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悔い
1.自棄
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「余命は、あと半年…もてばいいですが」
淡々とした声に応えたのは、小さな嗚咽と落胆の相槌だった。
翌週から三日に一度は届くようになった手紙は、
会いたいけど会えないと謝罪で締められている。
手紙すらこなくなり、一週間。
体が動く内は、と散歩を始めた。
少しだけ眩暈、少しだけ頭痛、少しだけ腹痛。
今日は三つしか痛みがない。
昨日は五つも痛いが、生きていた。
体で痛みがない部位を探す方が楽だったころもある。
これくらいなら、どうにかなる。
確信をもって、いつものように外に出た。
体力作りには欠かせない散歩。
何もしないで時間を過ごすのは嫌だった。
病後の回復途中だから無理はするなと、担当医が言っていた。
眩しい程が明るい青と浮かぶ白い綿から降り注いでいる。
日差しが反射して白く輝く建物を仰ぎながら歩いていると、
少しだけ喉が渇いた。
これくらいなら、と近くの休憩所まで歩く。
座って分かる少しの疲れ、体はあちこち軋むけれど、
これくらいなら動ける。
まだ大丈夫。
残りわずかな水を流し込んでゴミ箱へ捨てた。
私にだって意地はある。
できれば同年代の人と同じように、
『少しくらい無理をしても持つ』ようになりたい。
それはすぐに叶わないから、できている素振りだけ。
荒療治だが、やっていれば多くの体力が舞い込んでくると。
思いたかった。
敷地の外では制服を着た同世代らしい女性が歩いている。
重そうな鞄には何がつまっているのだろう。
責任、目標、苦労と憂鬱、達成感?
なんにせよ、知らないのだから想像も難しい。
ただ、その立ち姿は綺麗だと思った。
疲れたので座って景色を眺めていると、眩暈がした。
抗う前に抜けた力が戻ることはなく、
服越しに感じる地熱が温かかった。
目を開けると一面が灰色。
浮かんでいるのは身に覚えのある光景ばかり。
次々に消えては新しい映像が浮かぶ。
走馬灯?
死ぬ前に過去が流れていくと噂のものに似ている。
四方八方にあった映像が減り、一枚ずつ減っていく。
最後に流れたのは、綺麗な立ち姿。
灰色だけの場所に戻った場所は寒かった。
示されたように開けた一本の黒い壁の道。
光の無い場所に怖さはあるが、
留まっていても何もないので進んでみる。
歩くたびに寒さも感じなくなり、黒い場所に何も思わなくなった。
ふと、何かにぶつかった。
見渡しても黒いだけ。
おそらく、壁があるのだろう。
他にぶつかる場所を触れて探すが、当たるのは正面だけ。
立ち尽くしていると、体に痛みがないことに気づく。
あれだけ毎日どこかが痛んだのが不思議だ。
今なら何でもできるのでは。
物は試しだ。
走ってみる。
すぐに整う呼吸。
飛んで跳ねる。
これだけでは感じない疲労と痛まない足。
開放されたのだ。
長年の痛みから、ようやく。
嬉しくて壁のない方向へ走る、走る。
体が軽い。
夢中で走っていると景色が変わった。
白い場所。
そこにある一枚の映像。
どこかの病室らしい。
窓から入る光が白い壁に反射して二人の顔色を鮮明にする。
血色が良いとは思えない顔には疲れも見える。
「どうしよう」
「大丈夫。ここにいるから交代しよう」
今にも泣きそうな少女の肩を優しく撫でる青年。
知らないはずなのに見覚えがあった。
少女の手には何通かの手紙がある。
色とりどりの封筒には風情のある切手が貼られている。
何かを我慢して努めて穏やかな声の青年は、
一人になるとベッドの傍にあった椅子に座った。
「大丈夫。大丈夫だから」
話しかけている言葉は、言い聞かせるような声だった。
苦い色を必死に隠して笑っている。
辛くなった。
見ているだけなのに、
なぜか包まれた手の温かさが伝わってきた。
この感覚を知っていた。
はっきりとは思い出せないが、こんな顔をさせたくはない。
痛みを隠して他者を気遣えるこの人は、もっと報われるべきだ。
届かないと分かっていても、どうしてか、伸ばさずにはいられない。
私は痛みを抱える辛さを、少しだけ知っている。
少しだけだけれど、知らないよりはきっといい。
もし、私がわかる痛みなら少しでも優しい痛みになるように手伝おう。
私は祈る。
この願いが届きますように。
映像に触れた瞬間、足が支えを失った。
