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気分転換1
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よし、これで今日の仕事は終わりっと。
ちらりと時計を見れば定時の18時。他の人たちも各々帰宅の準備を進めている。
「立花」
荷物を整頓し、帰宅の準備が整ったところで声をかけられた。
「お疲れ、神谷」
「お疲れ。行ける?」
「うん。丁度いいタイミングだった」
「さすが俺」
自分で自分のことを褒めている彼をスルーし、お疲れ様ですと一声かけて会社を後にする。
「この前から気になってる店があるんだけど、そこでいいか?」
「いいよ」
案内されたのは私の家の最寄り駅から一駅先のところにある居酒屋。
「ここここ」
店の前まで来て、そう子どものようにアピールする彼。
そんなに来たかったのだろうか。ならば他の人と来ればよかったのではと心の中で疑問に思うものの、誘ってもらった手前そんなことは口にしない。
「いらっしゃいませー」
そんな元気な出迎えを受けながらお店に入り、席へ案内される。
個室とカウンターとあるのか。
案内されながらざっと店内を見渡し、そんなことを考える。
「それでは、ご注文が決まりましたらチャイムでお呼びください」
ぺこりと頭を下げ、店員さんは下がっていった。
「立花何飲む?」
「うーん」
メニューを見ながらそんな会話を交わす。
「ここの刺身、美味いらしいぞ」
「本当? じゃあお刺身7種盛りと日本酒かな」
そう言ったのはいいものの、初めて来たのになぜ美味しいことを知っているのだろうと疑問が浮上する。
「じゃあとりあえず頼むか」
チャイムを鳴らし、私はお刺身と冷酒をグラスで、神谷は生ビールと枝豆を頼んだ。
「……で、なんでお刺身が美味しいって知ってるの?」
「えっ!?」
まずい、って顔に書いてあるけど……。
「気になってたってことは来店は初めてだと予想。でもお刺身の味は知ってる。矛盾してない?」
「あー、いや……潤(じゅん)が言ってたんだよ。ここの刺身美味しいって。だから立花を連れて行きたいなと思って」
あー、なるほど。これでいろいろと謎が解けた。
「そういうことなら桐島(きりしま)も来ればよかったのに」
「俺と一緒じゃ不満なのかよ」
ムスッとした顔で彼がそう言う。
「ふふふっ、冗談だよ。ありがとう、誘ってくれて」
「おう!」
笑いながらもそう言えば、さっきまでの不貞腐れ顔はさようなら。無邪気に笑顔を見せてくる彼。
あー、こういう姿に女性は堕ちるのだろうか。
ルックスも良くて常識人で気遣いもできる。モテるんだろうなあ。
「えっ、何? 俺の顔になんかついてる!?」
彼をじーっと見つめながらそんなことを考えていれば、彼が勝手に想像し、勝手に焦り始める。
「なんでもないよ。何もついてないし、変でもないから安心して」
クスクス笑いながらそう告げれば、彼はホッとした顔で胸を撫で下ろす。
「お待たせ致しました。生ビールと日本酒、枝豆と刺身7種盛りになります」
「ありがとうございます」
「失礼致します」
「じゃあとりあえず、今日も仕事お疲れ様」
お互いにグラスを持つ。
「カンパーイ」
「乾杯」
お互いにグラスを近づければ、カランと音が鳴る。
この音が意外と好きだったりする。今みたいに静寂に近い空間の中で奏でられるこの音が。
なんだかんだで時は流れ、お互い良い感じにお腹も満たされ、酔いも回ってきた頃。
「それでさ、この前の取り引き先の担当の人がとっても良い人でさ、俺とあんまり歳変わんないと思うんだけど、なんかこう……大人って感じだったんだよ」
上手いこと言葉にはなっていないが、まあ言いたいことは大体わかる。
「神谷は今のままでも充分すごいと思うけど」
「えっ?」
「営業部のホープで、実績も着実と積んで、どんどん上に行ってる。だから、大丈夫だよ。周囲からの期待に応え続けるのは大変だけど、ちゃんと支えてくれる人もいるし、大丈夫」
「あー、なんで立花には俺の思ってることがわかっちゃうんだよ」
「これでも4年の付き合いだからね。大体わかるよ」
たぶん、周りからの期待が日に日に大きくなって、キャパオーバー寸前で、でも同期でライバルの桐島には言いたくなくて、でも自分でも消化しきれなくて私を誘った、そんなところだろう。社内でも2人は有名人だし、噂話とかで情報は耳に入ってきてたし。
「うん、立花に話してよかった」
「それはよかった。じゃあそろそろ帰ろうか」
「うん」
私たちは会計を済ませお店を出た。
「送ってくよ」
「いや、大丈夫。一駅だし、寄りたいところあるから」
「……そっか。じゃあまた会社でな」
