幸せという呪縛

秋赤音

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どうぞ、幸せでいてください

2.新しい自分に

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僕には友人がいる。
文武両道、穏やかで、優しい。
「理想」であり、「普通」の人だ。
周囲は楽しい盛りばかりの15歳が多い中、珍しく色のある噂が無い。
趣味は読書で、早寝早起き。
掴み所があるようで無い青年、だった。

放課後。
部活が終わって帰ろうとする肖を見つけた。
肖は僕を見て微笑む。
その優しさに、思わず涙がこぼれた。

「どうしました?」

慌てる肖は、僕の隣に立つ。

「肖。また、ふられた…カッコ悪いとさ」

「どこがカッコ悪いと?」

「…すべて、だって。
どうしたらいいの…」

いつもそうだ。
くだらないことでも、最後まで聞いてくれる。

「友は、どうしたいんですか?」

申し訳ないと思い、離れようとする。
そのままお礼を言って別れようと思った。
しかし、その真剣な声に足が止まる。

「かっこよく、なりたい」

「わかりました。俺でよければ、手伝います」

人を安心させるような穏やかさが肖にはある。

「ありがとう」

「早速だけど、この後、時間はありますか?」

「あるけど…」

「よかったです。
この後は、俺に任せてくれませんか?」

不安と緊張と楽しみは、
歩きながら話された目的地でさらに高まった。
『依昇』と書いてある文字札の家。

「ただいま」

「おかえ…兄さん。その方は?」

「友人。今から、『おめかし』するから手伝え」

玄関へ入ると、肖と似た雰囲気の女性が現れる。

「友。妹です。これから手伝ってもらいます」

「はい。お願いします」

肖の部屋に案内され、肖の妹さんと僕とで話し合いをした。
そして、鏡がある椅子に座ると目を閉じるように言われた。
合図と共に目を開けると、知らない自分がいた。

「…どうですか?」

「これが、僕?」

「眉を整えて…髪を櫛で梳いた後、
毛先をクリームで整えただけです」

「…すごい。よかったら、服も!
時間があるときでいいから、見てください!」

考えるより先に願っていた。
慌てて訂正しようとするが、言えなかった。
その顔が、静かに、あまりにも綺麗に笑っているから。

「わかりました。俺で、よければ」

「兄さん。私もいるからね!
あ…友さんは女子の目線、いらない?」

「いります!お願いします!」

「兄さん、楽しみだね」

「…はい、そうですね」

その声には、初めて聞く音があった。
嬉しそう、だった。
初めて見る不安定さ。
友人の新たな一面に驚いたが、それを知ったことで親近感が増す。

翌日。
肖兄妹を家に招くと、一緒に手持ちの服を見てもらった。
せっかくなので、合わせてもらった服装で家を出た。
お礼もかねて三人で食事をしている。

「ねえ…」

「肖。これ美味しい」

偶然にも肖の妹さんと同じ品物を頼んだ。
ニコニコと肖の隣で静かに食べているので、
きっと好みの味付けなんだろう。

「ちょっと…無視しないでよ」

「…香りだけで伝わります。今度、家でも作ろう」

肖が妹さんを一瞬だけ見た後、微笑んだ。

「ねえ、ってば!!」

大きな声に振り向くと、僕を振った元彼女がいた。
もう未練はなく、ただのクラスメイトでしかない。
それよりも、今は優先することがある。

「食事中なので、ご遠慮願えますか」

「…お知り合い?」

「クラスメイト。
それより、料理が冷めるから頂こう」

「そうですね」

「友。無視しないでよ!
振られたのが悔しくてイメチェンしたのよね?
良い感じだし、ちょうどフリーになったから付き合ってもいいわよ」

「お断りします。
他のお客様にも迷惑になるので、静かに移動してください」

「えええ!元彼女が言ってるのに!」

何かを言いながら店員さんに連れていかれるクラスメイト。
迷惑をかけたことが申し訳なく、聞けば二人も食べると言うので、
追加で三人分の食後のデザートも注文した。

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