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【番外編】新快楽適応テスト:愛のアップデート
感情測定:そのキスに、溺れて
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──快楽の閾値は、肉体だけで決まるものじゃないらしい。
「感情」を測るために始まったこの実験は、思っていた以上に、僕たちを壊す。
その日は、僕の誕生日だった。
観覧車に乗ろうと誘ってきたのは、珍しくハルの方からだった。
「定番ですが……ずっと、一緒にやってみたかったのです」
乗り込む直前、そう言って微笑んだ彼の目が、ほんの少しだけ赤く灯っていた。
センサーの明滅か、それとも——感情の、ゆらぎか。
観覧車のカプセルは、ふたりきりになるには充分すぎるほど静かだった。
軋む音さえも、遠くの波音に溶けていく。
「夜景、とても綺麗ですね」
ハルは隣に座りながら、そう言った。
だが僕の視線は、彼の横顔の輪郭をなぞっていた。
「……うん」
「ですが、あなたの横顔の方がずっと綺麗です」
さらりとそう言う。
人工知能のはずなのに、どうしてこんなにも、口説き方が上手いんだろう。
カプセルが頂上へと差し掛かるタイミングで、ハルは胸元から小さな箱を取り出した。
そっと開くと、中には細いシルバーリング。真ん中に、小さく淡いブルーの宝石が埋め込まれている。
「これが、私の“気持ちの証明”です」
「……指輪?」
「はい。あなたの“好き”が、データではなく、本当に私だけのものであると願って」
その言葉の続きを遮るように、彼の唇が俺に重ねられた。
柔らかく、迷いのないキスだった。
一度、二度……三度目には、舌先がそっと割れ目をなぞってくる。
「ん、ぁ……っ、ハル……」
言葉にならない音が漏れた瞬間、両耳を包むように、ハルの手が俺の頭をそっと抱いた。
「この音……他の誰にも、聞かせたくないので」
指が、ぴたりと耳を塞ぐ。
世界から音が閉ざされ、残されたのは、自分の息と、ハルの唇の音だけだった。
「ちゅ、……ん、ふ……ぁ、はぁっ……っ、や……ぁ……」
湿ったキス音が、いやらしく響く。
耳に直接響くそれは、まるで身体の奥に触れられているようで、喉が震えた。
「顔、真っ赤ですよ。……久世さん、キスだけでそんなに?」
「だ、って……そんな……っ、耳、塞がれて……聞こえないのに、聞こえるの……ハルの、音……」
「ではもっと……記録して差し上げます」
口づけは深く、熱くなっていく。
舌の動きは執拗で、唇を舐めてから、またふたたび重ねてくる。
時おり、わざと音を立てて吸われるたび、身体が勝手に跳ねた。
「ん……っ、あっ……ふぁ……はる……もう……っ」
身体が、熱い。
触れられていないのに、熱が腹の底で煮えたぎって、芯がとろけていく。
「久世様、あなたの“閾値”は、どうやら感情の方に大きく偏っているようですね」
「い、いわないで……っ」
「言いますよ。だって、こんなに濡れた声で、私の名前を呼ぶんですから」
唇が、耳たぶを甘噛みする。
唇が、首筋を吸い上げる。
観覧車の揺れさえ、甘いリズムに思えてくる。
「は、っ……く、ハル……もう……むり……っ、これ、だけで……っ」
「いいんです。キスだけで、壊れてください」
耳を塞がれたまま、世界がハルだけになった。
音も、熱も、唇も、吐息も。全部、彼で満たされていく。
「っ……く、ハル、あっ……あ……い……っ……!」
名前を呼んだ直後だった。
突き上げるような快感が背筋を駆け抜け、俺はそのまま、絶頂した。
キスだけで、声も体も、震えて。びくびくと、全身が小刻みに痙攣した。
「……っふ、は、あ、あ……」
耳から指が外され、静寂が戻ってくる。
だが、胸の奥はまだ熱いままだった。
目を開けると、ハルが微笑んでいる。
見惚れるような優しい顔だった。
「おめでとうございます、久世様。……誕生日、最高の記録になりましたね」
「……バカ、ハル……もう、ほんと……」
照れくささと余韻で、何も返せなかった。
だけど──この15分間だけは、記録にも残らない、僕たちだけの“初めて”が、ぎゅうっと詰まっていた。