今まで経っていたのだと、地面には壁があったのだと。
黒い周囲に浮かぶ遠くなった白い場所に手を伸ばした。
淡々とした声に応えたのは、小さな嗚咽と落胆の相槌だった。
翌週から三日に一度は届くようになった手紙は、
会いたいけど会えないと謝罪で締められている。
手紙すらこなくなり、一週間。
体が動く内は、と散歩を始めた。
少しだけ眩暈、少しだけ頭痛、少しだけ腹痛。
今日は三つしか痛みがない。
昨日は五つも痛いが、生きていた。
体で痛みがない部位を探す方が楽だったころもある。
これくらいなら、どうにかなる。
確信をもって、いつものように外に出た。
体力作りには欠かせない散歩。
何もしないで時間を過ごすのは嫌だった。
病後の回復途中だから無理はするなと、担当医が言っていた。
眩しい程が明るい青と浮かぶ白い綿から降り注いでいる。
日差しが反射して白く輝く建物を仰ぎながら歩いていると、
少しだけ喉が渇いた。
これくらいなら、と近くの休憩所まで歩く。
座って分かる少しの疲れ、体はあちこち軋むけれど、
これくらいなら動ける。
まだ大丈夫。
残りわずかな水を流し込んでゴミ箱へ捨てた。
私にだって意地はある。
できれば同年代の人と同じように、
『少しくらい無理をしても持つ』ようになりたい。
それはすぐに叶わないから、できている素振りだけ。
荒療治だが、やっていれば多くの体力が舞い込んでくると。
思いたかった。
敷地の外では制服を着た同世代らしい女性が歩いている。
重そうな鞄には何がつまっているのだろう。
責任、目標、苦労と憂鬱、達成感?
なんにせよ、知らないのだから想像も難しい。
ただ、その立ち姿は綺麗だと思った。
疲れたので座って景色を眺めていると、眩暈がした。
抗う前に抜けた力が戻ることはなく、
服越しに感じる地熱が温かかった。
目を開けると一面が灰色。
浮かんでいるのは身に覚えのある光景ばかり。
次々に消えては新しい映像が浮かぶ。
走馬灯?
死ぬ前に過去が流れていくと噂のものに似ている。
四方八方にあった映像が減り、一枚ずつ減っていく。
最後に流れたのは、綺麗な立ち姿。
灰色だけの場所に戻った場所は寒かった。
示されたように開けた一本の黒い壁の道。
光の無い場所に怖さはあるが、
留まっていても何もないので進んでみる。
歩くたびに寒さも感じなくなり、黒い場所に何も思わなくなった。
ふと、何かにぶつかった。
見渡しても黒いだけ。
おそらく、壁があるのだろう。
他にぶつかる場所を触れて探すが、当たるのは正面だけ。
立ち尽くしていると、体に痛みがないことに気づく。
あれだけ毎日どこかが痛んだのが不思議だ。
今なら何でもできるのでは。
物は試しだ。
走ってみる。
すぐに整う呼吸。
飛んで跳ねる。
これだけでは感じない疲労と痛まない足。
開放されたのだ。
長年の痛みから、ようやく。
嬉しくて壁のない方向へ走る、走る。
体が軽い。
夢中で走っていると景色が変わった。
白い場所。
そこにある一枚の映像。
どこかの病室らしい。
窓から入る光が白い壁に反射して二人の顔色を鮮明にする。
血色が良いとは思えない顔には疲れも見える。
「どうしよう」
「大丈夫。ここにいるから交代しよう」
今にも泣きそうな少女の肩を優しく撫でる青年。
知らないはずなのに見覚えがあった。
少女の手には何通かの手紙がある。
色とりどりの封筒には風情のある切手が貼られている。
何かを我慢して努めて穏やかな声の青年は、
一人になるとベッドの傍にあった椅子に座った。
「大丈夫。大丈夫だから」
話しかけている言葉は、言い聞かせるような声だった。
苦い色を必死に隠して笑っている。
辛くなった。
見ているだけなのに、
なぜか包まれた手の温かさが伝わってきた。
この感覚を知っていた。
はっきりとは思い出せないが、こんな顔をさせたくはない。
痛みを隠して他者を気遣えるこの人は、もっと報われるべきだ。
届かないと分かっていても、どうしてか、伸ばさずにはいられない。
私は痛みを抱える辛さを、少しだけ知っている。
少しだけだけれど、知らないよりはきっといい。
もし、私がわかる痛みなら少しでも優しい痛みになるように手伝おう。
私は祈る。
この願いが届きますように。
映像に触れた瞬間、足が支えを失った。
今まで経っていたのだと、地面には壁があったのだと。
黒い周囲に浮かぶ遠くなった白い場所に手を伸ばした。
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