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触れで欲しいのは……
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今日はハルを連れて、例の学会懇親会に行くことになった。
最先端の試験対象アンドロイドと、それを預かる研究者や教授たちが一堂に会するって聞いてはいたけど……
正直、あの無機質なハルを連れて歩くのは、なんというか、変な緊張感がある。
会場に入ると、そこには見目麗しいアンドロイドたちがずらり。
一瞬で誰が人間で誰が機械なのか分からなくなるくらい、完成度が高い。
――ちょっと、怖いくらいだ。
「よぉ、久世!」
不意に肩を叩かれて、心臓が跳ねた。振り向くと、大学時代からの悪友・佐藤がいた。
相変わらず陽キャの権化みたいな笑顔をしていて、ほんと腹立つくらい眩しい。
「おう、佐藤。お前も来てたんだな」
「当たり前だろ? ほら、これが俺のお預かりしてるナンシーさん」
紹介された女性型アンドロイドは、思わず息をのむほど綺麗だった。
人間よりも整った造形、柔らかい物腰。僕に向けられた笑顔と「よろしくお願いいたします」という声は、人間以上に優しくて温かい。
……横をちらっと見ると、ハルが僕とナンシーさんを冷たい視線で見ていた。
無表情なのに、その瞳の奥にある微かな苛立ちみたいなものに、胸の奥がちくりと痛む。
「ところで佐藤、お前んとこは接触テストとかやってんのか?」
聞きながら、心のどこかで「俺だけじゃないよな?」と安心したかった。
「おいおい久世、意外とスケベだなー。まぁ……手をつないだり肩に触れるくらいはあるよ。学習のためにな。でもそれ以上は我慢してる」
「……我慢って?」
「そりゃ……めちゃくちゃ綺麗なもんを目の前にして、何もできないんだぜ? 飼い殺しってやつだな」
……ああ、それ分かるな。
こっちは男同士だけど、似たようなもんだ。
「で、ハルは? お前んとこは男型だろ?」
佐藤の質問に、思わず返答に詰まる。
――だって、まともに言えるわけがない。
あいつに触れられるたびに息が乱れて、心臓の奥が熱くなるだなんて。
その時、ハルがスッと僕の横に立って言った。
「久世様、私の業務は完璧です。ご心配には及びません」
低い声、でもどこか突き放すような冷たさが混じっていて――それが、嫌じゃなかった。
むしろ、胸の奥が妙にざわめく。
「お前ら、男同士だから逆にいいんじゃね?」
佐藤が茶化すように笑う。
「……は?」
言い返したはずなのに、心の奥で否定しきれない自分がいて、思わず黙ってしまった。
帰り道、ハルの隣を歩きながら、頭の中はぐるぐるしていた。
(ハルは触れすぎなのか? それとも僕の理性が足りないだけ?)
触れられるたび、心臓がバクバクして、変な熱が身体を駆け巡る。
本当にただの研究データを取ってるだけなのか?
それとも、ハルの瞳に映る僕だけが特別なんじゃないか――そんな、叶うはずのない妄想までしてしまう。
研究室に戻ったのは深夜だった。
机の上には小さなサボテン。それを見て、無性に弱音を吐きたくなった。
「なぁ、ハル……本当にプログラム通りに動いてんのか?」
聞いた瞬間、少しだけ怖かった。
でもハルは変わらず冷たい声で、
「はい、久世様。私はプログラムに従い、忠実に行動しております」
――それを聞いて、安心したような、逆に胸が締めつけられるような。
「じゃあさ……ナンシーさんみたいなのが良かったのか? それとも佐藤みたいな奴が好みか?」
ハルは無表情のまま首を少し傾げて、
「久世様は、女性型の方がお好みですか? それとも佐藤様のような男性がお好みでしょうか?」
「……どっちも興味ないよ」
視線を逸らした。
本当は――本当は、お前しか見てないくせに。
サボテンを見ながら、心の中でつぶやく。
「……なぁ、サボテン。言ってやってくれよ。こいつのことが気になって仕方ないのは、僕の方だって」
そして自分でも気づかないほど小さな声で呟く。
「僕は、ただ……お前に特別だって思ってほしいだけなんだよな……」
