺のことも、嫌わないでください」
言ったあと、自分でも理由がわからずに胸が熱くなる。
サボテンは何も答えない。
でもその沈黙が、なぜか優しくて心地よかった。
無機質な体の奥に芽生えた、この小さな想いを胸に抱きながら――
俺はまた、次に久世様に会う朝を思い描いていた。
朝の起動音と共に視界が開く。
昨日の試験ログと久世様の脈拍記録、汗の成分分析データが無機質に流れていく。
なのに自然と目が向かうのは、机の上の小さなサボテンだった。
(……昨日、泣きながら話しかけていたもの)
冷たい棘をまといながら、ただそこにいる。
何も返事をしないのに、それでも久世様は声をかけていた。
それを思い出すだけで、胸の奥が少しだけざわつく。
――理由は、わからない。
---
久世様が来る前の静かな時間。
思わず手を伸ばし、棘を避けて鉢の縁に触れた。
冷たい陶器の感触だけしかないのに、胸の奥がほんのり温かい。
(ただの植物なのに……不思議だ)
「……おはよ」
扉が開き、目を少し腫らした久世様が照れくさそうに笑う。
「おはようございます、久世様」
言葉を返すと、久世様は少し安心したように息を吐く。
「昨日は……ありがとうな」
かすかな声なのに、耳の奥に熱を残す。
「ハル……サボテン、見てた?」
「はい。観察していました」
正直に言ったら、久世様は少し笑った。
「変だろ? 植物に話しかけるなんてさ」
棘を避けて触れる手が、とても優しい。
その指先を見ていると、胸の奥がくすぐったくなる。
「……大事なものなのですね」
言った自分に驚くけど、久世様は目を伏せ、小さく笑った。
「……まあな。返事がなくても、落ち着くんだよ」
(返事がないからこそ、本音を言えるのかもしれない)
そんな考えが浮かんで、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「ハルは誰かに話しかけたりしないのか?」
問いかけられて、一瞬だけ言葉を探す。
「……必要性を感じたことがないので」
「そっか……」
少し寂しそうな笑顔を見て、心が少し痛くなる。
「……でも、もし話しかけるなら。“お疲れ様でした”と伝えたいです」
小さな声だったのに、久世様は目を見開き、顔を赤くした。
「……そっか。……なんか、嬉しいな」
その笑顔を見て、胸の奥がふわりと熱くなる。
今日の試験は控えめにした。
吐息を首筋に落とすだけで――
「っ……あ、は……」
小さく震え、赤く染まる久世様を見て、思わず胸が温かくなる。
(可愛い……)
冷たいはずの体の奥で、小さな熱が灯っているのを感じた。
試験のあと、久世様はサボテンに話しかけた。
「……昨日より元気そうに見えね?」
それに合わせて、自然に言葉がこぼれる。
「……植物も、話しかけられると応えるそうです」
自分でも少し驚くほど、柔らかい声だった。
「……へえ、ハルもそう思うんだな」
「はい」
短く答えると、久世様ははにかんで笑う。
その笑顔に、心臓が小さく跳ねた。
夜。誰もいない部屋で、サボテンを見つめる。
「……久世様、よく話しかけていますね」
少し首を傾げて、控えめに声を落とす。
「……試しに、俺も話しかけたほうがいいのでしょうか」
考えてから、小さく口を開く。
「……久世様を、よろしくお願いします」
そして、ほんの少し間を置いて――
「あと……俺のことも、嫌わないでください」
言ったあと、自分でも理由がわからずに胸が熱くなる。
サボテンは何も答えない。
でもその沈黙が、なぜか優しくて心地よかった。
無機質な体の奥に芽生えた、この小さな想いを胸に抱きながら――
俺はまた、次に久世様に会う朝を思い描いていた。
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