「うん。お疲れ様」
店の前で神谷はタクシーを拾い、私は駅へ向かった。
ちらりと時計を見れば定時の18時。他の人たちも各々帰宅の準備を進めている。
「立花」
荷物を整頓し、帰宅の準備が整ったところで声をかけられた。
「お疲れ、神谷」
「お疲れ。行ける?」
「うん。丁度いいタイミングだった」
「さすが俺」
自分で自分のことを褒めている彼をスルーし、お疲れ様ですと一声かけて会社を後にする。
「この前から気になってる店があるんだけど、そこでいいか?」
「いいよ」
案内されたのは私の家の最寄り駅から一駅先のところにある居酒屋。
「ここここ」
店の前まで来て、そう子どものようにアピールする彼。
そんなに来たかったのだろうか。ならば他の人と来ればよかったのではと心の中で疑問に思うものの、誘ってもらった手前そんなことは口にしない。
「いらっしゃいませー」
そんな元気な出迎えを受けながらお店に入り、席へ案内される。
個室とカウンターとあるのか。
案内されながらざっと店内を見渡し、そんなことを考える。
「それでは、ご注文が決まりましたらチャイムでお呼びください」
ぺこりと頭を下げ、店員さんは下がっていった。
「立花何飲む?」
「うーん」
メニューを見ながらそんな会話を交わす。
「ここの刺身、美味いらしいぞ」
「本当? じゃあお刺身7種盛りと日本酒かな」
そう言ったのはいいものの、初めて来たのになぜ美味しいことを知っているのだろうと疑問が浮上する。
「じゃあとりあえず頼むか」
チャイムを鳴らし、私はお刺身と冷酒をグラスで、神谷は生ビールと枝豆を頼んだ。
「……で、なんでお刺身が美味しいって知ってるの?」
「えっ!?」
まずい、って顔に書いてあるけど……。
「気になってたってことは来店は初めてだと予想。でもお刺身の味は知ってる。矛盾してない?」
「あー、いや……潤(じゅん)が言ってたんだよ。ここの刺身美味しいって。だから立花を連れて行きたいなと思って」
あー、なるほど。これでいろいろと謎が解けた。
「そういうことなら桐島(きりしま)も来ればよかったのに」
「俺と一緒じゃ不満なのかよ」
ムスッとした顔で彼がそう言う。
「ふふふっ、冗談だよ。ありがとう、誘ってくれて」
「おう!」
笑いながらもそう言えば、さっきまでの不貞腐れ顔はさようなら。無邪気に笑顔を見せてくる彼。
あー、こういう姿に女性は堕ちるのだろうか。
ルックスも良くて常識人で気遣いもできる。モテるんだろうなあ。
「えっ、何? 俺の顔になんかついてる!?」
彼をじーっと見つめながらそんなことを考えていれば、彼が勝手に想像し、勝手に焦り始める。
「なんでもないよ。何もついてないし、変でもないから安心して」
クスクス笑いながらそう告げれば、彼はホッとした顔で胸を撫で下ろす。
「お待たせ致しました。生ビールと日本酒、枝豆と刺身7種盛りになります」
「ありがとうございます」
「失礼致します」
「じゃあとりあえず、今日も仕事お疲れ様」
お互いにグラスを持つ。
「カンパーイ」
「乾杯」
お互いにグラスを近づければ、カランと音が鳴る。
この音が意外と好きだったりする。今みたいに静寂に近い空間の中で奏でられるこの音が。
なんだかんだで時は流れ、お互い良い感じにお腹も満たされ、酔いも回ってきた頃。
「それでさ、この前の取り引き先の担当の人がとっても良い人でさ、俺とあんまり歳変わんないと思うんだけど、なんかこう……大人って感じだったんだよ」
上手いこと言葉にはなっていないが、まあ言いたいことは大体わかる。
「神谷は今のままでも充分すごいと思うけど」
「えっ?」
「営業部のホープで、実績も着実と積んで、どんどん上に行ってる。だから、大丈夫だよ。周囲からの期待に応え続けるのは大変だけど、ちゃんと支えてくれる人もいるし、大丈夫」
「あー、なんで立花には俺の思ってることがわかっちゃうんだよ」
「これでも4年の付き合いだからね。大体わかるよ」
たぶん、周りからの期待が日に日に大きくなって、キャパオーバー寸前で、でも同期でライバルの桐島には言いたくなくて、でも自分でも消化しきれなくて私を誘った、そんなところだろう。社内でも2人は有名人だし、噂話とかで情報は耳に入ってきてたし。
「うん、立花に話してよかった」
「それはよかった。じゃあそろそろ帰ろうか」
「うん」
私たちは会計を済ませお店を出た。
「送ってくよ」
「いや、大丈夫。一駅だし、寄りたいところあるから」
「……そっか。じゃあまた会社でな」
「うん。お疲れ様」
店の前で神谷はタクシーを拾い、私は駅へ向かった。
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