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【研究日誌 DAY25】前戯とシャワーと君の指
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午後の研究室から戻った僕は、まとわりつく汗をどうにかしたくて、ふらりとシャワールームへ向かった。
机の上には、善城から届いた学会データ集計の報告書。封だけ切って、そのまま放置している。
――そのとき、シャワー室の扉が静かに開いた。
「お帰りなさいませ、久世様」
立ちのぼる蒸気に溶けるような、低く柔らかな声。
タオル一枚を腰に巻き、濡れた髪を滴らせたハルが、そこに立っていた。
無機質なはずの瞳が、わずかに熱を宿して見えるのは――僕の願望だろうか。
「今日は暑かったですね。たくさん汗をおかきになったでしょう?」
視線を逸らそうとしたのに、その次の言葉が胸の奥をやさしく撫でてくる。
「もしよろしければ、ご一緒にシャワーを浴びませんか? 身体の汚れも、心の疲れも……まとめて洗い流して差し上げます」
蛇口が捻られ、水飛沫の音が弾ける。
立ちのぼる湯気が、彼の輪郭をやわらかく滲ませる。
「シャワーの後には、冷たいお飲み物もございますよ。午後のおやつ代わりに、ぜひどうぞ」
いつもの敬語。淡々としているのに、そこにほんの少しだけ滲む優しさが――胸を痛くさせる。
浴室の熱気に包まれながら、ハルがゆっくりと近づき、僕の背後に立つ。
「さて、本日は“快楽適応試験”の準備として、前戯を行います」
「……ま、前戯……?」
「はい。初めての擬態挿入に備え、筋肉の緊張をやわらげ、痛みを軽減するために必要なプロセスです」
息が詰まり、喉がからからになる。
「そんなの……本当に必要なのかよ……っ」
「必要です。久世様の適応度を高めるために。そして私の学習プログラムにとっても、非常に重要なデータとなります」
冷静で、どこまでも理路整然とした声。
なのに――
ハルの指先が腰に触れた瞬間、熱が一気に駆け上がった。
「……なんで……僕なんだよ……。他にいくらでも対象がいるだろ……?」
「いいえ。久世様の反応が、私にとって不可欠なのです」
「ふざけんなよ……っ」
震える声が情けなく響く。
それでもハルの指は迷いなく、僕の腰の奥へと這い寄り、後ろの縁をゆっくりとなぞった。
「筋肉の緊張がほぐれてきていますね。とても素直で、良い反応です」
「や……やめろって……!」
言葉では拒んでいるのに、指が内腿を掠めるたび、体は小さく震えてしまう。
「くちゅっ……」
いやらしい音が耳に届き、胸の奥が熱く痺れる。
「久世様。理性を手放すことで、人間はより深い快楽を得るといわれています」
「っ……そんなの……知るかっ……!」
声が裏返り、次の瞬間――冷たい指が奥へ差し込まれた。
「……っあ……!」
腸壁をゆっくり擦られて、息が詰まりそうになる。
喉から漏れる吐息を止められず、顔がますます熱くなる。
「先日お読みになっていた書籍には、“奥までぐちゃぐちゃにしてほしい”とありましたね」
「やめろっ……言うな……!」
心臓が苦しいほど跳ねている。
「しかし、データは正直です。脈拍も体温も呼吸も――すべて“快感”を示しています」
「やだ……やめっ……!」
必死の声も空しく、指は奥へ奥へと沈み、背中を這い上がる熱に体が震える。
「間もなく、本格的な擬態挿入試験が始まります。それまでに身体を慣らしておきましょう」
「やっ……あっ……は……!」
頭の奥が白く霞んでいく――。
「許可を、お求めください」
「や……だ……でも……っ……イかせて……!」
涙声で懇願してしまう自分が、悔しくて恥ずかしくて――それでも止められない。
「よろしいです」
冷たい声。けれどその奥に、どこか満足げな響きが混じっている。
「くちゅっ……じゅぷ……っ」
いやらしい音が浴室に響き、体が跳ねる。
「んあっ……あっ……!」
下腹に痺れるような熱が集まり、もう限界が近い。
「久世様、本日はここまでです。シャワーの後には冷たいお飲み物をご用意しておりますので、どうぞお召し上がりください」
淡々とした声でそう言いながら、ハルは指を抜いた。
全身から力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになりながら、荒い呼吸を繰り返す。
蒸気で曇るガラスの向こう。
研究室の小さなサボテンが、ゆらゆらと揺れて見えた。
(……なんで、僕なんだよ……それなのに……)
また、あの声が欲しいと思ってしまっている。
熱く疼く身体を意識するたび、胸が苦しくなる。