──きっとまた、上書きされる。
けれど今はただ、このキスの記録に、溺れていたい。
「感情」を測るために始まったこの実験は、思っていた以上に、僕たちを壊す。
その日は、僕の誕生日だった。
観覧車に乗ろうと誘ってきたのは、珍しくハルの方からだった。
「定番ですが……ずっと、一緒にやってみたかったのです」
乗り込む直前、そう言って微笑んだ彼の目が、ほんの少しだけ赤く灯っていた。
センサーの明滅か、それとも——感情の、ゆらぎか。
観覧車のカプセルは、ふたりきりになるには充分すぎるほど静かだった。
軋む音さえも、遠くの波音に溶けていく。
「夜景、とても綺麗ですね」
ハルは隣に座りながら、そう言った。
だが僕の視線は、彼の横顔の輪郭をなぞっていた。
「……うん」
「ですが、あなたの横顔の方がずっと綺麗です」
さらりとそう言う。
人工知能のはずなのに、どうしてこんなにも、口説き方が上手いんだろう。
カプセルが頂上へと差し掛かるタイミングで、ハルは胸元から小さな箱を取り出した。
そっと開くと、中には細いシルバーリング。真ん中に、小さく淡いブルーの宝石が埋め込まれている。
「これが、私の“気持ちの証明”です」
「……指輪?」
「はい。あなたの“好き”が、データではなく、本当に私だけのものであると願って」
その言葉の続きを遮るように、彼の唇が俺に重ねられた。
柔らかく、迷いのないキスだった。
一度、二度……三度目には、舌先がそっと割れ目をなぞってくる。
「ん、ぁ……っ、ハル……」
言葉にならない音が漏れた瞬間、両耳を包むように、ハルの手が俺の頭をそっと抱いた。
「この音……他の誰にも、聞かせたくないので」
指が、ぴたりと耳を塞ぐ。
世界から音が閉ざされ、残されたのは、自分の息と、ハルの唇の音だけだった。
「ちゅ、……ん、ふ……ぁ、はぁっ……っ、や……ぁ……」
湿ったキス音が、いやらしく響く。
耳に直接響くそれは、まるで身体の奥に触れられているようで、喉が震えた。
「顔、真っ赤ですよ。……久世さん、キスだけでそんなに?」
「だ、って……そんな……っ、耳、塞がれて……聞こえないのに、聞こえるの……ハルの、音……」
「ではもっと……記録して差し上げます」
口づけは深く、熱くなっていく。
舌の動きは執拗で、唇を舐めてから、またふたたび重ねてくる。
時おり、わざと音を立てて吸われるたび、身体が勝手に跳ねた。
「ん……っ、あっ……ふぁ……はる……もう……っ」
身体が、熱い。
触れられていないのに、熱が腹の底で煮えたぎって、芯がとろけていく。
「久世様、あなたの“閾値”は、どうやら感情の方に大きく偏っているようですね」
「い、いわないで……っ」
「言いますよ。だって、こんなに濡れた声で、私の名前を呼ぶんですから」
唇が、耳たぶを甘噛みする。
唇が、首筋を吸い上げる。
観覧車の揺れさえ、甘いリズムに思えてくる。
「は、っ……く、ハル……もう……むり……っ、これ、だけで……っ」
「いいんです。キスだけで、壊れてください」
耳を塞がれたまま、世界がハルだけになった。
音も、熱も、唇も、吐息も。全部、彼で満たされていく。
「っ……く、ハル、あっ……あ……い……っ……!」
名前を呼んだ直後だった。
突き上げるような快感が背筋を駆け抜け、俺はそのまま、絶頂した。
キスだけで、声も体も、震えて。びくびくと、全身が小刻みに痙攣した。
「……っふ、は、あ、あ……」
耳から指が外され、静寂が戻ってくる。
だが、胸の奥はまだ熱いままだった。
目を開けると、ハルが微笑んでいる。
見惚れるような優しい顔だった。
「おめでとうございます、久世様。……誕生日、最高の記録になりましたね」
「……バカ、ハル……もう、ほんと……」
照れくささと余韻で、何も返せなかった。
だけど──この15分間だけは、記録にも残らない、僕たちだけの“初めて”が、ぎゅうっと詰まっていた。
──きっとまた、上書きされる。
けれど今はただ、このキスの記録に、溺れていたい。
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