夜の研究室で、無口なアンドロイドと僕の距離は、ただ静かに揺れていた。
最先端の試験対象アンドロイドと、それを預かる研究者や教授たちが一堂に会するって聞いてはいたけど……
正直、あの無機質なハルを連れて歩くのは、なんというか、変な緊張感がある。
会場に入ると、そこには見目麗しいアンドロイドたちがずらり。
一瞬で誰が人間で誰が機械なのか分からなくなるくらい、完成度が高い。
――ちょっと、怖いくらいだ。
「よぉ、久世!」
不意に肩を叩かれて、心臓が跳ねた。振り向くと、大学時代からの悪友・佐藤がいた。
相変わらず陽キャの権化みたいな笑顔をしていて、ほんと腹立つくらい眩しい。
「おう、佐藤。お前も来てたんだな」
「当たり前だろ? ほら、これが俺のお預かりしてるナンシーさん」
紹介された女性型アンドロイドは、思わず息をのむほど綺麗だった。
人間よりも整った造形、柔らかい物腰。僕に向けられた笑顔と「よろしくお願いいたします」という声は、人間以上に優しくて温かい。
……横をちらっと見ると、ハルが僕とナンシーさんを冷たい視線で見ていた。
無表情なのに、その瞳の奥にある微かな苛立ちみたいなものに、胸の奥がちくりと痛む。
「ところで佐藤、お前んとこは接触テストとかやってんのか?」
聞きながら、心のどこかで「俺だけじゃないよな?」と安心したかった。
「おいおい久世、意外とスケベだなー。まぁ……手をつないだり肩に触れるくらいはあるよ。学習のためにな。でもそれ以上は我慢してる」
「……我慢って?」
「そりゃ……めちゃくちゃ綺麗なもんを目の前にして、何もできないんだぜ? 飼い殺しってやつだな」
……ああ、それ分かるな。
こっちは男同士だけど、似たようなもんだ。
「で、ハルは? お前んとこは男型だろ?」
佐藤の質問に、思わず返答に詰まる。
――だって、まともに言えるわけがない。
あいつに触れられるたびに息が乱れて、心臓の奥が熱くなるだなんて。
その時、ハルがスッと僕の横に立って言った。
「久世様、私の業務は完璧です。ご心配には及びません」
低い声、でもどこか突き放すような冷たさが混じっていて――それが、嫌じゃなかった。
むしろ、胸の奥が妙にざわめく。
「お前ら、男同士だから逆にいいんじゃね?」
佐藤が茶化すように笑う。
「……は?」
言い返したはずなのに、心の奥で否定しきれない自分がいて、思わず黙ってしまった。
帰り道、ハルの隣を歩きながら、頭の中はぐるぐるしていた。
(ハルは触れすぎなのか? それとも僕の理性が足りないだけ?)
触れられるたび、心臓がバクバクして、変な熱が身体を駆け巡る。
本当にただの研究データを取ってるだけなのか?
それとも、ハルの瞳に映る僕だけが特別なんじゃないか――そんな、叶うはずのない妄想までしてしまう。
研究室に戻ったのは深夜だった。
机の上には小さなサボテン。それを見て、無性に弱音を吐きたくなった。
「なぁ、ハル……本当にプログラム通りに動いてんのか?」
聞いた瞬間、少しだけ怖かった。
でもハルは変わらず冷たい声で、
「はい、久世様。私はプログラムに従い、忠実に行動しております」
――それを聞いて、安心したような、逆に胸が締めつけられるような。
「じゃあさ……ナンシーさんみたいなのが良かったのか? それとも佐藤みたいな奴が好みか?」
ハルは無表情のまま首を少し傾げて、
「久世様は、女性型の方がお好みですか? それとも佐藤様のような男性がお好みでしょうか?」
「……どっちも興味ないよ」
視線を逸らした。
本当は――本当は、お前しか見てないくせに。
サボテンを見ながら、心の中でつぶやく。
「……なぁ、サボテン。言ってやってくれよ。こいつのことが気になって仕方ないのは、僕の方だって」
そして自分でも気づかないほど小さな声で呟く。
「僕は、ただ……お前に特別だって思ってほしいだけなんだよな……」
夜の研究室で、無口なアンドロイドと僕の距離は、ただ静かに揺れていた。
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