『恋のアラカルト:BL・超短編集』~どの恋が好き?~

るみ乃。

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『プリズムの恋、ノイズの愛――九条くんと僕の二つの物語』

『シャッターが砕いた境界線 ・ モノクローム・ノイズ』

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 雨の日は、嫌いだ。
 すべてが……ぬかるみに沈んでるみたいで、
 呼吸をするたびに湿った肺が重くなる。
 
 僕、佐伯理人(さえき りひと)がカメラを握る理由は、
 世界を愛しているからじゃない。
 指先に感じる、冷たく硬質な金属の感触だけが、
 不安定な僕を「こちら側」に繋ぎ止めてくれる唯一だから……

 ファインダーの硝子越しに世界を観測している間だけ、
 僕は誰からも傷つけられず、
 透明なカプセルの中に、自分を閉じ込めていられる……
 
 放課後の図書室。
 一番奥、本棚の影が長く伸びて、外の光が届かない場所。
 そこが僕の唯一の聖域だった。
 ……はずなのに。

「…………っ」
 
 息が詰まった。
 
 九条陣(九条陣)、学校の暴力の化身。
 近づくものすべてを粉砕すると噂される男が、
 百科事典を膝に置いたまま、窓の外の雨を見つめていた。
 開かれているページは『深海の暗闇』。
 光の届かない場所で、誰にも見つからないまま生きる、
 奇怪で孤独な異形たち。

 彼の横顔には、いつもの獰猛な牙の代わりに、
 今にも音を立てて崩れ落ちそうな「欠落」が貼り付いていた。
 それは、僕が鏡の中の自分を見るたびに触れてしまう、
 埋めようのない空白と、驚くほどよく似ていた。

 ……同じだ……撮りたい。この、壊れそうな静寂を。

 呪いみたいな衝動。
 この鮮やかな世界にどうしても馴染めない、「異物」の匂い。
 僕は震える指でシャッターに触れた。

『カシャリ。』

 図書室にはあまりにも不釣り合いな、小さく、けれど残酷な音。
 それは僕たちの間にあったはずの硝子の隔壁を、容赦なく砕いた。

「……あ? テメエ、何してんだ。死にたいのか、佐伯」
 
 地を這うような低い声。九条が椅子を鳴らして立ち上がる。
 逃げなければ。そう思うのに、足が床に縫い付けられたように動かない。
 彼の瞳にある圧倒的な「孤独」に、僕の魂が共鳴してしまったから……
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