『恋のアラカルト:BL・超短編集』~どの恋が好き?~

るみ乃。

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『恋愛Lv.∞ ―失恋成長システム―』~恋愛EXP💖ただいま上昇中!~

「失恋Lv.2 年上の同僚に片思い」

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「真白、原稿、上がった?」

 午前十一時。出版社・灯文社の編集部は、いつもどおり地獄の静けさに包まれていた。
 電話のベルが鳴っても誰も取らない。誰もが締切と戦っているからだ。
 俺はPCの前でカフェインに頼りながら、地味に校正チェックをしていた。

「ま、真白くん」
「は、はいっ!」

 声の主は、編集二課の先輩――玲央さん。
 黒縁のメガネ越しにのぞく灰色の瞳、端正な横顔。
 噂では、恋愛経験は多いけど誰とも長く続かないらしい。
 つまり、“恋愛強者”である。

 俺は、そんな人を前にすると心拍数がアップデートされる。

「ここ、句読点が多い。作者のリズムを殺してる」
「あっ、すみません!」
「……いや、直しておいた。いい感性してるけど、勢いで突っ走る癖あるな」

 さらりと原稿を置いて去っていく。
 冷たいようで、ちょっと優しい。
 あれ? これ、もしかして俺、また――

「(恋、してる……)」

 まさか二週間前に既読スルーで死んだばかりの心が、もう再起動してるとは。
 俺の恋愛システム、リセットボタン軽すぎる。

 その瞬間、胸の中でピコンと音が鳴った。
(あ、フラグ立った……)
 予感どおり、スマホが勝手に起動し、ピクルが現れた。

「真白さん、恋愛波動を検知しました。新イベント:“職場恋愛クエスト”発生!」
「いや、まだ始まってないから!」
「対象:玲央(編集二課主任・28)。観測データ取得中……」

 なんで職場恋愛を観測されてるの俺!?
 俺の人生、どこから実況されてるの!?

 ピクルは悪びれもせず続ける。
「共感波レベルD、上昇率良好。……ただし、暴走注意です」
「暴走って何!?」

 と、その瞬間――。
 玲央さんがすぐ後ろを通りすぎた。
 ふわっと、シャツの柔軟剤の香り。
 同時に、頭の中に声が響いた。

 > (締切のたびに、あいつの焦る顔がちょっと面白いんだよな)

 え、えええ!?
 今の、玲央さんの心の声!?

「(やばい、聞こえてる聞こえてる!)」
 俺は慌ててキーボードを叩くふりをした。
 どうしよう、これ以上聞いたら心臓が持たない。
 というか、“面白い”って何!? 俺、職場のバラエティ枠!?

 そこへピクルの声がポンと飛び込む。
「真白さん、新スキル《恋心感知》が発動しました!」
「やめろ! 職場で使うスキルじゃない!」

 だが暴走は止まらない。
 玲央さんが別の社員に声をかけるたび、彼の心の断片が微かに聞こえる。

 > (真白、集中しすぎて昼飯食ってないな)
 > (……あいつ、泣いたらすぐ顔に出るタイプだ。放っておけるわけないだろ)

 ……ちょっと優しい。いや、だいぶ優しい。
 そんなこと思ってたの?

 その優しさに、完全にやられた。
 気づけば、恋愛EXPバーが勢いよく伸びていた。

 しかし、その翌週。
 玲央さんは突然、部署異動になった。
 地方支社への出張を兼ねた長期赴任。

「え、いなくなる……?」
 聞いた瞬間、空気が少しだけ薄くなった……
 机の上のカップのコーヒーは、もう冷めていた。

 気づけば胸の奥がひどく痛かった。
 会話も、笑顔も、すべて“未完のまま”。
 ……また、失恋だ。

 ピクルのアプリが静かに開く。
 > 【失恋レベルアップ!】
 > 新スキル《感情翻訳》を獲得しました。

「……翻訳って、何を?」
「他人の“本音”を言葉に変換できます。ただし、真白さん自身の恋心も翻訳されてしまう副作用つき♡」

「副作用て!」
 でも、少し笑ってしまった。
 玲央さんの残した原稿を抱えながら、胸の中で小さく呟く。

「……俺、またレベル上がっちゃったよ」

 締切も恋も、簡単には終わらないらしい。
 それでも――次に誰かを好きになる勇気だけは、確実に増えていた。
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