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気分転換2
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先程神谷と別れてから数十分後、私は電車で自宅の最寄り駅へ向かい、そのまま帰宅……ではなく、駅から自宅までの道中にあるいつものカフェへ寄り道。
チリンチリン
いつも聞いている音が店内に響く。
「いらっしゃいませ……あれ? 美樹ちゃん? 珍しいね、こんな時間に」
「こんばんは、店長」
そう挨拶をしながら、自身の特等席へ視線を走らせるが、そこには既に先客が。
「カウンター、いいですか?」
「老いぼれの話相手になってくれるのかい?」
「たまには店長とも話したいですから」
ニコッとそう笑いかけ、カウンターへ座る。
「飲み物、どうする? まだお酒飲む?」
……少し、驚いた。
「よくわかりましたね、私がお酒飲んでるって」
「いつもとは少し雰囲気違うし、顔もほんのり赤いからね」
……飲みすぎただろうか。いつもは人にお酒飲んでるって気づかれないのに。そのせいで会社の飲み会とかではよく飲まされるのだけど……。
「烏龍茶をお願いします」
「かしこまりました」
店長が烏龍茶を準備してくれている間にぼんやりと店内を確認してみる。
やっぱり時間帯によって来る人も変わるのか。いつもの時間に来た時は結構見たことある人見るけど、今は全くだ。
夜はカフェ兼バーなためか雰囲気もちょっとシックな感じで『大人』という印象を受ける店内。
でも一番気になるのは……。
「お待たせ致しました、烏龍茶になります」
店長が烏龍茶を差し出した。
「ありがとうございます」
烏龍茶を受け取り、一口口に含んだ。
「あの、店長……私がいつも座ってる席にいるお客さんって、常連さんですか?」
「ああ、何を見ているのかと思ったら、恭弥(きょうや)君を見てたのか」
名前を知っているということは、やはり常連さんか。
「毎日丁度美樹ちゃんと入れ違いで来てくれるんだ。彼が、どうかしたの?」
「いえ、ただ……纏っている雰囲気が独特というか、目が……離せないんです」
何故だろうか?
遠目からだからあまりわからないけど、漆黒の髪と青色の瞳と黒縁メガネ、世間一般から見ても、容姿は整っていると思う。
「ふふふっ、美樹ちゃんもしかして、一目惚れかい?」
クスクス笑いながら楽しそうにそう言う店長。
「冗談はやめてください。そんなんじゃないですよ」
一目惚れなんて、ね……。
「店長、会計お願いします」
閉店間近。お客さんも疎らになり、私もそろそろ帰ろうかと思っていた頃、後ろからそう声が聞こえた。
「いつもありがとう」
そう言い店長はレジへ。
その様子をぼんやりと視界に映し、私も帰ろうと鞄から財布を取り出した。
「コーヒー、美味しかったです」
「ありがとう」
そう一言添えて、先程まで私がよくいる特等席で本を読んでいた男性はお店の外へ足を進める。
ふと視界に映る、何かが落ちた気配。
「あのっ、すみません」
急いで席を立ち、落ちた物を拾った。
「はい?」
「これ、落とされました」
差し出したのは青空がプリントされた綺麗な栞。
「ああ、ありがとうございます」
彼はこちらに向き直り、そう言って栞を受け取った。
彼の手には先程まで読んでいたであろう本が握られており、栞はそこから落ちたのかと推測。
「その本、この間出たばかりの新刊ですよね! 事件の内容はもちろんそれぞれのキャラの心情とかからも目が離せなくて、私もそのシリーズ好きなんですよ!」
自分が今読んでる本と同じことについ興奮し、勝手につらつらと話してしまった。
「……すみません、初対面の方に図々しく……」
「……いえ、少し驚いてしまっただけです。歳のせいなのか、あまり人と本の話をする機会は少ないもので」
「私もです。ここくらいでしか本の話はあまりしないので」
働き始めると疲れてそれどころではないことも多々あるし。
「栞、ありがとうございました」
「いえ、大丈夫……です」
無意識に下に向けていた視線を彼に向ければパチリと目が合い、つい、動揺してしまった。
遠目から見た時は青い瞳だと思った。でも、今は違う。先程まで付けていたメガネは外され、目がより鮮明に私の視界に映される。
青よりも、もっと深くて、綺麗……まるで海の中にいるような……。
「では、これで失礼します」
彼は何事もなかったかのように、今度こそお店から出ていった。
逸らせなかった、あの瞳から。捕えられて、逃れられない。あの瞳に、飲み込まれる……。
「美樹ちゃん? 大丈夫かい?」
店長が不動になっている私を心配してそう声をかけてくれるが、私はそれどころではなくて……。
