『恋のアラカルト:BL・超短編集』~どの恋が好き?~

るみ乃。

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『恋愛Lv.∞ ―失恋成長システム―』~恋愛EXP💖ただいま上昇中!~

「失恋Lv.1 彼氏、既読スルーで消滅」

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 午前二時。
 スマホの画面を見つめたまま、俺――真白(ましろ)は動けなかった。
 LINEの吹き出しに、たったひとつの表示。
 
 「既読」
 
 ──そして、その下には何もない。

「……え、終わり? これで? “さよなら”のひと文字もなく、ログアウトとかあり得る?」

 返事を待つこと一週間。ついに悟った。
 彼氏・尚也(なおや)は、静かに俺の人生からフェードアウトしたのだ。
 恋人歴三ヶ月。終わり方、ドライすぎる。
 恋愛ってもっと、炎上してから終わるもんじゃないの?
   手を繋ぐたびに見ていた笑顔。あの温度も、もう俺のものじゃない。

    画面の光がにじむのは、たぶん涙のせいだ。
 俺はソファに突っ伏し、心の中で叫んだ。
 
「もう恋なんてしない。……これ、三回目の宣言だけど」

 その瞬間、スマホがピコンと光る。
 見たことのないアイコンが浮かび上がった。
 ピンクのハートに、羽が生えている。アプリ名は――

 > LoveLeveler(恋愛成長管理システム)

「……何この、厨二感あふれるアプリ」

 試しにタップすると、画面にピョコンと現れたのは、金髪の小さな天使……いや、デフォルメキャラのキューピッド。
 口元には妙に人間くさい笑み。

「おめでとうございます、真白さん。失恋経験値が規定値に達しました」
「……え、どこのRPG?」
「あなたは本日をもって、“失恋レベル1”にランクアップです!」
「ちょっと待って、俺、泣いてる最中なんだけど!?」

 ピクルと名乗ったそのキャラは、アニメ声で淡々と続けた。
「恋愛は戦闘。敗北のたびに強くなる。あなたの“恋愛力”を測定中……」
「測らなくていい! そんな見栄えの悪いパラメータ!」

   金髪天使――自称“キューピッドAIピクル”は、軽やかにウインクした。

「恋愛は戦闘、失恋は経験値。
 敗北のたびに、あなたは強くなるのです!」
  
  スマホの画面に、まるでステータス表のような文字が浮かぶ。

 > 共感力:E → D
 > 鈍感力:C → B
 > 失恋耐性:MAX

「えっ、俺もう耐性MAXなの? 悲しみ感じる余裕ないってこと?」
「おめでとうございます、
   失恋レベルアップにより、新スキル《共感波》を取得しました!」
「いや、なんのスキル!?」

 説明によると、《共感波》とは――
 「相手の恋心を、半径五メートル以内で“ うっすら”感じ取れる」
 まるで恋愛版・第六感。
 ……正直、怖い。

「このスキル、どう使えと?」
「次の恋に役立ててください!」

 そう言ってピクルは、画面の中で指を鳴らした。
 スマホから小さな光が舞い上がり、空気が少しだけ澄んだ。
 痛みが、ほんのわずか、溶けていく。
 
「……不思議だ。少しだけ、心が軽い」
 気のせいか、部屋の空気も柔らかくなったような。

「そう。それがレベルアップ効果。恋の痛みを“経験”に変えるのです。
 では、また!」
 ピクルは笑って消えた。
 
 残された俺は、しばらくスマホを見つめたまま、溜息をついた。
「はあ……ま、レベルアップなら悪くないか」

 カップ麺の容器を片付けて、ベランダの外を眺める。
 明け前の空は、薄桃色に滲んでいた。
 

 ――それから数日。
 カフェで仕事の原稿を書いていたとき、
 隣の席の男が、スマホを見てため息をついた。
 短髪で、スーツの袖をまくった年上系。
 その瞬間、胸の奥がピリッとした。
 まさか……これが“共感波”?

 彼の肩越しにチラリと見えたLINEの文面。
 《ごめん、もう連絡しないで》
 ……失恋の気配、ビンビンだ。

「(あ、共感波、めっちゃ反応してる)」

 気づけば、俺は自然と声をかけていた。
「……あの、それ、つらいですよね」
「え?」
 男が驚いた顔を上げる。黒目がちの瞳。やばい、タイプかもしれない。
「なんで、分かるんですか?」
「あ、いや、その……顔が、ちょっと、こう……“世界の終わり”っぽくて」

 変な言い訳になった。死にたい。

 でもその人は、ふっと笑った。
「たしかに、そんな気分です」
 ――その笑顔に、心臓がドクンと鳴った。

 やばい。まさか、もう次の恋が始まってる?
 ピクルの声が、ポンと頭の中に響いた。

「新しいクエストが発生しました。“再恋イベント”を開始します」

「待て! 俺、まだ前の恋のクールタイム中なんだけど!!」

 しかし画面には、容赦なく新しいミッションが表示されていた。

 > 『次の恋愛を始めると、経験値ボーナスが+50%!』

「そんな地獄ガチャ引かないから!?」

 俺は頭を抱えた。
 けれど――胸の奥が、少しだけあたたかかった。
 失恋の夜を越えたその先に、また新しい誰かの笑顔があるのなら。

 ……もう少しだけ、この“恋のレベル上げ”に付き合ってみるか。
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