『恋のアラカルト:BL・超短編集』~どの恋が好き?~

るみ乃。

文字の大きさ
30 / 54
『Café月夜 ― 月の鏡が映す、あなたへの想い ―』

エピロ-グ「cafe月夜の記録簿」

しおりを挟む
 月が欠けはじめる頃、店の灯を落とす。
 「cafe月の鏡」は、満月の夜にだけ現れ、夜明けとともに静かに消える。
 この場所は、言葉にならなかった想いを影として映す場所。
 人が月に心を映すように、影もまた人の心を覗き込む。

 ――あの二人が来た夜も、そうだった。

 ひとり目の青年は、迷うような瞳をしていた。
 彼の影は深く、けれど優しかった。
 「伝えたかった言葉」が長い間、胸の底で凍っていたのだろう。
 その影は、彼に代わって愛を語り、涙を流した。

 そして二人目の青年。
 彼は光の側に立つ人間だった。
 だからこそ、影に気づけなかった。
 けれど今夜――欠けかけた月の下で、
 彼はもう一度、同じ声を聞いただろう。
 影を通して知った“真実”が、現実の彼らを繋ぎ直した。

 カウンターを拭きながら、月を見上げる。
 空にはまだ、薄く輪郭を残した月が浮かんでいた。
 まるで誰かの記憶が夜空に残っているようだ。

 カウンターの上には、青いカクテルの残り香がわずかに漂っていた。
 “影の月光”――それは、二人が座っていたテーブルにだけ残されていたもの。
 光を受けるたび、グラスの底で青が揺らめく。
 まるで、まだ語り終えていない想いのように。

 「よかったですね。」

 小さく呟いた声に、店の奥でグラスがひとりでに鳴った。
 それは、彼らの影が返した合図のように思えた。

 グラスを手に取り、残りの液体をそっと月明かりに透かした。
 夜風が入り、扉が少しだけ開く。
 外には、もう誰の足跡もない。

 ただ、風の中で二つの気配がすれ違うのを感じた。
 影と光。もうどちらも欠けてはいない。
 ひとつの月のように、静かに重なり合っている。

 カウンターの隅のノートに、新しい行を綴る。

 ――「遼と及川、満月の夜、影を還す。」

  満月に
  影をそっと還す夜
  言えなかった想いは
  静かに光となる

  二つの心が重なり
  影と光がひとつに溶ける
  月は微笑み、夜は明ける
  世界はまた、静かに息をする
  ――Cafe 月の鏡――


 ページを閉じると、店の灯が一つずつ消えていった。
 音もなく、影もなく。
 ただ、窓の外で月だけが静かに笑っていた……

 「また次の満月に。」

 誰にともなく告げ、扉を閉めた。
 夜が完全に欠けたとき、店はもう、どこにも存在しない。
 でも、誰かが心の底で“言えなかった想い”を抱く限り、
 『Cafe 月の鏡』は、再びその夜に現れる……

 《完》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

暮色蒼然

珊瑚
BL
「まだ書いているのか」 「君も書いてみたら良いじゃないですか。案外好きかもしれませんよ」 「じっとしているのは俺の性に合わん」 「でしょうね」 間髪入れずに言い放った春壱に、奏介はカチンとし彼を小突いた。彼はまるで猫の戯れだと言わんばかりにさっと躱し、執筆を続けた。 「君は単調ですねぇ。これで遊んでいてくださいね」  そう言って、春壱は奏介に万華鏡を投げて渡した。奏介は万華鏡を素直に覗いたりもしたが、すぐに飽きて適当な本を開いた。  しばらくの間、お互いのことをして過ごしていたが、ふと春壱が口を開いた。 「君、私のこと好きでしょう?」 「⋯⋯? いや」 「はて、私の勘違いか。随分私に執着しているように感じましてね。いや良いんです。違うのなら」 「何が言いたい」 「私も同じ気持ちだなぁって思っただけですよ」   俺はこの頃をどんなに切望したって、時はやり直させてはくれない。 だから、だからこそ春壱のことを見捨ててはいけなかった。 --------- 数年前に書いたもので、今見ると気恥ずかしさがありますが、 初めてきちんと最後まで書ききった思い出の作品です。 こういう二人が癖なんだな~と思って読んでいただけると嬉しいです。 ※他のところにも掲載予定です。

遅刻の理由

hamapito
BL
「お前、初デートで遅刻とかサイテーだからな」  大学進学を機に地元を離れることにした陽一《よういち》。陽一が地元を離れるその日、幼馴染の樹《いつき》は抱えてきた想いを陽一に告げる。樹の告白をきっかけに二人の関係性はようやく変わるが、そんな二人の元に迫るのはわかれの時間だった——。交わされた再会の約束はそのまま「初デート」の約束になる。  二人の約束の「初デート」を描いた短編です。  ※『夏』『遅刻の理由』というお題で書かせていただいたものです(*´꒳`*)

白花の檻(はっかのおり)

AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。 その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。 この出会いは祝福か、或いは呪いか。 受け――リュシアン。 祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。 柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。 攻め――アーヴィス。 リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。 黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。 王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

ボーダーライン

瑞原唯子
BL
最初に好きになったのは隣の席の美少女だった。しかし、彼女と瓜二つの双子の兄に報復でキスされて以降、彼のことばかりが気になるようになり――。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。 一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。 もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。 ルガルは生まれながらに選ばれし存在。 国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。 最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。 一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。 遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、 最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。 ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。 ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。 ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。 そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、 巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。 その頂点に立つ社長、一条レイ。 冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。

処理中です...