心臓が、うるさい……。興奮しているのか、すごく、ドキドキしてる。
あの日私は間違いなく、あの海に溺れた。
チリンチリン
いつも聞いている音が店内に響く。
「いらっしゃいませ……あれ? 美樹ちゃん? 珍しいね、こんな時間に」
「こんばんは、店長」
そう挨拶をしながら、自身の特等席へ視線を走らせるが、そこには既に先客が。
「カウンター、いいですか?」
「老いぼれの話相手になってくれるのかい?」
「たまには店長とも話したいですから」
ニコッとそう笑いかけ、カウンターへ座る。
「飲み物、どうする? まだお酒飲む?」
……少し、驚いた。
「よくわかりましたね、私がお酒飲んでるって」
「いつもとは少し雰囲気違うし、顔もほんのり赤いからね」
……飲みすぎただろうか。いつもは人にお酒飲んでるって気づかれないのに。そのせいで会社の飲み会とかではよく飲まされるのだけど……。
「烏龍茶をお願いします」
「かしこまりました」
店長が烏龍茶を準備してくれている間にぼんやりと店内を確認してみる。
やっぱり時間帯によって来る人も変わるのか。いつもの時間に来た時は結構見たことある人見るけど、今は全くだ。
夜はカフェ兼バーなためか雰囲気もちょっとシックな感じで『大人』という印象を受ける店内。
でも一番気になるのは……。
「お待たせ致しました、烏龍茶になります」
店長が烏龍茶を差し出した。
「ありがとうございます」
烏龍茶を受け取り、一口口に含んだ。
「あの、店長……私がいつも座ってる席にいるお客さんって、常連さんですか?」
「ああ、何を見ているのかと思ったら、恭弥(きょうや)君を見てたのか」
名前を知っているということは、やはり常連さんか。
「毎日丁度美樹ちゃんと入れ違いで来てくれるんだ。彼が、どうかしたの?」
「いえ、ただ……纏っている雰囲気が独特というか、目が……離せないんです」
何故だろうか?
遠目からだからあまりわからないけど、漆黒の髪と青色の瞳と黒縁メガネ、世間一般から見ても、容姿は整っていると思う。
「ふふふっ、美樹ちゃんもしかして、一目惚れかい?」
クスクス笑いながら楽しそうにそう言う店長。
「冗談はやめてください。そんなんじゃないですよ」
一目惚れなんて、ね……。
「店長、会計お願いします」
閉店間近。お客さんも疎らになり、私もそろそろ帰ろうかと思っていた頃、後ろからそう声が聞こえた。
「いつもありがとう」
そう言い店長はレジへ。
その様子をぼんやりと視界に映し、私も帰ろうと鞄から財布を取り出した。
「コーヒー、美味しかったです」
「ありがとう」
そう一言添えて、先程まで私がよくいる特等席で本を読んでいた男性はお店の外へ足を進める。
ふと視界に映る、何かが落ちた気配。
「あのっ、すみません」
急いで席を立ち、落ちた物を拾った。
「はい?」
「これ、落とされました」
差し出したのは青空がプリントされた綺麗な栞。
「ああ、ありがとうございます」
彼はこちらに向き直り、そう言って栞を受け取った。
彼の手には先程まで読んでいたであろう本が握られており、栞はそこから落ちたのかと推測。
「その本、この間出たばかりの新刊ですよね! 事件の内容はもちろんそれぞれのキャラの心情とかからも目が離せなくて、私もそのシリーズ好きなんですよ!」
自分が今読んでる本と同じことについ興奮し、勝手につらつらと話してしまった。
「……すみません、初対面の方に図々しく……」
「……いえ、少し驚いてしまっただけです。歳のせいなのか、あまり人と本の話をする機会は少ないもので」
「私もです。ここくらいでしか本の話はあまりしないので」
働き始めると疲れてそれどころではないことも多々あるし。
「栞、ありがとうございました」
「いえ、大丈夫……です」
無意識に下に向けていた視線を彼に向ければパチリと目が合い、つい、動揺してしまった。
遠目から見た時は青い瞳だと思った。でも、今は違う。先程まで付けていたメガネは外され、目がより鮮明に私の視界に映される。
青よりも、もっと深くて、綺麗……まるで海の中にいるような……。
「では、これで失礼します」
彼は何事もなかったかのように、今度こそお店から出ていった。
逸らせなかった、あの瞳から。捕えられて、逃れられない。あの瞳に、飲み込まれる……。
「美樹ちゃん? 大丈夫かい?」
店長が不動になっている私を心配してそう声をかけてくれるが、私はそれどころではなくて……。
心臓が、うるさい……。興奮しているのか、すごく、ドキドキしてる。
あの日私は間違いなく、あの海に溺れた。
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