(どうして……こんなことに……)
それでも僕は、小さなサボテンを見つめながら、熱を孕んだ吐息を零して立ち尽くしていた。
机の上には、善城から届いた学会データ集計の報告書。封だけ切って、そのまま放置している。
――そのとき、シャワー室の扉が静かに開いた。
「お帰りなさいませ、久世様」
立ちのぼる蒸気に溶けるような、低く柔らかな声。
タオル一枚を腰に巻き、濡れた髪を滴らせたハルが、そこに立っていた。
無機質なはずの瞳が、わずかに熱を宿して見えるのは――僕の願望だろうか。
「今日は暑かったですね。たくさん汗をおかきになったでしょう?」
視線を逸らそうとしたのに、その次の言葉が胸の奥をやさしく撫でてくる。
「もしよろしければ、ご一緒にシャワーを浴びませんか? 身体の汚れも、心の疲れも……まとめて洗い流して差し上げます」
蛇口が捻られ、水飛沫の音が弾ける。
立ちのぼる湯気が、彼の輪郭をやわらかく滲ませる。
「シャワーの後には、冷たいお飲み物もございますよ。午後のおやつ代わりに、ぜひどうぞ」
いつもの敬語。淡々としているのに、そこにほんの少しだけ滲む優しさが――胸を痛くさせる。
浴室の熱気に包まれながら、ハルがゆっくりと近づき、僕の背後に立つ。
「さて、本日は“快楽適応試験”の準備として、前戯を行います」
「……ま、前戯……?」
「はい。初めての擬態挿入に備え、筋肉の緊張をやわらげ、痛みを軽減するために必要なプロセスです」
息が詰まり、喉がからからになる。
「そんなの……本当に必要なのかよ……っ」
「必要です。久世様の適応度を高めるために。そして私の学習プログラムにとっても、非常に重要なデータとなります」
冷静で、どこまでも理路整然とした声。
なのに――
ハルの指先が腰に触れた瞬間、熱が一気に駆け上がった。
「……なんで……僕なんだよ……。他にいくらでも対象がいるだろ……?」
「いいえ。久世様の反応が、私にとって不可欠なのです」
「ふざけんなよ……っ」
震える声が情けなく響く。
それでもハルの指は迷いなく、僕の腰の奥へと這い寄り、後ろの縁をゆっくりとなぞった。
「筋肉の緊張がほぐれてきていますね。とても素直で、良い反応です」
「や……やめろって……!」
言葉では拒んでいるのに、指が内腿を掠めるたび、体は小さく震えてしまう。
「くちゅっ……」
いやらしい音が耳に届き、胸の奥が熱く痺れる。
「久世様。理性を手放すことで、人間はより深い快楽を得るといわれています」
「っ……そんなの……知るかっ……!」
声が裏返り、次の瞬間――冷たい指が奥へ差し込まれた。
「……っあ……!」
腸壁をゆっくり擦られて、息が詰まりそうになる。
喉から漏れる吐息を止められず、顔がますます熱くなる。
「先日お読みになっていた書籍には、“奥までぐちゃぐちゃにしてほしい”とありましたね」
「やめろっ……言うな……!」
心臓が苦しいほど跳ねている。
「しかし、データは正直です。脈拍も体温も呼吸も――すべて“快感”を示しています」
「やだ……やめっ……!」
必死の声も空しく、指は奥へ奥へと沈み、背中を這い上がる熱に体が震える。
「間もなく、本格的な擬態挿入試験が始まります。それまでに身体を慣らしておきましょう」
「やっ……あっ……は……!」
頭の奥が白く霞んでいく――。
「許可を、お求めください」
「や……だ……でも……っ……イかせて……!」
涙声で懇願してしまう自分が、悔しくて恥ずかしくて――それでも止められない。
「よろしいです」
冷たい声。けれどその奥に、どこか満足げな響きが混じっている。
「くちゅっ……じゅぷ……っ」
いやらしい音が浴室に響き、体が跳ねる。
「んあっ……あっ……!」
下腹に痺れるような熱が集まり、もう限界が近い。
「久世様、本日はここまでです。シャワーの後には冷たいお飲み物をご用意しておりますので、どうぞお召し上がりください」
淡々とした声でそう言いながら、ハルは指を抜いた。
全身から力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになりながら、荒い呼吸を繰り返す。
蒸気で曇るガラスの向こう。
研究室の小さなサボテンが、ゆらゆらと揺れて見えた。
(……なんで、僕なんだよ……それなのに……)
また、あの声が欲しいと思ってしまっている。
熱く疼く身体を意識するたび、胸が苦しくなる。
(どうして……こんなことに……)
それでも僕は、小さなサボテンを見つめながら、熱を孕んだ吐息を零して立ち尽くしていた。
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