『蒼い翼の約束』〜天使の恋は罪に堕ちる〜』

るみ乃。

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第4章『交わされた禁忌』

20「忘却という罰」(ミカエル視点)

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 忘却という罰
 神の光が天界全土を包み込む。

 それは祝福などではなく、裁きの光だった。

 その中心に立つのは、翼を焼き尽くされ地へ堕ちていく天使――ルシファス。

 そしてただ、その姿を見送ることしかできない僕、ミカエル。

「……神よ、なぜ……」

 呟く声は、誰の耳にも届かない。

 裁きの場を後にした僕は、静寂の回廊を彷徨う。

 神の庭へと続くその場所は、重く冷たい空気に満ちていた。

 歩みは鈍く、思考は霞がかっている。

 胸の奥で何かが軋み、失われた感覚が疼いていた。

 そのとき、金色の衣を纏う神の使者が現れた。

 無機質な瞳が、神の意思を映し出す。

「ミカエル。汝に“忘却”の祝福が与えられる。」

 その言葉に、僕の心は揺れる。

「……祝福?」

「汝の心に宿る“逸脱”の記憶は、汝の使命を妨げるもの。神は汝を憐れみ、清き役目へ戻す道を授けたもう。」

 問い返そうとした瞬間、眩い光が僕を包み込む。

 目も開けられぬほどの強烈な輝きに身体が浮き上がり、

 脳裏に響く声が繰り返された。

「忘れなさい……それはなかったこと……空へ還りなさい……」

 名前が、こぼれ落ちる。

 笑顔が、遠ざかる。

 誰かに触れた温もりの記憶が、闇の底へ沈んでいく。

 

 光が静まったとき、

「……ここは……?」

 ゆっくりと目を開けると、

 涙の痕がまだかすかに残る顔に、

 その理由はもう知らない。

 何かを探すように、視線は虚空を彷徨う。

「僕は……何を……?」

 見上げた冷たい天界の空は、

 答えをくれず、ただ静かに見下ろしていた。

 足音が近づき、振り返るとそこにはガブリエルがいた。

 笑みを浮かべているが、その奥に張り詰めた緊張が隠せない。

「ミカエル……君、少し疲れているな。」

「……うん。胸の中が、変なんだ。」

 手を胸にあてると、そこにはぽっかりと空いた穴がある。

 何かが抜け落ちたようで、でも何だったのか思い出せない。

「忘れてはいけないものを、忘れた気がするんだ。」

 ガブリエルは優しく微笑みながらも、目を伏せる。

「大丈夫。君は今のままでいい。」

 その言葉は甘く、でもどこか毒のように胸を刺した。

 僕は静かに頷く。

 空を見上げる瞳に、消えない痛みが揺れていた。

 

その頃――

 地上の廃墟の片隅。

 ルシファスは冷たい石の上に腰を下ろしていた。

 鈍色の空は、彼に届かぬ冷たい光を放つ。

 しかし彼は目を閉じ、静かに祈った。

「……ミカエル。俺の記憶からは君は消えない……」

 彼の胸に残るのは、罪とされた愛の記憶。

 その痛みだけが、彼を生かし続ける証だった。

 ルシファスは空を見上げる。

「たとえ神が奪い去っても、俺の心は――どこまでも君を愛し続ける。」

 そして瞳を閉じ、遠い記憶の中の誰かに手を伸ばすように、空へ微笑みかけた。
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