非日常的日常は平穏とは言えない~間違って覚醒したのが淫魔の血ってどういうことですか?~

市瀬雪

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10.意識がある中で

♥(8)

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「ふ……っぁ……」

 ジークの口から上擦った吐息が漏れる。抜き去られた指を追うように、腰が勝手に揺らめいた。
 ほっとすべきところなのに、もどかしい喪失感が否めない。例えるなら、自分の中にもう一人、別の自分がいるようで、そんな感覚矛盾に頭がいっそう混乱する。

「出したい、というだけなら、これで終わりだ」

 うつろなジークの双眸を、アンリの冷ややかな瞳が見下ろしていた。
 ジークの視界に遅れて輪郭が戻る。努めて視軸をアンリに合わせると、ごくりと勝手に喉が鳴った。

「お……終わり……?」
「お前の望みはここまでだっただろう」

「俺……の、のぞ……」

 喉が渇いているせいだろうか。思うように声が出ない。

「私は優しいからな。お前の言葉にはちゃんと従ってやる。……これで満足したのだろう?」

 水を向けられ、ジークは一瞬押し黙る。
 確かに「出したい」と言ったのは自分だ。だってそれ以外にないと思ったから。出してしまえば、全てが普通に解消されると思っていた。

 だけど、実際には何一つ満たされたようには思えなかった。どころか、その欲求はより強くなった気がする。
 出した直後だと言うのに、頭は一向に冴えていかない。身体から熱が引かない。萎えることなく張り詰めたままのそれが、ますます嵩を増してそそり立つ。
 反動のように渇望しているそれを、その答えを、ジークはまだ掴めなかった。掴めなかったが、

「満、足……。――じゃ、ない場合は、どうしたら……?」

 ジークにはもうそう答えるしかなかった。
 その縋るような声音は、ひときわ甘く誘うような色を帯びていた。
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