『恋のアラカルト:BL・超短編集』~どの恋が好き?~

るみ乃。

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僕が恋した君は人間じゃなかった

『屋上で、半妖がポンコツ宣言』コメディ編

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 笑いの発作がようやく一段落したあと、
 屋上に少しだけ「まともな」静けさが戻ってきた。
 風がフェンスをかすかに鳴らし、遠くの幹線道路を走る車の走行音が、
 まるで海のさざなみのように低く響いている。

 ハズキは照れたように視線を逸らしながら前髪をいじり、
 先ほど動画で見た「耳」が生えるあたりを、所在なげに押さえた。

「……やっぱ、引いたよな。こんな、わけわかんないカミングアウト」
「いや、引くっていうか……」

 俺は言葉を選んだ。

「俺が知ってる『オオカミ男』の方向性と、あまりに違ったから」

「どんなの想像してたんだよ」

「もっとこう……月の光を浴びて筋肉が盛り上がって、血と闇を撒き散らしながら咆哮するような、本格的なやつ」
「それ、完全にホラーじゃん!怖いわ!」

 ハズキは食い気味にツッコミを入れる。

「俺は超・平和主義。血とか無理。
 健康診断の注射ですら気絶しかけるんだぞ」
「人狼の意味、あるのかそれ……」

「あるよ! 鼻がきくから、給食のメニューを午前十時に当てられるし!」
 
「それ、ただの食いしん坊の犬だろ」

「あと、めちゃくちゃ猫舌!」

「猫?オオカミだろ……弱点じゃねーか」

 また、ふっと笑いがこぼれる。
 けれどハズキは、そこでふいに笑うのをやめ、真剣な表情へと切り替えた。

「……でもさ」

 フェンスの向こうに広がる夜景を見つめながら、
 ぽつりと落とした声は、先ほどまでの軽薄さが嘘のように重かった。

「俺、だいちに黙ってたの、結構しんどかった」

 その一言で、だいちの胸の奥がきゅっと締め付けられる。

「嫌われたらどうしようとか、化け物扱いされて逃げられたらどうしようとか……そればっかり考えてた」

 ハズキは、自分の手をぎゅっと握りしめる。

「だから今日、言うって決めた。
 もし、これで距離を置きたいって言うなら、俺はそれでも……」

「好きだよ」

 彼の言葉を遮るように、真っ向から投げつけた。

「…………え?」

 ハズキの思考が、物理的に停止した音が聞こえた気がした。

「前から、ずっと。お前がカミングアウトする、もっと前からだ」

 口にしてみると、心臓が爆発しそうに熱い。
 それでも、今さら一歩も引く気はなかった。

「人間じゃなくても、オオカミ男でも、動画に出てたのがワンコに見えちゃうくらいのポンコツだろうが」

「ポンコツって言うな!」

「関係ない」

 一歩踏み込み、ハズキの瞳を真正面から見据える。

「俺は、ハズキが好き」

 数秒の沈黙。
 屋上の空気が、先ほどとは違う意味で張り詰める。
 次の瞬間、ハズキは真っ赤になって顔を覆った。

「ちょ、ちょっと待って! ストップ! 情報量が多い! 処理落ちする!」

「……何がだよ」

「いや、今、俺が全力で振られて、
『あーあ、種族の壁は越えられなかったなー!』って、
 やけ食いするターンだと思ってたから!」

「なんで勝手に悲劇のヒロイン気取ってんだよ」

「だって俺、オオカミ男だぞ!? 怪異だぞ!?」

「さっきから聞いてりゃ、給食を当てるのが特技の猫舌だろ。どこからどう見ても、お前はただのハズキだよ」

 ハズキは、ゆっくりと指の隙間から顔を出し、目をぱちくりとさせた。

「……え、じゃあ……本当に?」
「ああ」
「俺が、半妖でも?」
「うん」
「たまに、けも耳出てても?」
「ブラッシングしてやるよ」
「…………好き?」
「好き」

 数秒間、彫刻のように固まっていたハズキは、次の瞬間、耐えきれないといった様子で破顔した。

「なにそれ……反則だろ。それ言われたら、もう何も言えねーじゃん」

 その笑顔は、人間でも狼でもなく、ただの
 だいちの好きなハズキの顔だった……
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