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悔い
4.自戒
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後日。
苦い顔をする医者は、ため息をついた。
少し具合がよくなったから散歩に出ただけだったが、
この体は少しの長歩きすら難しいらしい。
「脱水、冷え、心拍の異常な乱れ、筋肉疲労…わかっていますか?
食事がしっかり摂れている人でも休憩が必要な状態でした。
死にたいんですか」
「どうせ半年なら、やりたいことをしたいです」
それは小さなことだった。
人並みよりも弱い体は日に日に衰え、
それでも何とか生きていた、らしい。
だんだんと食べることも難しくなり、弱るばかりだった、らしい。
人の時間と貴重な資源とお金を無駄に潰しながら生きてきたことは、
簡単に想像できた。
しかし、終わった。
終わりかけていた。
時折にあった『薬で済む程度の不調の勢ぞろい』は何度も経験したが、
どうにか命を繋いでいた、らしいが。
動ける程度には繋がることが当たり前だと思っていた、らしい。
慢心。
慢心で人生を終えそうになった。
『どうせ死ぬなら、どうせ退院できないならベッドの上でいい』と言っていた、らしい。
そして無理をしすぎた、らしい。
医者は、どこの誰かも分からない私に驚いた後で説明をくれた。
長いようで短い前置きの後、
ベッドに寝かされ家族が呼ばれた理由を説明してくれた。
家族と呼ばれた青年と少女は、涙をにじませた瞳で私の手に触れた。
「余命以上に生きる人もいます。
散歩は止めませんが、念のため、
しばらくはご家族に付き添いしてもらいます。
散歩ばかりではなく、何か勉強も始めていいですよ。
生きるために、頑張りましょう」
「お母さん。
私、散歩は好きだよ。
学校が終わったらくるから、絶対に、待っていてね。
今まで通り宿題はお母さんとするから、できることが増えたね」
聞けば中学生だと言った少女は楽しそうに笑った。
「お父さんだって仕事がない日は…」
「仕事がない日がない。忙しいの、知ってるよ。
病院の面会時間設定がちょうどいいだけ」
「友人と過ごす青春を過ごそうとは考えないのか」
散歩で倒れる体からすると、
少女を出産して入院するまででも育てたことが想像できない。
まず仕事はしていたのだろうか。
明らかに、あらゆる面で負担をかけている。
なにもかも分からない、が、家族仲は良いらしい。
傍で話す態度にあからさまな演技の気配はない。
演じるのが上手いだけかもしれないが。
「同じように過ごしていれば、なにか思い出すこともあるかもしれません。
焦らないで、過ごしましょう」
家族のやりとりを微笑ましそうに眺める医者は、穏やかに微笑んだ。
苦い顔をする医者は、ため息をついた。
少し具合がよくなったから散歩に出ただけだったが、
この体は少しの長歩きすら難しいらしい。
「脱水、冷え、心拍の異常な乱れ、筋肉疲労…わかっていますか?
食事がしっかり摂れている人でも休憩が必要な状態でした。
死にたいんですか」
「どうせ半年なら、やりたいことをしたいです」
それは小さなことだった。
人並みよりも弱い体は日に日に衰え、
それでも何とか生きていた、らしい。
だんだんと食べることも難しくなり、弱るばかりだった、らしい。
人の時間と貴重な資源とお金を無駄に潰しながら生きてきたことは、
簡単に想像できた。
しかし、終わった。
終わりかけていた。
時折にあった『薬で済む程度の不調の勢ぞろい』は何度も経験したが、
どうにか命を繋いでいた、らしいが。
動ける程度には繋がることが当たり前だと思っていた、らしい。
慢心。
慢心で人生を終えそうになった。
『どうせ死ぬなら、どうせ退院できないならベッドの上でいい』と言っていた、らしい。
そして無理をしすぎた、らしい。
医者は、どこの誰かも分からない私に驚いた後で説明をくれた。
長いようで短い前置きの後、
ベッドに寝かされ家族が呼ばれた理由を説明してくれた。
家族と呼ばれた青年と少女は、涙をにじませた瞳で私の手に触れた。
「余命以上に生きる人もいます。
散歩は止めませんが、念のため、
しばらくはご家族に付き添いしてもらいます。
散歩ばかりではなく、何か勉強も始めていいですよ。
生きるために、頑張りましょう」
「お母さん。
私、散歩は好きだよ。
学校が終わったらくるから、絶対に、待っていてね。
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焦らないで、過ごしましょう」
家族のやりとりを微笑ましそうに眺める医者は、穏やかに微笑んだ。
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